最近はSUVの人気が高い。新車として売られる小型/普通乗用車の約25%を占める。15年ほど前は10%以下だったから、SUVの売れ行きは急増した。
SUVが人気を高めた理由は2つある。1つ目はカッコ良さと実用性の両立だ。SUVは悪路を走るクルマとして誕生したから、大径タイヤを装着してフェンダーも張り出し、外観は野性的だ。その一方でボディの上側はワゴン風の形状だから、居住性や積載性も優れている。SUVにはカッコ良くて実用的なクルマが多く、人気を高めた。
SUVが人気を高めた2つ目の理由は世界的な流行だ。セダン、ワゴン、クーペなどは、ひと通りブームを経験して今は需要が落ち着き、売れ行きが盛り返す見込みは乏しい。その点でSUVは、今がブームのピークだ。しかも大量な販売を見込める最後のカテゴリーだから、多くのメーカーやブランドがSUVに群がっている。SUVが似合わない高級ブランドのロールスロイスまでカナリンを設定した。
海外の売れ行きが好調だと、日本のメーカーもSUVを積極的に開発する。トヨタは16年にC-HRを発売して以来、日本でもRAV4を復活させ、ライズ、ヤリスクロス、カローラクロスを新規投入した。SUVを急速に充実させ、ほかのメーカーも追従している。
特に今のマツダは、スポーティなクルマ造りに特化している。空間効率の優れたミニバンや背の高いコンパクトカーは開発していない。その代わりにCX‐30、MX‐30、CX‐8など、SUVの選択肢を増やしている。
そしてSUVは、今後の需要を長く保つ上でも都合が良い。SUVには多様性があるからだ。例えばハリアーとRAV4では、プラットフォームはホイールベースまで含めて共通で、エンジンやハイブリッドシステムも基本的に同じタイプを使う。今ではトヨタの全店が全車を売るから、販売店も同じだが、両車は需要を喰い合わずに共存できている。
その理由は、基本的なメカニズムが共通でボディサイズも似通っているが、クルマの性格は大幅に異なるからだ。ハリアーは内外装から運転感覚まで都会的だが、RAV4はランドクルーザーのような悪路向けの性格も併せ持つ。そのために両車がニーズの異なるユーザーを獲得できている。またインプレッサスポーツをベースにしたXVのように、既存の車種を使って、安いコストで新しいSUVを開発することも可能だ。
このようにSUVには、多種多様な展開のさせ方があるから、幅広いユーザーの要望にも綿密に応じられる。従ってSUVを選ぶ時は、自分の使い方や好み、予算を明らかにして、それに合った車種を探したい。
例えば予算にある程度の余裕があり、家族4名で長距離を移動する機会が多いなら、車内が広く直進安定性の優れた全長が4500〜4800㎜のSUVを推奨する。
そこにはハリアー、RAV4、CX-5、アウトランダーなどが該当する。いずれの車種も、前後席ともに居住性が快適で荷室も使いやすいが、車両の性格は異なる。前述の通りハリアーは都会的で、RAV4には悪路のイメージもあり、CX-5はクリーンディーゼルターボの搭載を含めて走りを積極的に楽しめる。
アウトランダーは走りから内装まですべてが上質で、4輪をモーターで駆動する先進的なプラグインハイブリッドだから、運転感覚の満足度は一層高まる。
アウトランダーのように、パワーユニットが豊富なこともSUVの特徴だ。ノーマルガソリンエンジン、ガソリンターボ、ディーゼルターボ、ハイブリッド、プラグインハイブリッドと多岐にわたる。
ハイブリッドでは、ノーマルエンジンとの損得勘定も気になるだろう。概算でいえば、1年間の走行距離が1万5000㎞以上の使い方では、ハイブリッドの割安感が際立つ。それでもハイブリッドには、静かで滑らかな加速感など燃費以外のメリットも多いから、走行距離が短くてもノーマルエンジンと乗り比べて判断したい。
意外に買い得なのがディーゼルターボだ。実用回転域の駆動力が高く、軽油価格の安さもあって燃料代はハイブリッドに近い。購入時の税額も安い。ディーゼルの運転感覚はガソリンと異なるので、不慣れなユーザーは入念に試乗する必要があるが、SUVの重いボディと長距離移動のニーズにはディーゼルターボが適する。そのためにマツダ車と輸入車を中心に、SUVのディーゼルターボは人気が高い。このようにSUVには、いろいろな選択肢があり、ユーザー層を広げている。
SUVを選ぶ時は、実用性にも注目したい。コンパクトなSUVでも、大人4名の乗車が可能だ。積載性を重視するなら、リヤゲートの角度を立てた車種を選ぶと、背の高い荷物も積みやすい。このようなSUVは、車両のコンセプトも実用重視だから、荷室面積も十分に確保されて価格は割安だ。
そして最近のように新型のSUVが活発に発売されると、先代型の中古車価格が下がる。例えばヴェゼルは21年4月に登場して、先代型から現行型への乗り替えも進んだ。そうなると中古車市場における先代型の流通台数が増えるので、選択肢が豊富になって中古車価格は割安になる。
22年の中盤には、エクストレイルもフルモデルチェンジするので、同年の終盤から23年には、従来型の中古車が求めやすくなる。このように中古車を選ぶ時も、フルモデルチェンジが購入時期の目安になるわけだ。
渡辺陽一郎
【著者プロフィール】自動車月刊誌の編集長を約10年務めたのち、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者に怪我を負わせない、損をさせない」を重要なテーマに、クルマを使う視点から問題提起のある執筆を心掛ける。日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員でもある。
[スタイルワゴン・ドレスアップナビ編集部]