目次
EVってどんなクルマ?
EV車と言ってもピンとこないアナタに向けた基礎講座を開講しちゃいます。ここでは、EVに精通している桃田健史先生によるわかりやす〜い解説で、EV通になれること間違いなしだ。
Q1 今、なぜカーボンニュートラルなのでしょうか?
<回答>
カーボンとは二酸化炭素(CO2)を指し、その「出」と「入り」を相殺することをニュートラルと表現します。「出」については、人が地球上で生活していると、農林水産や工業、そしてクルマが移動することでもCO2が排出されます特に、2000年代に入ってからは、欧米や日本などに加えて、人口が10億人を超える中国やインド、そして新興国などで経済活動が活発化したこともあり、地球上でのCO2排出量は上昇傾向にあります。
CO2が大気中に増えると、どうなるのでしょうか?
CO2は代表的な温室効果ガスであり、地球上の気温が上昇する温暖化の傾向が強まっているとの指摘があります。具体的には北極の氷河が溶けたり、海水温が上がり気流の乱れが起こることで超大型台風が発生したりと、自然環境に影響が及ぶといわれています。
次に、「入り」については、森林などが自然にCO2を吸収することが前提です。そのために、国や地域が森林伐採に制限を持たせたり、新たに植林する動きが出てきました。要するに、カーボンニュートラルとは、「出」を抑制して、「入り」を拡大することです。
では、どうやって「出」を抑えるのでしょうか?
まずは、エネルギーを見直します。電気やガソリンなどは、石油、天然ガス、石炭など化石燃料を採掘し、それを船などで長距離輸送、精製、さらに輸送するというプロセスを踏みます。これを、太陽光発電や風力発電など自然エネルギー由来にできるだけ置き換えていこうというのです。
次に、輸送の電動化です。CO2の「出」では、乗用車や商用車、バスなどの公共交通機関、トラックや船などの大型輸送が占める割合が大きい。そこで、さまざまな移動するモノの動力を、現在のエンジンからモーターに置き換え、そこで使う電気を自然エネルギー由来にしようというのです。
こうしたカーボンニュートラルの基本的な考え方は、学術界ではかなり前からありましたが、大きな転機はCOP(コップ)です。1995年に第1回を始めた『気候変動に関する国際連合枠組条約』を指します。最近では、2021年秋に英国で26回となるCOP26が開催されています。そのCOP26では、2050年までのカーボンニュートラルを改めて重視したことで、日本政府も『2050年カーボンニュートラルに伴う、グリーン成長戦略』の推進を強化する姿勢を示しました。そのために、自動車メーカー、二輪車メーカー、トラック/バスメーカー各社でつくる業界団体の日本自動車工業会との連携を密にしているところです。
Q2 電動車とはどのようなクルマなのですか?
<回答>
電動車、またはクルマの電動化という表現があります。一部のメディアで、電動化=EV(電気自動車)という解釈があり、そうした情報が広まることで一般ユーザーが混乱しかねないという懸念もあります。日本自動車工業会では「できるだけ正しく報道して欲しい」と報道各社に要望しているほどです。正しくは、電動車はクルマが駆動するための動力に、モーターを活用するクルマ全般を意味します。
そうした解釈では、電動車の中でもっとも普及台数が多いのがハイブリッドです。そもそもハイブリッドとは、2つのことを融合するという意味があります。クルマの場合、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンとモーターを組み合わせて、両方のいいとこ取りをしようというのです。
エンジンがまったくなく、モーターのみで走行する電動車がEVです。最近ではEVについて、バッテリーのみがエネルギー源という意味で、BEV(バッテリーエレクトリックヴィークル)と呼ばれることもあります。
ハイブリッドとBEVの中間に位置する電動車が、プラグインハイブリッドです。また、水素を使う燃料電池車(FCV:フューエルセルヴィークル)も駆動はモーターで行うためEVの一種です。
電動車の普及状況をグローバルで見ると、特に日本では他国と比べてハイブリッドの普及台数が多く、ハイブリッドの占める割合が高くなっています。これは、1997年に初代が登場したプリウスが、国内で社会現象化するほど認知度が極めて高いから。さらにトヨタがハイブリッドのフルラインアップ化を進めたことが大きな理由です。トヨタの国内シェアは約5割ですので、ホンダなども当然、トヨタ対抗でハイブリッド開発を急ぎました。
欧米でも90年代から2000年代にかけて、さまざまな電動車が登場しました。例えば、メルセデス・ベンツ、BMW、クライスラー(現ステランティス傘下)の3社はハイブリッドの共同開発を行い、中大型SUV向けに2モーター式を導入しましたが、価格が高いことなどから普及に至りませんでした。欧米人にとってハイブリッドは、コストメリットがつかみ切れない中途半端なクルマというイメージにとどまったのです。
それが、2010年代後半なると、企業経営で環境・ソーシャル(社会性)・ガバナンス(企業統治)に関するESG投資という考えが世界で一気に広まります。これがカーボンニュートラルを後押しする形で、ヨーロッパを基点としてBEVバブルとも呼べる社会現象が生まれているといえるでしょう。
BEV(バッテリーエレクトリックヴィークル)とは?
電動車の歴史を振り返ると、最初に登場したのがBEVです。1900年代初め、ニューヨークのマンハッタンでは、BEVタクシーが頻繁に走っていたという記録が残っています。その後、70年代にはオイルショックや排気ガス規制強化でEVに再び注目が集まりました。しかし、鉛電池の性能に限界があるなどの理由で普及しませんでした。
90年代になり、米カリフォルニア州でZEV法(ゼロエミッションヴィークル規制法)が施行されます。同州内で一定数以上の新車を販売するメーカーに対して、BEVを含めた低燃費車の販売台数を義務化する法律です。もし規定台数に達しないと、多額の違約金支払いが必要となるため、他社から台数を係数化したクレジットを購入することも可能という、少し複雑な仕組みです。モデルとしては、カリフォルニア州限定で初代RAV4 EVなど日系各社がBEVを限定発売しましたが、満充電での航続距離が短いなどの理由から本格的に普及しませんでした。
2010年代になると、大手メーカー初となる大量生産型EVとして、日産リーフと三菱i-MiEVが登場します。一方、富裕層向けのプレミアムBEVとしてテスラが販売を伸ばしていきます。さらに、中国では政府の新エネルギー車政策がBEV普及を後押しています。
i-MiEV
リーフ
PROFILE
桃田健史