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中古のダンパーのほうがうれしい?!
エンドレスのサスペンション開発に首を突っ込ませていただいていた加茂。マイカーのGR86でサーキット向け仕様の長期テストを行なっていたが、内部パーツの変更をする仕様変更をしてもらい減衰力の特性を変更してもらった。そこで今回は使っていたサスをバラして組み直すのではなく、仕様を変えたものに交換した。これまで使っていたダンパーは返却し、新たに組んだものとの交換である。
ここでのポイントは、新品ではなく中古のケースなところ。
なぜか。
サスペンションのダンパーケースの内部は使い込むことで徐々に摩耗して表面が馴れてくる。それによってサスペンションの印象も変わってくるのだ。
欧州車で「5万km走ると味が出てくる」とか、よく有名自動車雑誌の長期連載車コラムには書いてあったのを読んだことがある方も多いだろう。
そういったインプレッションも、ダンパー内部が馴染んだことで変わってきたことからと思われる。
正確にいうと、ダンパー内部(だけでなく、サスペンションの取り付けブッシュも、だが)が馴染んでくるのは「劣化」ではあるのだが、ある程度その新品時の張りがなくなった状態こそ緩くなってちょうどよい、ということもあるのだろう。
実際これまで使っていたサスは新品ベースで、やはり1000kmくらいから印象が変わったし、今回、ある程度使い込んだケースを使ったことで、純粋な縮み側の減衰力が変わったことが体感しやすかった。
ちなみに余談だが、レースでは馴染んだケースを使うこともあるし、逆にいつも同じ状態で条件を揃えたいということで、レースごとに新品を投入してその新品のコンディションでセッティングしていくこともある。
2021年まで行なわれていた86/BRZのワンメイクレースでは(現在はGR86/BRZ Cup)、プロクラスも全員同じTRD製サスを使用。少しでも条件を合わせたいのと、かなりソフトな味つけだったので少しでも張りがある状態の方がタイムを出しやすかったので、有力チームでは毎戦新品を投入していた。
なんとレース後は即フリマアプリに出品して、次の新品を買う資金にしていたチームもあったのだとか。
縮み側がソフトになると全体にしなやかに
閑話休題。
その仕様変更をしたサスは素晴らしく乗りやすくなっていた。縮み側の減衰力が適度に弱められたことで、段差を乗り越えても突き上げが少なく、よりしなやかさが高まった。
これまで、減衰力ダイヤルはほぼ伸び側しか変わらないとわかっていたが、それでも若干縮み側の減衰力も弱くなるので、突き上げを弱めようと減衰力をかなり抜いて使っていた。
仕様変更後は縮み側減衰力が弱められているので、減衰力調整を締め込んでも乗り心地の領域は悪化しない。つねに最適なサスペンションのバランスで乗ることができるようになったのだ。
さらにリヤのバンプラバーを短くした。
バンプラバーとはサスペンションが大きく沈んだ時に使うゴムやウレタンのカタマリで、これ以上沈まないようにそこにぶつかる駐車場の輪止めのようなもの。
これも短くて硬いものもあれば、柔らかくて長いものにして、あえて早めからバンプラバーに当てて、それ以上沈まないようにする味つけもある。
今回は少し短いものにすることで、バンプラバーに当たりにくくなり、より段差を超えたときの快適性が高まった。
今回、中古ケースを使ったが、それでもシール類などの馴染みもあるようで、エンドレスのある長野県佐久市を出て150kmほど走行して都内に戻ってきたころには、走り出したときよりもさらにしなやかさが増していた。
ちなみにバネも初期馴染みがあるので、今回はこれまでのバネをそのまま使用した。
この仕様にエンドレスの社員でレーシングドライバーでもある花里祐弥さんも、「すごく乗りやすく、バランスが良い」と評価。
ジールのGR86用SCの基本仕様が、このままこの仕様になるかどうかは検討中とのことだが、今回のテストと仕様変更を踏まえて、メーカーとしての標準仕様にするとのことである。