クラウンクロスオーバー公道試乗。新しいクラウンの門出と、過去との潔い決別を見た!【新型クラウン試乗記】

トップパフォーマンスの「RS」グレードは今回はお預け。販売のメインボリュームとなる「G」グレードが試乗に供された。トヨタの中大型モデルでは定番の2.5LハイブリッドにE-Four(4WD)が組み合わされる。果たして、従来の伝統を脱ぎ捨てたスタイリングだけでなく、その走行フィーリングもまた、これまでイメージするクラウンとは異なるものだった。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)

新鮮なスタイリング、気になるのは乗り味だ

従来型とはまったく異なるスタイリングだが、圧倒的な存在感がある。

この夏のワールドプレミアでは、4つの新型ボディを登場させて話題をさらった新型クラウン。今回はその1番手として登場した「クロスオーバー」の「G」グレード“Advanced Leather Package”に試乗することができた。

新型クラウン(クロスオーバー)のラインナップは上位グレードとなる「RS」と、今回試乗した「G」、そしてベースグレード「X」の3種類。RSは2.4リッターの直列4気筒ターボに、トヨタ初のリヤ「eAXLE」を組み合わせた「デュアルブーストハイブリッドシステム」が目玉であり、「G」と「X」にはトヨタ王道の2.5直列4気筒ハイブリッドと、リヤモーターを組み合わせた「E-Four」(4WD)が用意される。

そう、そのどちらもが横置きエンジンを軸としたAWDだ。新型クラウンはその伝統であるフロントエンジン・リヤドライブ(FR)と決別したのである。

インテリアデザインも、従来イメージされる重厚さからは決別。外観に見合ったスタイリッシュさを手に入れた。
シフトセレクターなどの操作系は、集中配置でコンパクトなスペースにまとめられている。
コネクテッドナビ対応のディスプレイオーディオは、12.3インチHDディスプレイに表示。

気になるのは、当然その乗り味だろう。およそ70年近く続いた後輪駆動ベースの乗り味がこの新型にどう継承され、もしくは刷新されているのか? しかし筆者はまず新型クラウンとの初対面で、この大胆に様変わりしたデザインに惹きつけられてしまった。

一瞬SUVともみまごうそのスタイルは、正にクロスオーバー。開発陣いわく「リフトアップ・セダン」と表現した伸びやかなボディは、お世辞抜きに美しかった。見た目の善し悪しは受け手の感性に大きく左右されるから、これを評価として結論付けるのは難しい。しかし少なくとも新型クラウンを見た誰もが、「新しい」とは思えるだろう。

そしてこの新しさこそ、トヨタがクラウンに求めた「若返り」そのものなのだと実感した。若返りと言うと、すわ“20代”や“Z世代”をイメージしがちだが、そのエッジより曲面を強調したボディが、新しさだけでなく癒やしを求めるミドルエイジに狙いを定めていることも伺い知れる。実際試乗会場であるみなとみらい周辺で新型クラウンを走らせていると、スーツ姿の男性から熱い視線が突き刺さった。かたや若い子連れのお母さんや男女は、普通にやり過ごしていた。

新型クラウンのヒップポイントは630mmに設定。従来のセダンのように屈み込むことがなく、SUVのように身体を持ち上げることもない、自然で負担の少ないポジションが構築されている。
前後席間距離は1000mmと十分に広い膝前空間もFF化の恩恵か。

DRSの採用で最小回転半径はFRの先代以上に改善

さてようやく新型クラウンの走りについてだが、これが前述したデザインの影響を大きく受けていることは衝撃的だった。もちろん予想は付いていたことだが、少なくともこれまでクラウンが追い求め続けてきた、FRセダンの走りはもうそこにはなかった。

スターターボタンを押すと、エンジンは掛からずシステムだけが起動して、アクセルを踏めば静かに走り出す。アクセル開度が深まればエンジンが掛かるのは今まで通りだが、ピュアEVやバッテリー容量の大きなPHEVでなくともサイレントスタートできるのは嬉しいポイントだ。

そのシステム出力は172kW(234PS)と、1790kgの車重に対しては平凡な数値である。しかしエンジン(221Nm)と前後モーター(計323Nm)から得られるトルクは豊かで、ストップ&ゴーが主体となる街中で、その走りに緩慢さはない。

定評ある直列4気筒2.5LユニットとE-Fourを組み合わせる。モーター出力は、フロント88kW、リヤ40kWだ。

モーターも効率良く働いているのだろう、走り始めからの静けさは巧みにキープされ続ける。たとえエンジンが掛かったとしてもその瞬間がわかりにくく、サウンドはややゴロッとしているけれど、回さなければ音量も小さい。だから自然と、アクセルを踏み込まず運転するようになる。

80mm高められた運転席のヒップポイント(後部座席は60mm)、これがもたらす見晴らしの良さは、確かにかつてのクラウンでは得られないものだ。高めた車高を支える足周りはまだ走行1200kmの新車だと少し硬めだが、その乗り心地はスッキリ心地良い。この若々しい走りを足下で支えるのは21インチ(!)のミシュラン 「e・PRIMACY」だ。EV世代を見越した低燃費タイヤは、転がり抵抗「AAA」の実力よろしくスムーズに転がってくれる。ただしクラウン側の遮音が足りないのか、タイヤ径が大きすぎるのか、そのロードノイズは高級車をイメージすると、ちょっとうるさい。

FFベースの4WDでも取り回しが悪く感じられないのは、全グレードに標準装備されるDRS(ダイナミック・リヤ・ステアリング)の効果だ。ちなみにその最小回転半径は5.4mと、先代モデル(5.5m)よりもむしろ小さくなっている。

