油断禁物、下り坂でのブレーキのフェード現象! 車重の重いSUVはとくに注意したい

観光バスの横転による死亡交通事故が起きてしまった。事故原因は不明ながら「フェード現象」による制動能力の低下が疑われている。この言葉を目にするのは教習所以来、というドライバーも少なくないだろう。はたしてフェード現象とは何が原因で起きるもので、どんなクルマだと起きやすいという傾向はあるのだろうか。
REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

ブレーキの摩擦材が高熱になって起きる

静岡県で観光バスが横転、残念ながら死者の出てしまった交通事故について、ブレーキの「フェード現象」が原因なのではないかという報道がされている。正式発表ではないので、事故原因についての言及はできないが、本事故を他山の石として、あらためて「フェード現象」について整理してみたい。

非常に簡単にいえば、フェード現象とはブレーキが高温になって効きが悪くなる、もしくはまったく効かなくなる現象をいう。

その原因は、ブレーキパッド(ディスクブレーキの場合)やブレーキシュー(ドラムブレーキの場合)といった摩擦材が高温になって分解をはじめ、ガスを発生させることにある。発生したガスが摩擦材と金属部分の間に入り込むことで設計通りの摩擦力が発揮できず、ブレーキペダルを踏んでも効かないという風な症状になってしまうのだ。

フェード現象の目安は摩擦材が300度を超えるくらい

一般的な乗用車でいえば、ブレーキパッドの温度が300度を超えたあたりからフェード現象が起き始める可能性がある。ただし、スポーツ走行用のチューニングパーツとして流通しているブレーキパッドであれば700~800度であってもフェード現象を起こさないような製品もある。

基本的にはブレーキを連続使用していなければ、そこまでパッドの温度が上がることはないだろう。強いブレーキングで温度が上がったとしても、そこからブレーキを使わなければすぐに走行風で適正温度まで下げることができるからだ。

そのためフェード現象というのは、ブレーキを酷使せざるを得ない長い下り坂などで起きることが多い。ちなみに、スポーツモデルが巨大なブレーキシステムを採用しているのは、サーキットの連続走行もフェード現象が起きやすいシチュエーションだからでもある。

サーキット走行もフェードが起きやすいシチュエーションだ。
タイヤに大きな負荷が掛かっている状況では、ブレーキにも酷使されている。

パッドやシューが減っていると起きやすい

今回、観光バスでフェード現象が起きたということで、フェード現象というのは重量級の車両で起きやすいと考えがちだが、そうではない。

たしかに、すべてのクルマが同じようなブレーキを備えているのだとすれば軽い方が有利だが、基本的にブレーキ性能というのは、車重に合わせて設計されているものだ。軽いクルマであってもブレーキを酷使すればフェード現象は起こり得る。

フェード現象はどんなクルマでも起こりうるが、重量級のクルマではとくに気をつけたいところ。

とくに、フェード現象を心配すべきは、摩擦材が減っているときだ。

ブレーキパッドなどは使っているうちに減っていくもので、摩擦材が少なく(薄く)なってくると温度が上昇しやすくなる。そのためブレーキの連続使用でフェード現象を起こしやすいのだ。

ブレーキパッドが減っている状態ではフェードも起きやすい。

エンジンブレーキ、回生ブレーキを活用すべし

では、フェード現象を避けるためにはどうすればいいのか。

長い下り坂では「エンジンブレーキ使用」といった警告看板を見かけることも多いが、低めのギアを選択してアクセルオフにすることで強いエンジンブレーキをかけ、ブレーキを使わずに速度を抑えるということがポイントになる。

「7km連続 下り急勾配 エンジンブレーキ」の看板。フットブレーキを使い過ぎないことが大事。

ハイブリッドカー、電気自動車などでは回生ブレーキといって駆動モーターで減速させ、バッテリーを充電する機能も備えているが、下り坂ではそうした機能を積極的に利用したい。

ただしハイブリッドカーなどではバッテリーが満充電になって、それ以上回生ブレーキがとれない「回生失効」という症状が出ることもある。そうなってしまうと摩擦による機械ブレーキに頼るしかなくなる。

いずれにしても、止まれないというのは非常に大きな事故につながる可能性がある。下り坂でブレーキが甘くなったと感じたら、駐車スペースなど安全なところに停まって安全確保することを優先してほしい。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…