輸入SUV販売2位! VW T-Rocに追加された300PSの「R」は高揚感たっぷりのホットモデルだ!【フォルクスワーゲン T-Roc試乗記】

2020年に日本上陸を果たしたVWのCセグメントSUV「T-Roc」がマイナーチェンジ。わずか2年たらずのマイチェンは早すぎるように思われるが、本国での発売は2017年。しかも4年間でその世界販売台数は100万台を超えており、好調を保つためにフォルクスワーゲンがT-Rocを改良するのは、順当なメニューである。標準仕様の「Style」と、新追加の「R」に試乗した。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)

輸入SUV売上の1-2を成すフォルスクワーゲン

T-Rocは、この日本でもたいへん人気があり、昨年販売された輸入車のなかでは堂々6位、7241台を売り上げている。これは5位のゴルフ(7631台)に次ぐ数字であり、輸入車のSUVとしては2番手。さらに言えば輸入車のSUVでトップとなったのは、ひとまわり小さな弟分の「T-Cross」(9159台:総合2位)だ。

そんなT-Rocのマイナーチェンジポイントは、主に内外装の質感向上に当てられた。つまり動力性能的には、まったく変更なし。しかしながら今回のマイナーチェンジを機に2リッター直噴ターボ(300PS)に4MOTIONを組み合わせた「R」が日本市場でもラインナップされ、「Style」と共に、今回これにも試乗することができた。

というわけでまずは、1.5直列4気筒ターボ(150PS)を搭載する「TSI Style」の進化から見て行こう。全長4250×全幅1825×全高1590mm。そのスリーサイズは、前後バンパーの意匠変更により、全長のみが10mmほど長くなった(ディーゼルのR-lineは-5mm)。ホイールベースは2590mmだ。

全長4250mm、全幅1825mm、全高1590mm。ゴルフに対して、ワイド&トールで全長は短いという、ややずんぐりしたプロポーションを採る。写真は「TSI Style」

改めてそのサイズを見返すと、T-Rocはゴルフ(全長4295×全幅1790×全高1475mm)よりも全長が45mm短く、全幅は35mmワイドで、全高は115mmも高い。そしてホイルベースも、30mm短い。イメージ的にはゴルフのSUV版を思い浮かべがちだが、よりワイドでノッポで、ショートボディな、ずんぐりとしているけれどクーペスタイルのSUVだと言える。

クーペフォルムではあるが、ハッチバックに比べて、ややハッチの傾斜が強い程度だ。

ちなみにトランク容量は445ℓ、後席を倒して1290ℓだから、ゴルフの380/1237ℓに対しては大きくなっているが、横幅の広さや後部座席の余裕を考えると、ヴァリアント(4640×1790×1485mm トランク容量611/1642ℓ)の方が遙かに実用的で日本の道路にフィットする。それでもT-Rocは実質ヴァリアントより売れているわけだから、やはり背の高さ、ひいてはちょっとワイルドなSUVルックがユーザーにはウケているのだろう。

そんな新型T-Rocだが、外観ではLEDマトリクスライトとIQライトが採用され、ラジエターグリル内にはLEDクロスバーを搭載した。またバンパー形状が微妙に変わり、これまでシルバートリムだったバンパー両脇のグリルは、LEDデイライトのトリムに。そして下段グリルのフチには、シルバーのメッキトリムが施された。

リヤは、ダイナミックターンエンジケーターの採用や、バンパーのデザイン変更が行われている。
ラジエターグリルのLEDクロスバー、新デザインのフロントバンパーがおもな変更点。

それは実に、ジミな変更だ。しかしその控えめさこそがフォルクワーゲンらしくもある。そしてフロントマスクの印象は、確実にブラッシュアップされている。特にグリルとデイライトを結ぶ一本のLEDラインは、ボディのワイド感を未来的に強調できており、総じて前期型オーナーには、うらやましいポイントだと言えるのではないだろうか。

対してリアはバンパーの意匠変更と合わせて、コンビランプに“流れるウインカー”こと、「ダイナミックターンインジケーター」が採用された(ハザードも同様)。だがその変更は、フロント以上にわかりにくい。

インテリアの質感も大きく向上した

あのカチコチとしていたダッシュボードとドアパネルには、ようやくソフトパッドが採用された。また試乗車は加飾パネルにグレートーンを採用したことで、コストダウンを若づくりでごまかしていた前期モデルと比較して、落ち着き度合いがグッと増した。

