中軸商品もあればすき間商品も・・・
日本では耳慣れない「ビターラ」だが、この名称は世界的にはめずらしくなく、もともとはエスクードの輸出名に充てられていたネーミングだ。
それも初代エスクード時代からの名称だからなかなか歴史のある車名で、「ビターラ」のほか、「グランドビターラ」「ビターラ・ブレッツァ」など、仕向け地や時代によってバリエーションを増やしてきた。
その「ビターラ」を、このたびベールを脱いだスズキ初のEVに持ってきて「eビターラ」。
これまでの日本のエスクードを「ビターラ」と呼称していた市場にとって、この「eビターラ」は「電気自動車になったビターラ」だろうが、だからといって日本向けがいまさら「eエスクード」を名乗ることはしない。
すでにイタリアやインドで発表済みなこともある。日本にも世界同一名称のまま導入される予定だ。

eビターラについては他記事に詳しい。
本稿では軽自動車界のトップである傍ら、普通車分野でも存在感を放った過去スズキコンパクトSUVについて解説していく。
(とはいっても、一部軽自動車も採り上げています。)
1.ジムニー8(1977年9月22日発表、10月1日発売)
本稿では軽ジムニーではない、普通車版ジムニーついて述べていく。
本家軽ジムニーが1970年3月、360ccで出発した割に、7年も経ってから普通車版を追加。
この時点で1976年の軽新規格対応で550ccに増量し、トレッドも拡大していた軽のジムニー55のボディに、エンジンだけ新開発4サイクル4気筒の797ccに載せ替えたジムニー8を発売した。


2.ジムニー1000(1982年8月20日発表・翌21日発売)
軽ジムニーが1981年4月にモデルチェンジした1年4か月後、普通車ジムニーも2代目に。
ジムニー8のモデルチェンジ版だが、排気量は1000ccに増量。車名も「ジムニー1000」となった。
「ハーフメタルドア」「フルメタルドア」「バン」は軽ジムニーと共通。
「ピックアップ」だけジムニー1000専用に与えられた。
とはいえ、筆者はこのトラック版ジムニーを見たことがない。



3.ジムニー1300(1984年11月6日発表・発売)
1000cc版に1300ccシリーズが加わり、これでジムニーは軽の550cc車とともに3本立てとなった。
ボディバリエーションは、「ハーフメタルドア」「フルメタルドア」「バン」まではジムニー1000&軽ジムニーと同じだが、1300車には1000車のピックアップがない代わり、乗用車の「ジムニーワゴン」が登場。
もともと軽の商用車としてスタートしたジムニーだが、その乗用ワゴンの初登場は軽ではなく、普通車1300のジムニーだったわけだ。

4.初代エスクード(1988年5月25日発売)
ここでは初代モデルのみ採り上げる。
スズキが送り出したシティランナバウト4駆。
ジムニーと同じで、はしご型のフレームを土台に、上屋を構築・・・シティにオフロードはないが、造りはオフロードでの走破性を意識した本格派で、だから4駆方式もジムニー同様のパートタイム式だった。
エンジンは4気筒のG16A型1600を積む。
サイズは全長×全幅×全高=3560×1635×1665mm。
いまのジムニーシエラの3550×1645×1730mmと比べると、全長と全幅はほぼ同じ。



ただし軽自動車ボディに前後バンパー突き出しとオーバーフェンダー分が増えただけの相手は真の比較にはならない。
その中にあって注目すべきはホイールベースと室内寸法で、現ジムニーシエラのホイールベース2250mmと室内長さ×幅×高さ=1795×1300×1200mmは、初代エスクードのホイールベース2200mmより50mm長いし、室内寸1595×1275×1240mmだってエスクードより長さと幅で上まわっている。
外寸に対する前後タイヤ間隔や室内寸法の取り方が上手になったことの証拠だろう。
なのに、誕生から38年経ち、いまの軽自動車ベースの普通車ジムニー=シエラがこのエスクードに近い寸法にまで成長したのに、シエラを格下に見せるたたずまいを保っているのは立派だ。
たぶん軽自動車が規格改定を受け、サイズが初代エスクードより明らかに上回るようになっても、初代エスクードは「普通車!」然としてあり続けるのだろう。
ジムニー1000&1300はエスクードとしばらく併売された後に姿を消し、スズキ普通車本格4駆路線はエスクードに1本化される。


