目次
TEXT&PHOTO:赤木靖之(『キュリアス』編集室)(初出2020年6月22日)
元祖タフトの変遷とバリエーションは、過去2回にわたってカタログを用いてお伝えした通り。 では、どのタフトがベストバイなのか? 実際に買うかどうかはさておき、妄想をふくらませて脳内愛車を選んでみたい。 コレクターズアイテムとするなら、ヴィンテージ4×4の世界に片足を突っ込んだ横スリットグリルの初期モデルF10。 旅の相棒としては、燃費が良くて快適なF50やF60のバンだろう。 赤ボディのレジントップならRetro-Kawaii(レトロ・カワイイ)を狙えるかもしれないが、ディーゼル規制のおかげで今では渋谷や原宿に乗り付けることができない……。 結局のところ、走破性を含めた四輪駆動車としての乗りやすさ、万能さ、整備性から考えると、トヨタ製1.6ℓガソリンエンジンを載せたF20タフトグランをオススメしたい。 そこで今回の初代タフトを巡るお話は、過去に扱った実車を例に、乗り味や細部の様子をご紹介しましょう。
■写真で見る F20タフトグランはこんなクルマだった
この後期型(昭和53(1978)年式)は、ボートの引き揚げに使われていたらしく、程度が良くなかった。コースでの試走もつい荒っぽくなってしまい、タフトには申し訳ないことをした。アルミにワイドタイヤなんぞ履いていたので、ジムニーSJ30用ホイール+ミシュランXCL6.50R16に変更して挑んだ。濃い緑色は非オリジナル、元色は黄色。
1t少々の車重なら平気だろうと乗り入れたのが失敗だった。一旦埋まると、下回りのあちこちが地形に引っ掛かかって身動きが取れなくなるのがタフトの弱点かもしれない。オーバーハング延長の弊害もこの通り。左テールランプがこっぱみじんだ。
標準型と延長型の比較。幌車はこれによって定員4人と6人に区別される。バンは延長型のみで、貨物車の荷室面積規定のため4人乗りとなる。
NHK神戸放送局放出の後期型(昭和53(1978)年式)と、同じころ手元にあった前期型(昭和51(1976)年式)の顔つきの違い。グリルだけではなく、ファイヤウォールより前が全て新規プレスになっている。この前期型はファニーフェイスに加え、まぶしいレモンイエローに塗り直してあることで国籍不明、あるいは南国ムード。
前期型/後期型のテールランプ比較。どちらも無頓着にぶら下げてあるだけだから、大型化された灯具は割りやすくなってしまった。クロスカントリー四駆として詰めの甘さが散見される。
インパネに貼られた物品管理ラベルから、香川県の財田町役場で使われていたクルマと判明。なるほど南国育ちだ。現役時代からレモンイエローに塗られていたかは、わからない。幌ドアのスクリーン上部に、バイザー状の幕が縫い付けられているのは純正。気の利いた部分もあるのだ。
愛知県のダイハツディーラーで使われていた前期型は、オリジナルコンディションで走行1万kmの驚愕物件。旧規格の軽トラックと並ぶと大きく見える。新規格の軽トラックだと数値上のサイズは逆転する(参考・タフトF20S:全長3320mm/全幅1460mm vsミニキャブU19T:全長3290mm/全幅1390mm)
トヨタ製12R-J型エンジン。F10のFE型1.0ℓエンジンより大きく背が高い。点火系はもちろんポイント式ディストリビューター。
簡素なキャブレター。排ガス対策でダッシュポッドが備わる点が唯一の複雑化だろうか。もちろんマニュアルチョークで、電子制御は一切なし。
■F20タフトグラン試乗インプレッション
