「新哨戒艦整備計画」狙いは中国の進出に備える島嶼防衛だ【自衛隊新戦力図鑑|海上自衛隊】

海自ミサイル艇「はやぶさ」型4番艇「くまたか」。「はやぶさ」型は艇尾に対艦ミサイル4発を搭載、沿岸の基地を発進し高速で遠距離を駆け、相手を迎撃する。写真/海上自衛隊
海上自衛隊は現在、装備改革を実行中だ。護衛艦「いずも/かが」の『空母化』、イージス艦や汎用護衛艦と潜水艦の増勢、新型艦艇の整備などを行なっている。これら戦闘艦をサポートする後方支援態勢の整備も含まれる総合的な事業だ。計画艦のなかに「新哨戒艦」というものがある。これはナニか?

TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

「哨戒」とは、相手の攻撃に備え見張りをすること

海上自衛隊艦艇装備の整備計画のなかに「新哨戒艦(または単に哨戒艦)」と呼ばれるものがある。基準排水量約1920トン、全長約95m、最大幅約12m、主機関はディーゼル電気・ディーゼル複合推進方式(CODLAD形式)、最大速力約20ノット以上、これが「新哨戒艦」の基本要目だという。

「哨戒」とは、相手の攻撃に備えて見張りをすること、英語なら「パトロール」だ。巡回や巡視して回ることを指す。哨戒機という固定翼/回転翼の航空機があるが、空からパトロールする機種・機体だ。だから「新哨戒艦」はこれの船版で、海上パトロール艦といえるはず。

「新哨戒艦」のイメージ図。最新型護衛艦FFM「もがみ」型より小型で、日常的な警戒監視に効果的に対応することを主任務とし、長期航洋性を備え、自動化と省力化・省人化を図った艦艇になる。図/防衛省

防衛省が「新哨戒艦」に盛り込むテーマは、日常的な警戒監視に効果的に対応することを主任務とすること。そして長期航洋性を備え、自動化と省力化・省人化を図った艦艇であること、だ。

海上自衛隊が現在と将来に重要視していることは、常続監視や対潜戦等の各種作戦を効果的に遂行すること。
「周辺海域を防衛し、海上交通の安全を確保するよう、各種の艦艇整備事業を進め、海上優勢を確実に獲得・維持する」、これを実現できる新たな体制として必要なのが既存艦に加え近年就役した艦艇と、これから建造する艦艇ということになる。

近年就役した艦艇には、護衛艦「もがみ」型がある。「もがみ」型の艦種記号は「FFM」で、艦艇の分類「フリゲイト(Frigate)」を示すFFと、これに機雷戦(Mine warfare)や多目的(Multiple、Multipurpose)を意味するMを加えたものだという。つまり対機雷戦機能を持つ多目的護衛艦だ。
主要寸法は全長132.5m、全幅16.0m、深さ9.0m、排水量3900トン。汎用護衛艦としては小型だ。

海自はコンパクトな「もがみ」型や、さらに小型の「新哨戒艦」と、小さな護衛艦を多数整備する計画だ。睨むのは「沿海域防衛」で、つまり島嶼防衛。具体的には南西諸島を主に有人離島海域を警戒警備し、中国の進出に備えること。

最新鋭護衛艦FFM「もがみ」型の5番艦「やはぎ」。2022年6月に進水した。「もがみ」型は全22隻を建造・就役させる計画で、現在1~2番艦が就役している。写真/海上自衛隊

前述した「新哨戒艦」の基本スペックを見るといかにも小型艦だ。全長は100m以下、排水量は2000トン以下。同じような寸法や諸元を海上保安庁の巡視船で探すと、2000トン型巡視船・PL「ひだ」型がある。

「ひだ」型巡視船は総トン数1800トン、全長95m、最大幅約12.6m、主機関はディーゼル4基・ウォータージェット4基、最大速力約30ノット以上、これが「ひだ」型巡視船の基本要目だ。
「新哨戒艦」のイメージは海保の「ひだ」型とすればいいのかもしれない。

海上保安庁の2000トン型巡視船・PL「ひだ」型2番船「あかいし」。「新哨戒艦」と似たサイズ、主要諸元を持つ巡視船。

最大の脅威は外敵にも増して、日本社会の少子高齢化

2018年12月、防衛省・海上自衛隊は哨戒部隊の新設を決めた。ここに「新哨戒艦」を配備してパトロール艦隊を作る。日本領海とその外縁部を汎用護衛艦やイージス艦が警備し、沿海域や沿岸部、島嶼部にはFFM「もがみ」型や「新哨戒艦」を投入する。こうした二段構えの防衛艦隊構成を海自は目指している。

いままで主に沿岸域でのパトロールを行なってきたのはミサイル艇「はやぶさ」型だった。「新哨戒艦」は「はやぶさ」型の後継艦に相当する。しかし「新哨戒艦」は、「はやぶさ」型のような高速遠距離迎撃・一撃離脱の対艦戦を重視しない。それは艦体サイズに見られる。約1920トンで長期展開能力を持つことは、たとえば尖閣諸島海域で一定期間留まって警備にあたる海上保安庁の1000トン~2000トン級巡視船と同様かそれ以上の運用構想なのだろう。

ミサイル艇「はやぶさ」型の前身「1号型ミサイル艇」。高速・迎撃のコンセプトは水中翼船の艇体で実現した。かなりトンがった存在だったが、2010年まで現役だった。写真/海上自衛隊

また、ヘリコプターが発着艦できる飛行甲板を備えることから、現場でのヘリ哨戒運用と、補給・連絡等の運用もできることになり、離島警備に必要な能力を確保していることになる。

過去、「新哨戒艦」の船体デザインには「三胴船(トリマラン)」案もあったがボツになったようで、単同船で落ちついた。防衛省の数年前のコンセプト図には、米海軍の沿海域戦闘艦(LCS:Littoral combat ship)「インディペンデンス」そっくりの三胴船案として描かれていた。米海軍LCS計画は三胴船の「インディペンデンス」と、単同船の「フリーダム」という2種類で進められ、省力化や省人化のコンセプトも盛り込まれたが、良い評価を得られなかったのか、うまくいかなかったようだ。

米海軍の沿海域戦闘艦(LCS)「インディペンデンス」。三胴船の艦体は唯一無二の存在感。製造そのものやメンテナンスなどに問題があるとされ、発展はされない模様。写真/米海軍

「新哨戒艦」のコンセプトや三胴船デザインも、LCSの意図するものと同様なので先行きが心配ではある。海上自衛隊最大の脅威は外敵にも増して、日本社会の少子高齢化にある。数十年前からわかっていたことだが、日本の内部にあった構造が脅威になってしまった。護衛艦乗員の充足率は厳しくなるばかりだ。

「新哨戒艦」の建造費用は1隻90億円とされている。イージス艦が1隻1800億円といわれた時代があったが、そもそもイージス艦と比べるのは乱暴ではあるものの「新哨戒艦」は比較的安い、かもしれない。

防衛省は建造先をジャパン マリンユナイテッド(JMU)で、下請負者を三菱重工に決定した。「新哨戒艦」はいまのところ全12隻を建造する予定だという。

著者プロフィール

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貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…