センター配置のインフォメーションディスプレイをはじめ、インテリアの変更、質感向上には力が入れられた。

タッチパネル式のインフォテインメントは従来の8インチから9.2インチになり、エアコンの操作パネルも、使いやすいかどうかは別にして、現行世代のタッチパネル式となった。普通マイナーチェンジすると内外装は派手になったり、華美になりすぎるものだが、質感を上げながらもむしろその印象は、地味になったのだから面白い。昔気質の筆者としては、往年のフォルクスワーゲン風味が戻ったようで、少しホッとした。

走りは、相変わらずのキビキビ型

機関的には何も変更されていないのだから当たり前とも言えるが、サスペンションやブッシュといった乗り心地に影響する部分の剛性感に変化が感じられないのは、フォルクスワーゲンがこのキビキビ感をT-ROCの味として確定しているからだろう。

その乗り心地は、端的に言うと固い。だがSUVとしてストローク量を確保したその硬めな足周りは、路面からのハーシュネスを瞬時に減衰してくれる。むしろ突き上げに関しては、車高が低いゴルフより抑えが効いていると感じる。そしてこの硬さが、整った路面ではタイヤをスムーズに転がす。

エンジンは1.5直列3気筒と7速DSGの組み合わせが健在で、ゴルフで初採用されたマイルドハイブリッド機構はコンバートされていない。1350kg(パノラミックルーフ装着車)の車重に対して150PS/250Nmの出力は決してパワフルとは言えないが、日常の走りには十二分。7速DSGのギア比とTSIエンジンのキレ味が織りなす走りは相変わらず小気味よさ抜群で、前述した転がり抵抗の少なさをベースに、気持ち良く海岸沿いの国道をクルージングしてくれた。

TSI Styleが積むのは1.5Lガソリンエンジン。150PS、250Nmのスペックだ。TDI Styleを選ぶと、2.0Lディーゼルとなり、スペックは150PS、340Nm。最高出力は同値だが、トルクは大きくアップする。

リアシートにも試乗してみたが、その印象はひとこと「うまい!」だった。ゴルフより30mm短いホイルベースながら、身長171cmの筆者が座って膝周りには少し余裕があり、頭上も広い。なによりシートのサポート性が高く、脇と太ももがしっかりホールドされる。

決して広くはないのだが、狭いとも感じない。「うーん、悪くない」。そうつぶやかせてしまうあたりが、本当にうまい。乗り心地は前席同様はっきりと路面からの入力をお尻に伝えてくるが、硬めの足周りとシートで、雑味やブレが残らない。トレーリングアームでもここまでしっかり固めれば、走安性と乗り心地を両立できるのだと感心させられる。

いかにもフォルクスワーゲンといったしっかりと肉厚な印象のフロントシート。
前後よりも上下方向に広さを感じる後席空間。

総じてTSI Styleは、T-Rocのベストバイだと思えた。確かにTDIの燃費性能や低中速トルクの豊かさも迷いどころだが、この若々しいキャラクターには、キレ味楽しいガソリンエンジンの方が、合っていると筆者は思う。

やや固めながらたっぷりしたストロークを活かした走り。

19インチ装着のイケメンT-Roc-

日本市場初導入となるT-Roc Rは、まずそのイケメンぶりが印象的だった。サイズ的には前後バンパーの形状変更でStyleより全長が5mmほど長くなっており、19インチタイヤを装着しながらもその車高は20mm低められている。全幅は1825mmと変わらないのだが、それだけで塊り感がグッと増している。

ホイールサイズも2インチアップの19インチで、TSIとは違うクルマかのように雰囲気が異なるT-Roc R。キャリパーは専用のブルー。

ちなみにTDIに設定されるR-lineエクステリアも非常に似たバンパー形状だが、Rは走りのモデルよろしく両脇のグリルを冷却孔として開通させており、その脇にLEDライトを縦型配置する。全体的に余計な出っ張りや過剰なデコレーションもなく、むしろシルエット的にはこじんまりとしているのだが、立体的なグリルまわりが「R」を名乗るに相応しいすごみを、ほどよく効かせていた。

リヤフェンダーがグッと張り出したスタイリングは、「Style」よりも「R」によく似合う。

パワートレインは300PS/400Nmのパワー&トルクを発揮する2.0直列4気筒直噴ターボ「EA888 evo4」と7速DSGの組み合わせ。兄貴分であるティグアンR、そしてゴルフRに対しの出力は20PS/20Nmほど落とされており、4MOTIONのリアデフに「Rパフォーマンストルクベクタリング」は装着されない。