気温20℃、チョークノブは引かず、キーの一捻りであっさり始動。すぐ吹かしてもぐずつく様子もないため、ゆるゆると走り出す。 とにかくローギヤードだから、よほどクラッチ操作に不慣れなドライバーでない限り、エンストなんてしない。もっとも、この重たいロードホイール、駆動抵抗の大きなトランスミッション〜トランスファでは、乗用車流のギヤ比設定ではクラッチがもたない。 乗り心地は硬いが不快でもない。融通の利かない硬さではなく、高剛性フレームと比較的レートの低い板バネがそれぞれ役目を全うしている。つまり車体はヨレずたわまず、サスペンションだけで衝撃を吸収できている。 ジープやランクル40系が車体全体のしなりを生かした、トラック的で柔軟な走りを見せるのに対し、ソリッドな構造の日産パトロールや英国のランドローバーに通じる。 おかげで直進性も良好。コーナーリングもジープタイプ車なりの速度域なら、狙い通りの軌跡を描ける。大味そうな見た目に反し、遊びの少ない緻密な印象を得た。 ハンドルは重くない。腕にズッシリ来るのはディーゼルのF50以降の話だ。 駆動系の騒音は低い。昔の四輪駆動車は、エンジン音に加えてトランスファの唸りが騒々しいものだ。あるいは豪快なディーゼルサウンドにかき消され、歯車の奏でるノイズに気付かないなんてことも。乗用車用ガソリンエンジンを載せてこれなら立派だと思う。 もっとも、大戦中からほとんど変わらないジープや、昭和30年代から続投されるランクルの駆動系と比べても仕方ない。より若い設計なら、より精度が高いのは当然。ほぼ同じ駆動系がラガーにも使われた。 トランスミッションは昭和49(1974)年のタフト登場時からフルシンクロ。ジープもランクルも昭和48年に全車フルシンクロ化を済ませていたから当然の流れだ。 この手の車は、シンクロ付きでもダブルクラッチで回転を合わせてやったほうがスムーズなことが多い。タフトの場合はなにも考えずカチカチと決まる。 にょっきり生えた長いレバーでダイレクトシフトというのは、機械を操っている感じが強くて愉快だ。もっと渋くてコツがいるくらいが上等なのにと思ったりもする。
財田町役場レモンイエロー号は、少々くたびれてガシャついた回りっぷりだったが、パワーはあった。
ダイハツ専門店号は、まだ硬さの残る乗り味。この車は現在、新しいオーナーが極力オリジナルを残しつつレストアを行なっている。
最高速を試すとメーター読みで80km/hはすぐに出て、90km/hでも右足の踏み代を残している。しかし、幌のバタつきと前方から押さえつけられているかのような空力抵抗、ある舵角・ある制動域を境にガクンと薄れる接地感に恐れをなし、それ以上は出したくない。 高剛性フレームをもってしても精神的な速度限界が低いのは、狭いトレッドゆえ。背高の車体とノーズの軽さから横風にも煽られやすく、フワッと真横に持って行かれ手に汗握る。 ブレーキはノンサーボながら制動力に不足はない。前後ドラム式は強いのだ。そのタッチは思いのほか自然で、踏力に比例した効きを見せ、ジープのカックンブレーキより良い。でも深い水たまりじゃ、どうなるか知りません。 10インチのドラム、つまり摺動面積の大きさもタフトらしい余裕の現れで、「止まらない」とすればバイアスプライの下駄山タイヤのせい。雨の下り坂で急ブレーキを踏むと全輪ロックのまま直滑降、飛ばしてはいけない車だ。手に汗握るくらいで丁度良い。
ブレーキにマスターバックは備わらない。だからといって踏力を求められるわけではない。ドラムブレーキには自己倍力効果もある。後期のディスクブレーキ車ではマスターバックが標準装備となる。
純粋な下駄山が手に入らなくなり、溝にヒネリのあるトラック用6.50-16を装着している。排泥性はイマイチ。
いずれのF20でも林道走行を試した。軽トラ並みの車体寸法で狭い枝道にも躊躇なく乗り入れてしまう。当時のジムニーより一枚上手の頼もしさで、スタックした車を引っ張り上げる余力も持ち合わせる。初代のカタログにある文言、「日本の風土に本当に合った四輪駆動車」は伊達じゃない。 しばしばダートを飛ばして「オフロード性能」を寸評する向きがあるが、どうなのだろう? 日本の林道の規格、設計速度を考えたら、20km/hで心地良くトコトコ走れることに価値がある。そもそも林道は「道」だからオフロードではないのに…。 運転席に座ると幌を掛けたままでも閉塞的には感じない。F10よりかさ上げされたボンネットフードも他車に比べたら低く、前方にスラントして、ジープより窓の天地が広くて視界が良い。 布きれ一枚で外界から隔てられたテントのような居心地、ベンチレーターから吹き込む涼風を浴びながら走るストイックな、しかし不安のない楽しさ。これを今流のコンパクトSUVに求めるのは、蕎麦屋に行ってチーズバーガーを注文するようなもの。