専用区画と優先駐車区画は、健常者は利用できない

車椅子マークの駐車場
このスペースは本来利用者が限られているわけだが…。

SNS上では、『車いすマークの区画にマークのないクルマが停められた写真』を巡る論争がたびたび発生する。

この論争で交わされる意見の多くが、「外見からは事情が分からない利用者も存在するため、安易に判断すべきではない」「専用区画の趣旨を守るべきだ」というものだ。

では、いったいなぜこのような議論が繰り返されているのだろうか。

実はその背景には、制度の構造が広く共有されてこなかった事情が存在するという。そもそも、車椅子使用者用の駐車施設はバリアフリー法を根拠として、幅3.5m以上の空間を確保することが義務づけられており、車椅子の展開や介助動作を妨げない条件が整えられている。

この幅は単なる「ゆとり」ではなく、乗降の可否を左右する物理的な要件である。一般的な駐車区画ではドアの開閉幅が足りず、車椅子の取り回しは成立しない。

車椅子と車の写真
乗り降りの際には車椅子を下ろすためのスペースが必要になる。

したがって、国土交通省の発表するガイドラインには、この区画の利用対象を車椅子使用者に明確化しており、健常者が利用する余地は設けられていないというわけだ。

では、なぜ前述のような誤解を生んでしまうのだろうか。その理由のひとつに、国際シンボルマークの持つ性質が挙げられる。

車いすマークは本来、車椅子使用者のみを指す図記号ではなく、障害者全体を象徴する記号として使用されてきた歴史を持つ。

この広い概念と、国内制度が示す「車椅子使用者専用区画」という機能が重なった結果、対象範囲の解釈に揺らぎが生じてきた経緯がある。

また、内部障害や体幹機能の障害など外見では判断できない利用者も多く、周囲が事情を推測することは難しい。見た目だけを手がかりに可否を判断しようとする状況が、摩擦の温床となってきたというわけだ。

なお、国土交通省のガイドラインでは車椅子使用者用駐車施設とは別に「優先駐車区画」を位置づけている。優先駐車区画は幅に特別な規定はなく、歩行距離の短縮が必要な妊産婦や高齢者、内部障害のある利用者を想定して設けられる。

あくまで移動に配慮が必要な利用者のための環境整備であり、車椅子使用者用の幅広い区画とは役割が異なるため、本来はこの区画も健常者は利用することができない。

優先区画の写真
こちらも利用者は限定されている。

また、前述のガイドラインは、車椅子使用者用駐車施設と優先駐車区画を分離した「ダブルスペース方式」を推奨している。区画の役割が区分されれば、車椅子使用者が幅広い区画を必要なタイミングで確実に使える環境が維持される。

そして、こうした整理をさらに明確にするため、地方公共団体ではパーキング・パーミット制度が導入されているという。

パーキング・パーミット制度とは、条件に該当する利用者へ利用証を交付し、対象者を可視化することで不適正利用を抑止するしくみだ。対象には車椅子使用者のほか、内部障害者、高齢者、妊産婦、一時的なけが人などが含まれる。

しかし、制度内容は自治体によって差があり、運用の違いが利用者側の認識をさらに揺らす一因となってきた。とはいえ、制度導入後に不適正利用が減少した事例も示されており、利用対象を明確化する仕掛けは一定の効果を持つとされている。

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このように、車椅子使用者用駐車施設も優先駐車区画も、健常者が利用する前提では整備されていない。用途の異なる区画を区分してその意図を共有することが、必要な利用者へ確実にスペースを届ける基盤となるだろう。