ドイツが「脱原発」を先送りに、さて日本は原発をどうする? この議論は議員だけに任せておけない

2014年7月に運転停止されたドイツ国内のグラーフェンラインフェルト原発(Grafenrheinfeld、2008年に筆者撮影)。
ドイツ政府は9月5日、国内で稼働している発電用原子炉3基のうち2基を「2023年4月まで稼働可能な状態を支持する」と発表した。本来ななら年内に運転終了の予定だったが、ロシアからの天然ガス供給がままならない現状では「原発を止められない」と判断した。現地では「原発を止めるべきかどうかの世論調査では、国民の8割が反対した」と報道された。国民の声で政治が動いた、ということだろう。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

ドイツは、23年4月まで原発「暫定延命」日本も方針転換?

ドイツの「脱原発」は、現政権の一角を担う政党「同盟90/緑の党」が以前から掲げる信条だ。この政党はかつて1990年末期から2000年代初頭にかけても連立政権に参加していた。その後、いったんは野党になるが、2011年の東京電力福島第1原発の事故を受けてドイツ国内で脱原発機運が高まったとき、当時のメルケル政権を揺さぶったのはこの政党だった。そして現在は、ふたたび政権与党の一画を占める政党だ。

前メルケル政権が「脱原発」を決めたのは2011年5月。福島の事故の2カ月後である。この短期決戦で同盟90/緑の党が力を発揮した。そして昨年12月にふたたび連立政権に加わり、この原発方針は「もう変わらない」と多くのドイツ国民が思ったことだろう。

グラーフェンラインフェルト原発 原子炉はドーム状建物の中にあり、ポンプを作動させる非常用発電機には外部からの吸気が不要のスターリングエンジンも使われると聞いた。フラスコ状の大きなふたつの建物は冷却塔で、通常は湖や河川の水を利用して蒸気タービンを駆動したあとの温水を冷却する。

しかし、ウクライナ戦争を機に、以前は「脱原発」を支持した国民が「原発を止めるな」へと変わった。当面は来年4月までの「暫定延命」だが、その先はどうなるだろうか。

ドイツの原発継続発表の1週間後、日本では岸田政権が次世代型原子炉を使った発電所の新設と現在の原発の建て替えを検討するよう指示した。これを受けての各種世論調査では、この首相指示を「評価する」人が「評価しない」人を上回った。

たとえば日本経済新聞社の調査では、ある意味で「原発推進」へと舵を切った岸田首相を「評価する」が53%、「評価しない」が38%だった。興味深いのは年齢層による意見の違いだ。18〜39歳では71%が「評価する」で、40〜50歳代はこれが54%に減り、60歳以上は47%に減る。

岸田首相の「指示」は、東日本大震災以降、原発の新設・増設はしないと国民に説明してきた政府方針の転換を意味する。震災前は原子力発電が一定の割合で電力の安定供給をしていた。「あのころに戻してほしい」と、若い人たちの7割が思っている。世論調査に携わっている知人に尋ねると「クソ暑い真夏に節電してくださいと言われるのはもうこりごり。この冬も電力は心配。そういう背景はいろいろな調査データから読み取れる」とのことだった。

社会のニーズは「寒くてひもじい思いだけはしたくない」「しかし電気料金が高くなるのはイヤ」

オマーンのカッザンにある天然ガス採取施設。天然ガス田は多くの場合、油田と重複する。(写真提供:BP)

今年の日本の冬は「例年より寒い」との長期予報だ。ドイツの友人たちに訊くと「すでに寒くなってきた。みんな電力の安定供給を求めている」と言う。世の中に出回る電力量と、それをどういう方法で得るかという「電力構成」については、調べれば調べるほど「深い話」になるし、政治がものすごく絡んでいる。しかし社会のニーズは「寒くてひもじい思いだけはしたくない」「しかし電気料金が高くなるのはイヤ」であり、簡単明瞭である。

ロシアからの天然ガス供給が激減しても、同盟90/緑の党は公約である「脱原発」は引っ込めなかった。しかし、ドイツだけでなく欧州全体がエネルギー不足に見舞われており、送電網が国境をまたいでいる欧州とはいえ、ドイツの電力不足をいつでも助けてくれそうな国が、果たしてあるかどうか。筆者の知人であるドイツ政府職員は「頼りになるのはポーランドの石炭火力だ」と筆者にメールしてきた。そういう試算があるらしい。

安定供給という点では火力に勝るものはない、ということだ。もちろんこれは、燃料さえあれば、という前提の話である。

ここからは、少々マニアックな話

ここからは、少々マニアックな話。

筆者は長年、欧州でのエネルギー関連の報道を追ってきた。ドイツに住む友人や仕事仲間からも話を聞いてきた。昨年12月、メルケル政権に代わる新政権が発足したとき、脱原発推進派は「これで完全に脱原発」と思い、少なからず存在する原発推進派は「決定だから仕方ない」と思いながらも、産業分野では「天然ガス火力があれば、とりあえず安心」というムードだったという。

