シビックタイプR純正テールゲートスポイラーの印象は「タイプRっぽくない?」【ホンダアクセス アクセサリー装着車試乗記】

新型シビックタイプRの純正アクセサリーの目玉は、ホンダアクセスのノウハウが詰め込まれたテールゲートスポイラーだ。機能のポイントである鋸歯形状(シェブロン)の効果を体感するべく、N-BOXでのデモ走行を含め、スポイラーのあるなしで走りの違いを探った。
REPORT:山本シンヤ(YAMAMOTO Shinya) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)

一般道での使用を重視したホンダアクセスの開発コンセプト

ホンダの純正アクセサリーの企画・開発を行なっているのがホンダアクセスである。他メーカーのそれと異なるのは、「モデューロ」と言うオリジナルのブランドを持つことだ。そのコダワリの高さは本家のホンダを大きく超える部分も。

開発コンセプトは、いい意味でも悪い意味でも過去を振り向かないホンダと違って、ホンダアクセスには一貫したコンセプトがある。それは大きく次の3つだ。

1.運転に自信がある人だけでなくビギナーでも楽しめる走りであること
2.テストコースやサーキットを基本にせず、あくまでも一般道を重視していること
3.スポーツカーだけでなく全てのモデルで同じ考えであることだ。

それを実現させるアイテムの一つが「エアロパーツ」だ。クルマ好きの中でも空力はサーキットのような速度域の高い領域でしか効果がなく、一般道から高速道路までの速度域では性能は出ていない…と思っている人が多い。ただ、それは大きな間違いだ。

例えば、20~30km/hくらいでの走行時、窓を開けて腕を出すと想像以上に抵抗を感じるはず。さらに手の角度を変えると、腕にかかる力も大きく変わるのが解るはずだ。つまり、常用域であっても空気の力は大きく、空力の改善によりクルマの走りをアップデートさせることは可能である。

と言っても、Cd値(空気抵抗係数)やCl値(揚力係数)を改善させるということではなく、空気の力を味方にすることで「クルマのバランスを整える」と言ったほうがいいかもしれない。そんな空力性能をモデューロでは「実効空力」と呼ぶが、その最新先がシェブロン(鋸歯形状)である。

スポイラー開発時のモックアップ。すでに鋸歯が取り付けられている。

シェブロン……あまり聞きなれない言葉だが、飛行機のジェットエンジンのノズル出口の鋸歯のような形状を意味する。ジェットエンジンではこの形状により騒音抑制効果を生むと言うが、モデューロはこれを空力改善に活かそうと考えたのだ。

シェブロンの効果をN-BOXで体感!

まずはシェブロンの効果を知るためにN-BOXでチェック。ノーマルの感覚を体に染みつけてから、ルーフにシェブロンを用いた空力デバイス(今回の体験のために特別に開発したもので非売品)を装着して走行を行なう。空力デバイスと言っても、その形状はルーフ後端に正三角形を並べたような物だ。「本当にこれで効くの?」と半信半疑で走らせると、常用域からノーマルとの違いが解る。

N-BOXのルーフ後端には“シェブロン”を取り付けるための目印のテーピングが施されている。
右、中、左の3ヵ所に、自らシェブロンを貼り付ける。

一番はリアの接地性が上がったような印象で背の高いクルマ特有のコーナリング時の不安が減っている。さらに、リアが安定したことで直進安定性や操舵の正確性もアップしている。さらには、細かい凹凸でヒョコヒョコ動いていたリアサスに落ち着きが⁉ その結果、走りの質の部分で「いいクルマ感」が増しているのだ。

マグネット製の試作品(販売予定なし)で取り付けは簡単。厚さは5〜6mm程度だ。サメの歯のような模様になる。

恐らくこれらの印象は空力デバイスの追加でリアのリフトが抑えられたことによる変化だと思うが、不思議なのはダウンフォースのようにクルマが押さえつけられている感覚はなく、どちらかと言うと「前後バランスが最適化された」と言うこと。

速度は40〜50km/h程度。クルマの動きがスッキリすることが体感できる。

開発者にそんな疑問を伝えると、空気が三角形を通過した時に生まれる「小さな渦」がポイントだと言う。恐らく、この小さな渦が周りの空気の流れを増速させることで空力効果を生んでいるのだろう。この三角形の形状やレイアウトにもノウハウがあるそうで、それ如何で味付けは大きく変わるそうだ。たかが三角形、されど三角形……だ。

コーナリング中の旋回軸が後ろに移動したような感覚

続いて、このシェブロンが採用されるシビック・タイプR用のテールゲートスポイラーの体感する。そのスペックはこんな感じだ。

1.ウイングはNAC4412ベースの断面形状
2.中央はガーニーフラップ形状
3.翼端板はAピラーの角度を合わせた形状
4.ウイング下面にシェブロンを採用
5.カーボン製で重量は僅か2kg
6.ステーはノーマルを採用
まずは、標準装備スポイラーでコースイン。

N-BOX同様にノーマルスポイラーの感覚を体に染みつけてから、その場でウイングを交換して走行。それも群馬サイクルスポーツセンターのウエット路面という、一番嫌なシチュエーションでの走行だ。筆者が乗り比べて感じたのは、「タイプR」が「タイプR GTになった」である。もう少し具体的に説明しよう。

まず、コーナリング中の旋回軸がノーマルより後ろに移動したような前後バランスになり、それによって安心感/安定感が確実に増している。特に今回のようなエスケープゾーンのない滑りやすい路面だと、「グリップしている……かも⁉」ではなく、「確実にグリップしている」と確信できる違いがある。

テールゲートスポイラーの重量は約2kg。標準スポイラーの3kgから1kg軽くなっている。

加えて、クルマの動きにいい意味でキレが抑えられ穏やかになっている。ただ、単にダルになったのではなく、心地良い“ため”が追加されたようなイメージと言ったらいいだろうか。

今回、ドライブモードはスポーツ/コンフォートで走らせたが、実は印象が良かったのはコンフォート。しなやかな足の動きを犠牲にすることなく、クルマの全体の動きが抑えていると感じた。

このような印象から、もしかしたら人によって「これ、タイプRっぽくないかも⁉」と思う人もいるかもしれないが、それはある意味正解かもしれない。言葉が正しいか解らないが、モデューロのテールゲートスポイラーは「タイプRの本拠地を少しだけストリートユースでの気持ち良さ/心地良さにシフトさせるアイテム」である。ただ、見た目がノーマルよりもスポーティに見えるのは、個人的には少々悩みどころでもあるのだが……。

テールゲートスポイラー(カーボン)

リアルカーボン×レッドポリエステル綾織り 275,000円(税込)

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