目次
本技術は、電力供給を制御するパワー半導体*1 をプリント配線基板と一体化して集積することで電力配線を簡素化し、パワー半導体がスイッチ動作する際に発生するエネルギー損失を、従来比*2 で 30%低減するとともに、約 50%の小型化を実現した。また、新構造によりパワー半導体や電力配線の溶接工程を不要とするなど、部品数や組み立てに必要な工程を削減し、インバーターの生産工程を含めたライフサイクルでのCO2排出量削減が可能。
*1 通常の半導体よりも大きな電力を通したり止めたりできる半導体。材料には主にSi(ケイ素)が使われてきたが、高性能で省エネルギーなSiC(炭化ケイ素)の実用化が進んでいる。本開発品は、Siパワー半導体を適用した構造であるが、SiCにも適用可能。
*2 日立従来製品(100kWクラス)比。
背景
脱炭素社会の実現に向け、自動車の電動化が世界各国で急速に進められている。インバーターは、バッテリーの直流電力を交流電力に変換しモーターの回転を制御する、EVに欠かせない部品であるとともに、EVの急速充電システムや、再生可能エネルギーの送電システムをはじめ、エネルギーを無駄なく有効活用する上で重要な基幹部品である。今後EVや再エネの導入拡大に伴い扱う電流が増大した場合、従来構造のインバーターでは、電力の供給を制御するパワー半導体や周辺部品を大型化する必要があり、エネルギー損失が増加するとともに、組み立てに必要な工程も複雑化することが課題だった。
開発技術の特長
日立と日立Astemo はこれまで世界の顧客の様々な用途に合わせてインバーターを提供してきたが、今回、従来と全く異なる構造の薄型インバーターの基本技術が開発された。
1. パワー半導体とインバーター回路部品をプリント配線基板と一体化して集積する技術
インバーターは、大電流をon-offするパワー半導体と、大電流を通電する回路部品により構成される。パワー半導体は大電流を流すと発熱するため、従来構造ではパワー半導体とインバーター回路部品を別々に組み立て、それらを配線で接続する必要があった。そのため、インバーター全体が複雑な構造となり、エネルギー損失の削減やインバーターの小型化は困難だった。
日立と日立Astemoは今回、インバーター回路部品を組み込んだプリント配線基板上にパワー半導体を一体化して集積することで、発熱の問題を回避可能な基本技術を開発した。本技術では、インバーター内部の電力配線を簡素化してインダクタンス*3 を低減できるため、パワー半導体がスイッチ動作する際に発生するエネルギー損失を従来比で30%低減し発熱を抑えるとともに、インバーターのサイズを従来比で約50%小型化することに成功した。
*3 交流回路の配線に誘導される電圧の大きさを左右する値。インダクタンスが大きいと、サージ電圧およびエネルギー損失の増加を招く。
2. 部品数や組み立てに必要な工程を削減する実装技術
従来構造のインバーターでは、パワー半導体に大電流を供給するためにバスバー*4 と呼ばれる銅板の部品が多数用いられ、これらを溶接などにより接続する作業が必要だった。このため、部品数や組み立てに必要な工程が多く、生産効率の向上が困難だった。本技術では、パワー半導体や回路部品を、コンパクトで軽量な薄型のプリント配線基板上に実装し、バスバーを省略することに成功した。これにより、生産プロセスを大幅に簡略化し、部品数や組み立ての工程を削減しました。本技術により、生産工程でのエネルギー消費を低減し、インバーターのライフサイクルでのCO2排出量の削減に貢献する。
*4 大容量の電流を流すための導体。
今回開発した薄型インバーターは、5月25日からパシフィコ横浜で開催予定の「人とくるまのテクノロジー
展 2022」に出展される。
今回開発された薄型インバーターの主な仕様
体積:1.5L
最大出力:170kVA
最大電流:350A
パワー密度:113kVA/ℓ