『トミカ』のNo.87は『トヨタ GR スープラ 富士スピードウェイ セーフティーカー』です。セーフティーカーとは、サーキットレースなどのモータースポーツで、衝突事故などのアクシデントや天候不良などで競技続行が難しくなった場合に、コース上に散乱した残骸や破片、部品などに衝突したり踏んだりといった二次被害を避けたり、雨水などでスリップしないような安全な走行ルートを指示するために、競技中のレーシングカーを先導するために導入される車両です。
また、セーフティーカーは安全確保のためにレース車両の隊列を先導して誘導するだけでなく、レース車両をスタート位置――スターティンググリッド――につけるため、レース直前に行なわれる周回走行――フォーメーションラップ――の際にレース車両を先導したり、SUPER GT(スーパーGT)シリーズで見られるような、隊列を整えて走りながらスタートするローリングスタートの際にレース車両を先導したりします。レースによって、あるいはサーキットによって、セーフティーカーはペースカーとかオフィシャルカー、あるいはコースカーなどとも呼ばれますが、役割は基本的には同じです。
さて、セーフティーカーはレース車両を先導するため、当然ながらレース車両を先導できる走行性能を持っていなければなりません。かつてはレース車両の方が圧倒的に高い性能と速さを誇っていましたが、最近ではレースの安全性向上のためにスピードを抑える規制が進んだために、セーフティーカーとレース車両の性能差は小さくなっているそうです。とは言えレース車両の先頭に立って隊列を先導するため、走行性能に余裕がある方が良いことに違いはありません。また、レース車両の隊列の先頭に立って先導するのは目立つため、サーキットを走行する姿を「カッコいい」と思ってもらえることも大切です。そこで基本的には、各自動車メーカー自慢の高性能スポーツカーがセーフティーカーに使用されることが多くなっています。
各レース主催者やサーキットでセーフティーカーに選ばれている代表的な高性能スポーツカーのひとつがトヨタのGRスープラです。トヨタの高性能スポーツカーの代名詞ともなっているスープラは、北米では1978年にデビューしましたが、日本では通算3代目にあたるA70型を初代として1986年にデビューしています。2019年にデビューした通算5代目、日本では3代目となるA90型(あるいはDB型)は、単なる「スープラ」ではなく「GR(ジー・アール)スープラ」と呼びます。「GR」とは、トヨタのレーシングチームであるGAZOO RACING(ガズー・レーシング)の活動で得られた様々な経験や知識、技術などを市販車に反映させ、その市販車を販売して得た利益でレース活動を行なう社内カンパニー(独立採算制事業部門)であるGRカンパニーが展開するブランド――GRブランド――を表しています。つまり、トヨタのモータースポーツ専門会社であるGRカンパニーが走りへのこだわりを追求した専用車であり、普通のトヨタのスポーツモデルとは一味違う特別な車であることを表しています
GRスープラは、トヨタとドイツのBMW 社との包括提携によって作られており、オーストリアにあるマグナ・シュタイヤー社グラーツ工場で生産されています。これは歴代のスープラに積まれていた直列6気筒エンジンがトヨタではもう作られていないことと、そのエンジンの搭載を前提とした、エンジンを前方に置いて後輪を駆動させるFR方式のプラットフォームの新規開発がトヨタ1社では負担が大きくなることが主な理由です。使われているエンジンやプラットフォームなどはBMW社のZ4というスポーツカーと基本的には同じですが、それぞれの車両に適した適正化が行なわれ、独自改良が施されているため、その関係は兄弟車と呼ぶほど近くもないようです。
高性能スポーツカーとして作られたGRスープラは、当然ながらピュアスポーツカーとしての基本素性を追求した車両パッケージが特徴です。卓越したハンドリングや安定したコーナリング姿勢を実現するため、「ホイールベース」「トレッド」「重心高」の3要素を最重要ファクターと捉え、ピュアスポーツカーとしての理想が追求されています。
エンジンは、500Nmの最大トルクを1800rpmという低いエンジン回転数で発生し、アクセルペダルの操作に応じた思い通りの加速が味わえる、歴代スープラの伝統を継承した3.0ℓの直列6気筒ツインスクロールターボエンジン――BMW製B58型――と、最高出力190kW(258ps)というハイパフォーマンスを実現して軽量な車体と相まって軽快なスポーツ走行を楽しめる仕様と、街中から高速道路まで爽快なドライビングを気軽に味わえるスポーティドライブを気軽に楽しむ145kW(197ps)を発揮する仕様という、チューニングの異なる2仕様の2.0ℓ直列4気筒ツインスクロールターボエンジン――BMW製B48型――が用意されています。
プラットフォームもBMW製のCLARプラットフォームをベースとしており、旋回性能と低重心が追求されたものとなっています。また、ボディは“走り”の性能を最優先に、太くストレートに通した骨格に加え、アルミニウムと鉄を適材適所に用いた骨格構造や異なる素材同士の接合強度を追求して、高次元の走りを実現する高剛性を実現しています。
サスペンションはバネ下重量の低減、高い組み付け剛性、精微な車両コントロールを追求して、新設計。フロントのサスペンションとサブフレームはアルミニウム製とすることで前後重量配分の適正化に寄与しています。また、一部グレードにはアダプティブバリアブルサスペンションシステムを設定。選択中の走行モードや路面状況に応じて4 輪のショックアブソーバーの減衰力を連続的に最適に制御し、走りと乗り心地を高い次元で両立させています。
さらにVSC(車両安定性制御システム)と連携しながら、電子制御多板クラッチによって後輪左右間のロック率を0~100 の範囲で連続的に最適制御、高いコーナリング速度と安定性、ニュートラルなステアリング特性を実現するアクティブディファレンシャルが装備され、旋回性能と安定性が高められています。
『トミカ』では、この2019年モデルのGRスープラをベースにエンジンのリミッターカットをするなどして作られ、2020年から静岡県の富士スピードウェイで使用されているセーフティーカーを再現しています。最大の特徴は屋根の上の透明パーツ=LEDランプで、これは使用時にはグリーンとイエローに光ります。セーフティーカーはコースに入るとグリーンのライト――進め――を点灯させて後続車を先に行かせ、レース中断直前でのレース順位の先頭車が来たところでイエローのライト――止まれ――を点灯し、レース中断直前の正しい順位で隊列を組むようにします。
ちなみに富士スピードウェイでは、雨天で通常のスタートが危険と判断された場合に導入されるセーフティーカースタートや、コース上で事故などが発生した際、コースに入ってレース車両を先導する車両のことを「セーフティーカー」、レース開始前のフォーメーションラップやローリングスタートなどでレース車両を先導して走行する車両を「リーディングカー」と呼び、それぞれ別個の車両が用いられることがあります。
『トミカ』の『No.87 トヨタ GR スープラ 富士スピードウェイ セーフティーカー』は、実車の特徴をよくとらえて再現しています。スーパーGTなどのレーシングカーと一緒に並べたくなる1台です。
■トヨタ GRスープラ RZ (2019年モデル) 主要諸元(現行モデルおよび『トミカ』のモデル車両とは規格が異なります)
全長×全幅×全高(mm):4380×1865×1290
ホイールベース(mm):2470
トレッド(前/後・mm) :1595/1590
車両重量(kg):1520
エンジン形式:B58型 直列6気筒ターボ
排気量(cc):2997
最高出力:250kW(340ps)/5000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1600-4500rpm
トランスミッション:8速AT
サスペンション(前/後):マクファーソンストラット/マルチリンク
ブレーキ(前後) :ベンチレーテッドディスク
タイヤ:(前)255/35ZR19 / (後)275/35ZR19