TSI、TDIの150PSに対して「R」は2倍の300PSというスペック。トルクは400Nmで、四輪駆動の4MOTIONを採用。

ボタンをひと押しするとエンジンは、期待通りの重低音で目覚める。しかしすぐさまエキゾーストフラップが閉じるのだろう、そのサウンドは収まり至って普通に走り出すことができる。乗り心地も、思った以上に普通だ。その足下に19インチのスポーツタイヤ(ハンコック ヴェンタスevo2)を履きながら、むしろ街中での乗り味はStyleよりも落ち着きがあるかもしれない。

バンパーがほぼブラックアウトされ、精悍な表情。
サイドインテークあたりが強調されたフロントバンパー。

これにはDCC(アダプティブシャシーコントロール)のダンパー制御が効いているだけでなく、リアサスペンションの4リンクによる剛性アップと、4MOTIONの自重がほどよくリアアクスルを抑え付けていることが理由だと思われる。

ハードなサウンドと乗り味を演出する「R」モード

ステアリング上の青い「R」ボタンを押すと、その乗り味はストイックさを増す。というかステアした際に意図せずRボタンを押してしまうとエンジンサウンドが“ブン!”と盛り上がり、突然乗り心地が固くなってちょっとビックリする。

ディンプル加工が施された、R専用マルチファンクションステアリングをはじめ、コックピットは同じT-Rocとは思えないほどスポーティな雰囲気だ。

「Race」モードに入ったダンパーは伸び側の減衰力が高まり、背の高いT-Rocの姿勢変化を抑えてくれる。ステアリングはビシッと座り、エンジンと7速DSGは臨戦態勢に。今回はこのパフォーマンスを楽しむステージに恵まれなかったけれど、高速道路の緩いカーブをひとつふたつクリアしただけで、かなりの安定感でこの速さを楽しめることがわかる。

コーナーでは横グリップがとても高く、ハンドルを切れば切っただけ素直に向きを変えながら、フロントタイヤがラインをトレースしてくれる。アクセルを踏めばレンスポンスよくターボの過給圧が上がり、4輪がギクシャクすることなくトラクションを掛けながら加速する。フワーッとエンジンが伸びきった先にパドルを引けば、“ヴォッ”と小さく点火カットサウンドが響き、運転していてワクワクできる。

「R」のロゴ入り専用ナパレザーシートを採用する。

しかし街中でいたずらにRモードに入れるのは、あまり得策じゃない。ダンパーの伸び側が強く制御される分だけ段差には弱く、その乗り心地があまり快適じゃないからだ。ちなみにティグアンRはRモードに限らず、全般的にもう少し乗り味がしっとりしていた。そこには車重もあるだろうが、これこそが車格差だと言えるだろう。

リヤシートもフロントシート同様の専用デザイン。インナーピラー、ルーフもブラック一色となり、雰囲気が一変する。

逆を言えばそのサイズ感も合わせて、身のこなしはT-Roc Rの方が機敏だ。もしゴルフGTIのようにダンパー制御を任意で調整できるモードがあれば、ノーマルモードとRモードの間が埋まってなおよいと感じた。

またT-Rocに後輪の左右トルクを適宜配分する「Rパフォーマンストルクベクタリング」が装備されないのも、正しい選択だと思えた。確かにT-Rocでドリフトできたら面白いが、果たしてどれだけのドライバーがそれを試すだろう? ティグアンRにはヒエラルキー的に必要なのかもしれないが、本当はゴルフRにだけ付いていればいい装備だと思う。

ボディカラーに有償オプションのラピスブルーメタリックを選ぶと、写真の専用ラピスブルーカラーパネルが付く。
トランスミッションは、全車ともお馴染みの7DSG。オフロードやスノーモード含め、4つの走行モードをセレクトできる。

果たしてその価格は626万6000円と高額な「T-Roc R」だが、本来これはかなり絶妙な値付けなのだと思う。北米と日本の収入格差がおよそ1.6倍ほどだとすれば、彼らにとっては400万円ほどでこのスペックが手に入るということになる。そう考えると、何やら色々納得できてくる。T-Roc Rは、シンプルに言って走りがすこぶる楽しく、実用性の高いコンパクトSUVだと評価することができる一台だ。

VOLKSWAGEN T-Roc R


全長×全幅×全高 4245mm×1825mm×1570mm
ホイールベース 2590mm
最小回転半径 ――m
車両重量 1540kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:マクファーソンストラット R:トレーリングアーム
タイヤ 235/40R19

エンジン 直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
総排気量 1984cc
内径×行程 82.5mm×92.8mm
最高出力 221kW(300ps)/5300-6500rpm
最大トルク 400Nm(40.8kgm)/2000-5200rpm

燃費消費率(WLTC) ――km/l

価格 6,266,000円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…