目次
もっと知りたい電動車のコト
第1弾では電動車の成り立ちについて話したが、第2弾ではハイブリッド車やプラグインハイブリッド車について細かく解説。さらに、FCV車についても桃田健史先生に質問してみた。
Q3 ハイブリッドにはどのような種類がありますか?
<回答>
クルマでのハイブリッドという表現には、特に定義はありません。基本的には、エンジンとモーターを組み合わせることです。分類としては、まずは大きく2つの考え方があります。ひとつは、外部からの充電機能がないもの。これが一般的にハイブリッドと呼ばれ、エンジンとモーターとの作動方法によって、パラレル、シリーズ、そしてシリーズパラレルの3つに分かれます。もうひとつが、外部充電できるプラグインハイブリッドです。
パラレルハイブリッド
パラレルとは、並列という意味合い。タイヤが回る駆動力を発生するのはエンジンが主体で、必要に応じてモーターがアシストします。主に発進からの加速時や、高速道路での追い越し加速などのシーンで、ドライバーはモーターの存在を感じます。メリットとしては、パワートレイン全体のシステム構成がさほど複雑にならないため、メーカーとして導入コストを抑えることができます。日米欧などメーカーがこれまでさまざまなタイプのパラレルハイブリッドを展開してきました。そうしたなかで、エンジンとモーターとの連結方法でメーカー独自の技術を導入し、他社との差別化を図ってきていて、パラレルと単純に表現できないモデルが増えている状況です。
シリーズハイブリッド
シリーズは、直列という意味です。タイヤが回る駆動力を発生するのはモーターが主体となります。モーターを動かすための電力は、搭載するバッテリーが負担します。バッテリーの電力はエンジンが発電機として作動します。こうしたモーター・バッテリー・エンジンの関係をシリーズと表現します。つまり、エンジンが直接、タイヤを回す駆動力を生むことはないため、大まかに見ると、かなりBEVに近いシステムだといえるでしょう。実際のところ、シリーズハイブリッドの代表例である、日産のe-POWERでは「リーフ」から技術的な応用をしています。また、ダイハツが「ロッキー」とトヨタ「ライズ」向けに開発したe-SMART HYBRIDもシリーズハイブリッドの仲間になります。
シリーズパラレルハイブリッド
その名のとおり、シリーズとパラレルのどちらの方式にも対応します。つまり、エンジンをモーター用電池の発電機として使うこと、それによってモーターのみで走行すること、そしてエンジンに対しモーターがアシストすることを走行状況に応じて使い分けるという離れ業です。代表例は、「プリウス」を筆頭とするTHSⅡ(第2世代トヨタハイブリッドシステム)。その仕組みですが、エンジンとモーターの間にプラネタリーギア(遊星歯車)と称する機構を持ちます。ホンダなどの日系メーカーや、海外メーカーもシリーズハイブリッドの研究開発を進めましたが「トヨタの関連特許に触れてしまう」として製品化を諦めたという話を各社関係者から直接聞きました。
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドの違いは?
マイルドとストロングは、共に俗称です。シリーズ、パラレル、シリーズパラレルなどの技術的な解釈ではありません。そもそも、トヨタが「プリウス」でシリーズパラレルを量産した際、世界の自動車産業を長年リードしてきたドイツやアメリカのメーカーは「あくまでもキワモノ」と表現して、ハイブリッドに否定的でした。それが、プリウスを軸足としてトヨタが独自のハイブリッド市場を拡大し、また欧米での燃費規制が厳しくなり様相が変わりました。コストを抑えてオルタネーターをモーター兼発電機とする機構などをマイルドハイブリッドと呼び、それに対して、トヨタ以外がトヨタに代表されるシリーズパラレルをストロングと呼ぶようになりました。
Q4 ハイブリッドとプラグインハイブリッドの違いって?
<回答>
プラグインとは、「差し込む」という意味。充電器からクルマに充電する行為や技術的なシステムを指す。つまり、プラグインハイブリッドとは外部充電が可能なハイブリッドのこと。一方、例えばプリウスPHVのように、外部充電システムがない普通のハイブリッドとは技術的な違いのみならず、宣伝広告などについても違うスタンスをとっています。価格面でもプラグインハイブリッドはハイブリッドよりかなり高い設定になっています。
プラグインハイブリッド
日本で最初に大量生産されたプラグインハイブリッドは、「プリウスPHV」です。トヨタの場合、「RAV4 PHV」でも同じ記載があるように、PHVがプラグインハイブリッドの商品名です。一方、三菱「アウトランダーPHEV」や欧州メーカー系のPHEVもプラグインハイブリッドを指します。学術的にはPHEVと表記します。プラグインハイブリッドの特長は、搭載するバッテリー量がハイブリッドに比べると数倍大きいこと。そのためEVモードで50~100km程度走行することが可能です。またシステム設計の考え方として、シリーズハイブリッドとして強化するとアウトランダーPHEVのようにEV寄りとなり、欧州メーカー系によるプラグインハイブリッドと走り味が大きく変わります。
レンジエクステンダー
EVのレンジ(航続距離)を、エクステンド(延長する)という意味です。電池容量でみると、プラグインハイブリッドよりさらに大きく、EV並みに大きい。そして、その電池残量が少なくなるとエンジンが発電機となってバッテリーに対して充電する。つまり、システムとしては電池が大きいシリーズハイブリッドに近いイメージです。基本的にEVなので、外部充電もできます。モデルとしてはBMW「i3」や、マツダ「MX-30 EV」にレンジエクステンダーの設定があります。ただ、EV向けの電池の大型化による航続距離の拡大や、電池の高性能化によって小型でも巡航距離が充分稼げるEVの登場が期待される中、レンジエクステンダーの存在感は希薄になりつつあります。
Q5 水素燃料ってどうなんでしょうか?
<回答>
クルマのエネルギー源として、電気、またはガソリンや軽油などの液体ではなく、気体の水素を燃料に使います。大きく2種類あり、水素をそのまま燃やす水素自動車、または水素を使い電力を生む燃料電池車があります。
FCV(燃料電池車)
フューエルセルヴィークルの頭文字でFCVです。フューエルセルを日本語では燃料電池と訳しているので、その実態がイメージしづらいかもしれません。燃料電池に水素を通すと、化学反応によって電気を取り出すことができます。それをバッテリーを介してモーターでクルマを駆動します。つまり、燃料電池車とは、水素を使って自車発電する電気自動車の仲間です。排出するのが水だけなので、究極のエコカーと称されることもあります。研究開発では世界各国で実験車がありますが、トヨタ「MIRAI」のほか、韓国Hyundaiが実用化し、ホンダは現時点では量産計画を発表していません。価格がまだ高く、水素インフラの数が限定的など普及に向けた課題は多くあります。
水素エンジン車
ガソリンエンジンを応用して、水素をエンジンのシリンダー内で燃焼させて駆動力を生み出すのが水素エンジン車です。90年代から2000年代にかけて、BMWやマツダなどが先行開発しましたが、本格的な量産化に結びつきませんでした。2020年代に入り、2050年を達成目標としたカーボンニュートラルが叫ばれる中、トヨタやヤマハが新たなる水素エンジン車の開発に乗り出しています。企業広報活動、またエンジニアによる短期集中の技術開発を兼ねて、トヨタは国内スーパー耐久レースにカローラをベースとした水素エンジンマシンで参戦しているところです。豊田章男社長の肝入りとしてメディアで取り上がられる機会も多く、量産化は20年代中盤以降になりそうです。
PROFILE
桃田健史