しかし、その3カ月後にロシアがウクライナに軍事侵攻した。これに対抗してEU(欧州連合)が経済制裁を打ち出す。ドイツはロシアから天然ガス海底パイプラインを通じて天然ガスの供給を受けていたが、完成間近だった第2のパイプライン(ノルドストリーム2)をドイツは承認しなかった。これがドイツの制裁だった。するとロシアは既存の第1パイプライン(ノルドストリーム1)での供給も大幅に絞り込んだ。ドイツの制裁へのカウンターパンチだった。

水面が静かな湖に太陽光発電パネルを浮かべた発電所。将来主流のひとつだと言われている。(写真提供:BP)
神奈川県の酒匂川上流にある大又沢ダム。ゲートのない自然越流式コンクリートダムで、下流にある三保ダムへ水を供給する発電取水ダム。東京電力リニューアブルパワー株式会社が管理する。(写真提供:東京電力)

再エネ(再生可能エネルギー)だけでは「安定供給」にならない。原子力や水力で電力需要のベース(基礎)部分を担い、再エネを使えるときは再エネを使い、太陽が出ないし風も吹かないというときには「ほかの手段(バッファー)」で補う。こういう電力ミックス(電源構成)が各国・各地域の事情に合わせて行なわれている。

ドイツのベース電力は石炭(褐炭)と天然ガスの火力だ。再エネは全体の約40%をまかなえるが、再エネは「安定供給」ではない。アイスランドのように「気象に左右されない地熱発電」を使う場合はベース電力にできるが、人間の力がおよばない風力と太陽光・太陽熱には「代わりの手段」としてのバッファーを用意するか、あるいは「再エネが余る」ときに、何らかの手段で電力貯めておく手段を持っておかなければならない。現在は揚水発電が「貯めておく」方法の主流であり、蓄電池や水素転換はまだ実証実験段階である。

ドイツが9月5日に「脱原発の先送り」を発表する前は、天然ガス不足に対して「石炭火力を増やして対応する」と公言していた。旧知のドイツ人ジャーナリストによれば、この「原発を止めるから石炭を燃やす」という方針については「周辺国でもドイツ国内でも『何だそりゃ?』『CO₂削減が優先じゃなかったっけ?』という反応だった。」と聞いた。

しかし、11年前は違っていた。日本のフクシマでの原発事故は、ドイツだけでなく欧州各国に大きなショックを与えた。「あれだけきちんとしたハイテクの国でも、原発は自然災害に勝てなかった」と。ほとんど地震のない安定陸塊であるヨーロッパ大陸に住む人びとにとって、巨大地震というものは想像の範囲を超えていたようだが、フクシマの事故は強烈なインパクトだった。

東日本大震災のとき、筆者のところには海外から安否を気遣うメールがたくさん届いた。フクシマの事故以降は電話もかかってきた。真っ先に電話をくれたのは北京の中国メディアだった。「家を用意するから家族全員で中国へおいで」と誘ってくれた。オーストラリアのシドニーからもドイツのフランクフルトからも電話があった。それくらい、原発事故のインパクトは大きかったのだ。

ドイツでは、ZDFテレビで盛んに「フクシマ」の映像が流れていたそうだ。「やっぱり原発は危険だ」と、多くの人が感じたという。しかし、非常用発電機を作動させるためのディーゼルエンジンが津波で「水没した」ことが伝わると、エンジニア諸氏の間では「何だそれ?」になった。技術論ベースの考察は冷静だった。欧州でもフクシマ関連の論文はたくさんある。原子力の専門家諸氏を取材すると、日本の原発の「設計上の疑問点」をかなり指摘してくる。

ドイツは政治的に脱原発をめざした。政治に技術論は通用しない。しかし現在は、エネルギー不足という現実がここに「一時的な休止」をもたらした。果たしてドイツのエネルギー政策はどうなるか。BEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)が増えると、電源構成はどうなるのか(このテーマについては現在発売中のMotor Fan Illustrated で筆者が取り上げている)。電力が道路交通の面倒も見なければならない時代に突入しつつあるいま、この議論は政治や選挙で選ばれる議員にだけ任せてはおけない。もちろん、日本もまったく同様である。

Motor Fan illustrated Vol.192 電気自動車の正体

電気自動車と聞くと、皆さんはどのようなイメージを抱かれますか。クリーン、サイレント、スマート、プレミアム、アドバンスト——さまざまあると想像しますが、いずれもが従来のクルマに比べてという評価であると思われます。電気自動車はエンジン車とどこが違うか、何が同じか。本特集はそこに焦点を当てています。 

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一方で、エンジン+変速機構成の従来車に比べてシンプルな機械構成についても詳解。とくに日産・アリアで登場した「磁石を使わないモーター」とはどのような特質があるのか、電気自動車の生命線ともいえるバッテリーを有効活用するにはどのような構造や使い方がいいのかなどを図解しています。 

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著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…