北米の道を力強く走る、ヘビーデューティピックアップ向けエンジン
2011年モデルのFシリーズ・スーパーデューティ向けとして投入された6.2L V8「Boss」エンジンは、それまで主力であった5.4LトライトンV8に代わる新世代の大排気量ガソリンエンジンである。開発のベースとなったのは、2008年にSVTが発表したオフロードレーサー「F-150ラプターR」の競技用ユニットであり、その後、市販F-150ラプター向けへと発展した設計を、高負荷・長寿命を重視するスーパーデューティ用へ最適化したものである。
基本構成はボア×ストローク102mm×95mmのビッグボアを採用し、総排気量は6210cc。シリンダーブロックには高剛性と耐久性を確保する鋳鉄を用い、シリンダーヘッドは軽量なアルミ合金製とすることで重量増加を抑制している。バルブトレーンはチェーン駆動式SOHCで、DOHCやマルチバルブ化がメジャーな現代としては極めて保守的な構成であるが、その分可動部品点数を減らし、高負荷連続運転時の信頼性や整備性を優先した設計思想といえる。
吸排気系では大径の2バルブレイアウトを採用し、低中回転域での吸気流速を確保することで実用トルクを重視。さらに、各気筒に2本のスパークプラグを配置するツインプラグ式ダイレクトイグニッション(Coil-on-Plug)を採用し、ビッグボア由来の燃焼距離が長くなりがちな燃焼室でも火炎伝播を均一化し、燃焼効率とノッキング耐性を高めている点が特徴である。また、吸気側には可変バルブタイミング(Ti-VCT)が組み合わされ、低回転域では力強いトルク、高回転域では十分な充填効率を確保する。
スーパーデューティ仕様では最高出力385hp/5500rpm、最大トルク405lb-ft(約549Nm)/4500rpmを発揮。数値上では高性能スポーツエンジンほど突出したものではないが、多量の荷物を積載して日常で走ることを前提としたセッティングにより、発進時から厚みのあるトルクを発生することを最大の持ち味とした、アメリカの風土が生み出したエンジンである。現在は、“ゴジラ”の愛称を授けられた6.8L V8エンジンにその座を譲り、“Boss”はラインアップから消滅しているが、高回転性能を追求するのではなく商用用途にも耐える耐久性と扱いやすさ、そして長期間にわたり安定した性能を維持することを重視するという精神は今も受け継がれている。


フォード V8 Boss Engine 主要スペック
エンジン型式:Boss Engine
形式: V型8気筒SOHC(バンク角90度、水冷)
総排気量:6219cc
ボア×ストローク:102.1×95.0mm
圧縮比:9.8
最高出力:306kW/5500rpm
最大トルク:588Nm/4500rpm
過給の種類:×
シリンダーブロック/ヘッド材:鋳鉄/アルミ
吸気弁/排気弁数:1/1
バルブ駆動方式:ロッカーアーム
VVT/VVL:In◯/Ex◯/×
点火順序:1-3-7-2-6-5-4-8
(2011 F-150 6.2ℓ V8)