5.ジムニー1300シエラ(1993年5月18日発表・発売)
普通車ジムニーが「ジムニー1300シエラ」として復活した。1993年5月のことだ。
この時点で軽ジムニーは1990年の軽規格改定でエンジンは660ccに拡大され、ボディもサイズアップを受けていた。
といってもジムニーの場合は前後バンパーが大きくなっただけで、他の変更といえばフロントフェイスが変わったことくらい。
その軽ジムニーをベースに、トレッドのワイド化、ワイドフェンダー、ワイドな205/70R15タイヤと、ワイドづくしの変更が採り入れられた。
サイドステップこの1300シエラだけのもので、この前後どの世代のジムニーを見まわしても装着されない。

6.X-90(1994年10月16日発表・発売)
前年の第30回東京モーターショー1993に参考展示された後の1994年10月、そのままのネーミング、姿で発売された。



ラダーフレームの上にTバールーフの2人乗りオープンボディを架装。
本格4駆メカ&4気筒1600エンジンを載せた、いわばオフロード4駆界のスペシャルティだ。
サイズは全長×全幅×全高=3710×1695×1550mm、ホイールベースは2200mm。
これらメカや寸法の成り立ちから、その母体が初代エスクードであることはおわかりだろう。
バリエーションは単一構成で、5MTと4ATが用意されるのみ。
この頃の新型車は、旧型との部品共有化率が何%というのが謳い文句だったが、X-90はベース車エスクードとの部品共有化率は75%。
その割に、目に見える部分にエスクードを思わせる箇所が見当たらないのはお見事だ。
5MT車で136万円という低価格ぶりも、この75%という数字があってこそだったろう。




7.ジムニー1300シエラ大幅改良版(1995年11月13日発表・発売)
1994年に三菱自動車からパジェロミニが登場。
これを受け、軽ジムニーがサスペンションをリーフ式から3リンク式に改めるとともに、軽ジムニーとしては初めて乗用タイプが追加された。
ベースのメカ変更は、そのまま1300シエラにも横展開された。
どのみち車軸懸架式ではないが、乗り心地が大幅に向上し、このサス型式は次の3代目をはさんでいまの4代目まで引き継がれている。

と、ラダーフレーム付きのスズキ本格4駆のヒストリーはここまで。
エスクードやジムニーの簡単な歴史については過去に述べているのでそちらをごらんいただきたく。
ここから先は、みなさんが「ああ、あんなのもあったね」と思うであろうスズキSUVを並べていく。
8.Kei(1998年10月7日発表・発売)
忘れちゃいけない、スズキの軽の「Kei」。
全高2000mmは不変に、全長3400mm、全幅1480mmまでサイズ拡大を許された、いまに続く1998年10月の新軽自動車規格に、スズキは4車種で対応した。
このとき、新規格アルト、ワゴンR、ジムニーに加え、「新しいジャンルの軽」として投入したのが「Kei」だ。
読みは「ケイ」。
「軽自動車」の「軽」をそのままネーミングにした。
その後の三菱eKワゴンが「いい軽」のローマ字充てだったのは、「Kei」に倣ってのことかも知れぬ。




さてこのKei、当時資料では、
「ワゴンRに続くニューコンセプト第2弾」と位置づけ、「日常的な使い勝手のよさを大前提としながら、日常から非日常に至る、あるいはオンロードからラフロードに至る幅広い走りの世界を獲得しようとするもの・・・」
と謳い、さらに
「1台のスタイリッシュな軽乗用車の中で、軽らしさを大切にして実用性を徹底追求しながら、ラフロードからロングツーリングまでのオールマイティーな行動能力をも実現・・・」
と続けている。
「ラフロード」「オールマイティー」を掲げるなんて、どこにも「SUV」とは謳ってはいないものの、これはいまのSUV思想そのものではないか。
その証拠に、資料ではKeiのコンセプト3本柱のうち、1番目に「軽自動車のイメージを越えて行動半径を広げる高い走破性と走行性能」を挙げている。
その具体化として、アルトより高く、ワゴンRほど高くない位置にヒップポイントを定めた

「ラフロードでの走破」性向上のため、タイヤは165/70R14インチタイヤ(除く、最廉価車)を履かせ、数値記載はないものの、「オフロードも楽しめる3アングル」ということで、「アプローチアングル、ランプブレークオーバーアングル、デパーチャーアングルもちょっとしたクロカンなみ・・・」としている。
当初3ドアでスタートし、後に5ドアも追加。
いまのようなSUV全盛時代と異なり、スズキ軽もワゴンRが主軸になっていたことから、このKeiも街で多く見かけることはなかったが、その思想は後のハスラーに受け継がれている。
9.SX4(2006年7月4日発表・発売)
「乗用車とSUVを融合させた新しいジャンルのコンパクトカー」として登場。
ワゴンRといい、Keiといい、スズキは「新しいジャンル」を生むのがお好きなようだ。
思えば初代ジムニーだって「軽自動車の本格オフローダー」という「新しいジャンル」を生み出した功労者だったわけで、「新しいジャンル」を作るのは、スズキという会社の体質なのかもしれない。
ニーズを掘り起こし、需要を喚起するのが企業というもの。
ものづくりを生業とする会社の理想・・・というよりは、それが本来あたり前のことなのだが、たいへん結構なことである。