どちらが良いかではなく、そもそもカテゴリーが違う。 書籍でもweb上でも、タフトの走破性を低いとする記述が散見される。しかし私は全てそう言い切れないと思っている。 サスストロークが短いのはアクスルの短さゆえの宿命だ。定められた範囲内での動きは、むしろリーフリジッド式としては敏速な部類。捻じれを知らないフレームが接地性を補ってくれない走りは、ファジーさが少なく折り目正しく確実。 ゆえに、限界を超えるとあっけなくギブアップするのだ。コイルリジッド化された最初のジムニー(JA12/22)にも似ていて、ライバルに比べると少々異質で近代的と思える。 そして極限の地形では、ジープやジムニーには勝てないことも実感として得た。あの手この手で何度試してもだ。 腹下の処理のまずさ、絶対的に狭いトレッド、車格と骨組みのアンバランス。全体のまとまりに欠け、意のままに操れず、しっくり来ないことがある。「オフロード車はかくあるべき」の思想が伝わってこないというか、そんな考えは最初からないのかもしれない。タフトの特徴は頑丈であること、ジャストサイズであることの2点に尽きる。その中で好みのエンジンやボディタイプを選ぶだけの話だ。 念のため書き添えるなら、乗用車派生型SUVや、あまりに太りすぎた往年のRVの末裔よりは、ずっとよく走る。当時のライバルが強すぎたのだ。 1970〜80年代の先輩諸氏が、見積もりをもらいながらもジープやジムニー、ランクルに落ち着いたのは頷ける。それが現在の生存台数の少なさにつながっている。 次回はエンジン違いのブリザードを取り上げてみたいと思います。皆さんが飽きなければ……ですね! (初出2020年6月22日)
どこかチグハグな感じがしても、親しみやすく憎めないキャラクター。近年は部品供給が絶望的になってきた。覚悟のある人以外は手を出すべきではないかもしれない。
典型的なリーフリジッドの前足。クロスメンバーの丸穴はPTOウインチのシャフトを通すため。ステアリングリンケージは後期型からレイアウトが変わった。
後足も典型的だが、リーフスプリングの取り付け位置をハンガーでフレームの外に出し、安定性を確保している。三菱ジープも同様の手法ながら、アクスルの短いタフトの場合はストロークを犠牲にしてしまう。現代流のセンタースルー式ではないため、出力のオフセット分だけデフが右に寄っている。
立派なトランスファを後方から見る。前後軸への出力が横方向より縦方向に大きくオフセットしており、腹の下に出っ張り気味。ミッションメンバーも地形に干渉すると抵抗になりやすい形状で配慮に欠ける。サイドブレーキがセンタードラム式なのは当時の常套。ワイヤーの取り回しは……う〜ん。
最大の弱点は助手席下に設置された燃料タンクではないだろうか。「どうしてこんなところに!」と言いたくなる。容量はF10の32ℓから40〜48ℓへと順次拡大され、すべて同じようにクロカン走行の邪魔になる。タフトがジムニー並みにヒットしていたら、アフターマーケットでタンクガードが売れたことだろう。
簡素なダッシュボードというべきか、ダッシュボードが存在しないというべきか。ライバルも似たり寄ったりとはいえ、タフトはとりわけ素っ気ない。
当時、3点式ベルトを備えた幌型四駆は他になかった。シートは座布団レベル。リクライニング不可は当然として、スライドも長穴のネジを緩めるだけ。
自慢のデュアルサイドガードバー。幌ドアを幌骨ごと外しても太い2本のパイプが車体側に残り、安全バーとして機能する。
小さな1人用リヤシート。延長版では2人掛けとされる。
前期型のフロントマーカーは、いすゞエルフのテールランプの色違いのようだ。ヘッドランプはシールドビーム。末期にはセミシールドのハロゲンが選べた。
すきま風だらけの車体でもデフロスタで外気導入モードが選べる。そのためのスリットが左右にあり、右ハンドル車では左側のスリットが機能。
割り切ったテールゲートのロック。実は凝っていて、上部のコの字型のカンヌキと下部のロックピンが扉内部のリンクで連動する。現在ではPL法の観点から、操作時に指をはさみかねないコの字型のカンヌキの採用など不可能だ。