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醜いアヒルの子!? いえいえ、魔法のパッケージです
VWジェッタとは、ゴルフに独立したトランクのある3ボックス版として発売されてきたモデル。本来、保守的ユーザー層に向けた実用性の高いコンパクトなセダンとして開発されたのだが、当初のそのスタイルは言ってみればちょっと安易なのではないか、とも捉えられたものだった。
ゴルフをベースに、というよりゴルフの後方にただトランクをつけただけのような形をしていたのだ。初代は特に印象的で、後ろを伸ばしただけでプロポーション的にも少しアンバランスに感じられるかもしれない。簡単な手法でリーズナブルなセダンを作り上げてしまったような印象だった。しかし、そこには深い理由があった。
といいながらもそんなこととは別に、実際には知る人ぞ知るいわばスーパーセダンの側面も。何しろ基本がゴルフなのだから走りのポテンシャルが低いわけがなく、それでいてトランクスペースの大きさは絶大。必要にして十分な荷室のあったゴルフにさらに大きなスペースが追加されたので、このクラスのセダンとしては随一の荷室を誇る、積んでよし、走ってよしのいわば二刀流、実に通好みのセダンだったのだ。
そして、2代目はゴルフIIをベースとして開発されたが、リヤデッキを高めに設定したりもしてセダン的テイストを表現したが、やはりゴルフの付け足し3ボックス的な見え方はそのまま。それでも、GTIと同様のエンジンを搭載するモデルも登場し、「羊の皮を被った狼」そのものという顔も。
3代目を継ぐモデルでは、ゴルフIIIの多くのパーツを流用しつつもリヤピラーやリヤエンドを絞り込むなどの造りこみによって、セダンらしいバランスの良さを見せるようになってきている。それ以降は、北米に重心を置いた開発に進んで行ったと言えるだろう。実は3代目くらいから、ゴルフの当初の一つの目的は完結したのではないだろうか、と思う。
ビートルでは実現できなかったワイドレンジの車種展開を可能に
初代、2代目と、当初は不恰好にも見えたジェッタだが実はそれでよかったのだ。そこには、しっかりとした狙いがあった。プロダクトとしては非常に合理性の高い興味深いモデルで、その理由を知るには初代と2代目の展開をじっくりと見てみることでわかってくると思う。
このジェッタはゴルフのパッケージを利用することで、ハッチバックとセダンを実に合理的に作り分けるという命題に見事に応えたクルマだった。
それどころか初代ジェッタには1980年にスタディモデルとしてカブリオレも提案された。また初代ゴルフからはさらに、ピックアップトラックも登場。現代でも商用モデルとして継承されているキャディ(Caddy)の初代モデルは、このゴルフIベースのモデルから始まった。北米ではゴルフがラビット(Rabbit)と呼ばれていたことから、ラビット・ピックアップと呼ばれ、こちらの方が有名だったかもしれない。
結果的にゴルフからは、ハッチバック3ドア、5ドアそして3ドアカブリオレ。セダンでは2ドア、4ドア。そしてピックアップというように、最も市場でのニーズの高いハッチバックから派生して多くを変更せずにワイドバリエーションを構築していたのだ。また外板は異なるが、3ドアクーペスタイルのシロッコもゴルフからの派生だ。
仕向け別のリサーチとしての大きな価値
つまりはゴルフというプロダクトは、単に合理性の高いハッチバックを産んだだけでなく、驚異的なまでにボディバリエーションを増やすことを狙えた。これは、単に様々な用途に応える仕様を構成するとうことばかりでなく、ハッチを好む地域、セダンを好む地域など仕向地に見合ったボディを1つのプロダクトから提供できるという点にあった。
リヤドアの採用やセダンフォルムの構築、そしてピックアップ登場までという、先代のビートルでは到底実現できなかったことを可能にしたのだ。
その後ジェッタは、北米以外では改名(3代目ではヴェント、4代目ではボーラ)を受けている地域が多い。つまりは、ジェッタというプロダクトでは不向きな地域が明らかになっていた証拠だ。しかし北米では大きな人気を受けながら、ゴルフを起点としながらも大きく発展したモデルを迎えていが、ここにジェッタのゴールを見ることができるだろう。
そして、もちろんゴルフは欧州での絶大な支持を受けている。そして、ピックアップのキャディはニーズに応えてゴルフベースから飛び出し、独自の進化を果たしている。こうしてみると、初代からのトライアルは、実に合理的な形で仕向け地別の販売をこなしながら、その先の市場のリサーチをしっかりと受け持つ役割も果たしたことになるのだ。
ゴルフの偉大さは、こんなところにもあるのだと思う。