車名は「Sports X-over 4 wheel」もしくは「Sports X-over 4 season」の頭文字からの造語。
エンジンは1500と2000を持ち、それぞれに2WDと4WDが用意される。
全機種4ATだ。
4WDメカは、前後輪に電子制御カップリングでトルク配分するi-AWD。
ヒップポイントを高めにして乗降性向上を図り、リヤシートバックを倒したとき、荷室床面とフラットになるようダブルフォールド式にしたのはヨーロッパ式。
事実、発売は同年3月にヨーロッパで先行している。
10.ハスラー(2013年12月24日発表・翌2014年1月8日発売)
「軽ワゴンタイプの乗用車とSUVを融合させた、新しいジャンルの軽乗用車」と謳って登場・・・またも「新しいジャンル」が出てきたぞ!
いまでも覚えているが、第43回東京モーターショー2013で参考展示モデルを見たとき、筆者はてっきり4駆の本格派ゆえに重量増が悩みになるジムニーを廃止し、軽量モノコックのハスラーをSUV4駆の主軸に据えるのかと思ったが、考えたらクルマの成り立ちも使われ方も異なるから置き換えるはずなどないのだった


ハスラーのベースは確かその頃のワゴンR。
思想はさきのKeiと同じで、地上高をかさ上げしてヒップポイントも上げてある。
ただしフロントガラスを起こしたり、外装に素材色のままの樹脂パーツを積極的に使うなどしてラフロードテイストあるいはアウトドア風味を際立たせている。
「ハスラー:hustler」はかつて同じスズキのバイクに使われていた名称。
バイクでは英語で「ギャンブラー」の意と説明され、軽4ハスラーでは「あらゆる事に行動的に取り組み、俊敏に行動する人」のイメージが込められている。
英語辞書を開けば、「hustler」とは「ぺてん師、売春婦、モーレツ商売人」だと・・・何だかすごい言葉を車名にしたものだ。
11.SX4 S-CROSS(2015年2月19日発表・発売)
2012年9月の、パリモーターショーでのコンセプトモデル「S-Cross」およびその量産型「新型SX4」の、2013年3月のジュネーブモーターショー出品を経て、9月にハンガリーのマジャールスズキ社で生産開始。
この時点で車名は「SX4 S-CROSS」となり、日本では1年数か月後の2015年2月に輸入販売された。



4駆システムは、この当時スズキ最新の「ALLGRIP」システムが投入され、「AUTO」「SPORT」「SNOW」「LOCK」4つのモードで、様々なシーンに合わせ、電子制御で駆動力配分する。
サブネームの「S-CROSS」は、「スマート クロスオーバー」のことで、新しいクロスオーバー車であることを表現したという。
前々項「SX4」は、「Sports X-over 4 wheel」の頭文字と書いたが、ならば「SX4 S-CROSS」は「Sports X-over 4 wheel Smart Cross Over」となる・・・「X」と「Cross」の違いはあるが、「クロスオーバー」がダブっとるで。
このS-CROSSの次世代型が、いま日本で売られているフロンクスだ。
12.イグニス(2016年1月21日発表・2月18日発売)
またも「新ジャンル」。
「コンパクトカーとSUVを融合させた新ジャンルのコンパクトクロスオーバー」として発表された。
とにかく何かしらとSUVを融合させたいスズキである。
全体のシルエットやリヤドアガラスウエストラインのキックアップがそのときのアルト(=先代アルト)に似るが、もっというなら、軽自動車枠から放たれたアルトが、与えられたデザインしろを活かし、長さと幅で存分にのびのびした感じ。
張りのあるボディ面や存分に膨らんだホイールアーチは、軽自動車サイズでは成しえない造形だ。



全機種ともスズキお得意のマイルドハイブリッドで、2WDと4WDを用意。
4WDは実績のあるビスカスカップリング式だ。
以上、思い出した限りのスズキの小ぶりなSUVをかけ足でふり返ってみた。
この中にあなたの想い出のクルマはありましたか?