低速時には逆位相にリヤタイヤがステアする(写真の状態)。クルマが停止すると、リヤステアも0°に戻るのが目視でわかる。

高速巡航に入っても、こうしたフィーリングは変わらずに続く。パワーフローアニメーションを見る限り、80~100km/h巡航時はほぼエンジンによる前輪駆動。追い越し等でアクセル開度を深めると瞬間的にリヤモーターを駆動するが、まっすぐ走る限りはフロントで引っ張っる走りが主軸となる。まずこのフィーリングが、これまでのクラウンとは違うところだ。

逆に、加速で4気筒エンジンがうなりを上げるのは、これまで通り。エンジンそのものはとても精緻に回っていおり、その回転上昇感も極めてクリーンだが、そこまでの静粛性が一気に失われる唐突さは、やっぱり残念である。2.5リッターの自然吸気エンジンであることや、直結ギア比との関係もあるかもしれないが、であればもう少しバルクヘッド周辺の静粛性を高めてくれると嬉しい。もっともそれ以上にタイヤのロードノイズの方が耳障りではあるのだが。

最も大きな変化を感じたのは、コーナリングフィール

リヤからのさらなる「押し出し感」も欲しくなってしまう。そちらは「RS」に期待か。

よく言えばそのハンドリングは若々しくスポーティだが、意地悪く言えば前輪で運転している感覚が強すぎ、操作感もややビジー。ターンイン時の動きがクイックなのは大径タイヤの影響だとしても、ターンミドルでアクセルを一定に保つようなロングコーナーで舵が座らず、車体の動きに対して細かい修正舵が必要になる。

もちろんこれこそが、AWDとはいえ前輪駆動が主体となった影響だろう。さらに言うとそこには、DRSの制御も影響しているかもしれない。エンジニア氏によれば後輪操舵は、およそ60km/hを境に低速側がトーアウト方向、高速側がトーイン方向へ制御される。そしてスポーツモードだと、この閾値がさらに上がるという。

試乗車が標準の19インチであれば、もっとマイルドな動きになったのかもしれない。ただこの21インチこそが、新型クラウンの改革を推進したコアエレメント。極論すればこのタイヤでこのデザインを実現するためにFRプラットフォームを捨て去って、新型プラットフォームを採用したのだから、なんとしてもDRSと大径タイヤの協調制御はものにして欲しい。リヤ・マルチリンクの剛性感も高い印象だし、可能なはずだ。

またその駆動力も、クラウンを名乗るならもう少しリヤからの押し出しが欲しいと感じた。通常は燃費重視のモードで構わないが、いっそ「クラウンモード」を用意して、あのゆったりと癒やしのある走りを、デジタル再現したら夢があるのにと思う。ただどうやら現状でもリヤモーターの駆動力は、他のe-Fourよりも高められているようで、これ以上のトルクを出すにはモーターの冷却が必要になるという。また走りの質感については、「RS」のデュアルブーストに期待して欲しいとのことだった。

果たしてその第一印象だが筆者は、ここに新しいクラウンの門出と、過去との潔い決別を見た気がした。繰り返しになるがこれまで長らく続いた伝統的なクラウンの走りや雰囲気は、もはやない。

スタイリングの新しさ、美しさは、むしろ街中でこそ引き立っていた。

新しいクラウンはこれでいい

先代と変わらない2920mmのホイールベース、これがもたらす後席の居住性は極めて良好だ。トランクスタイルの荷室は利便性という点でSUVに一歩譲るが、だからこそこの美しいスタイルを実現できたわけであり、このトランク形状こそが、クラウンがセダンであることを示すアイデンティティである。そしてもしそこにより高い使い勝手を望むなら、後発の「エステート」がある。

ハッチバッククーペのようにも見えるスタイリングだが、トランクを見れば、リヤバルクヘッドが居室と荷室を明確に分ける「セダン」だとわかる。トランクスルーはセンター部のみ。開口部上下幅は狭め。ゴルフバッグが積みやすいように配慮されている。

筆者は完全に古いタイプであり、クラウンのようなフラグシップセダンにはFRの走りを求める。前輪を操舵、後輪を駆動とする運動性能の高さと自然さ。後輪から背中をじわっと押される感覚に、セダンならではの贅沢さを覚える。しかしこうした質感を、いまどれほどの人が求めているのだろうか? そこが求められていないからこそ、セダンはミニバンとSUVにその座を追われたのではないのか?

新型クラウンは、FR駆動を捨て去ってまでデザインのチカラによって状況突破を試みた。「リフトアップセダン」というジャンルに踏み込んで、大きな注目を浴びたことは賞賛に値する。ご存じの通りクラウンは「いつかは」と言われる存在だったが、「いつかは」って、いつ? ということである。トヨタが買って欲しいのは、今である。

60年を超える歴史の中で、従来の価値観を大きく転換させるクラウンの新章がはじまった。
TOYOTA クラウン CROSSOVER G “Advanced Leather Package”

全長×全幅×全高 4930mm×1840mm×1540mm
ホイールベース 2850mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1790kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:マクファーソンストラット式 R:マルチリンク式
タイヤ 225/45R21 

エンジン 水冷直列4気筒
総排気量 2487cc
内径×行程 87.5mm×103.4mm
最高出力 137kW(186ps)/6000rpm
最大トルク 221Nm(22.5kgm)/3600-5200rpm

フロントモーター 交流同期電動機
モーター型式 3MN
最高出力 88kW(119.6ps)
最大トルク 202Nm(20.6kgm)

リヤモーター 交流同期電動機
モーター型式 4MN
最高出力 40kW(54.4ps)
最大トルク 121Nm(12.3kgm)

燃費消費率(WLTC) 22.4km/l

価格 5,700,000円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…