ヤマハの四輪! ROVをラフロードで存分に乗ってみた(Yamaha Wolverine)——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第77弾

ヤマハのROV:レクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークルを富士ヶ嶺オフロードで試乗する機会を得た。急勾配に巨大なロックセクション、雨上がりの泥濘——とくればさぞや走破に難儀しそうなところ、ROV[Wolverine]はこともなくそれらをクリアする性能を発揮した。
TEXT:安藤 眞(Makoto ANDO) PHOTO:山上博也(Hiroya YAMAGAMI)

Wolverineの運転操作は、普通の乗用車と変わらない。パワステ付きでCVTなので、非常にイージーだ。一方で、ハンドリングはリヤデフロック付き直結4WDそのもの。一定速で無造作にハンドルを切るとアンダーステアが強いが、旋回しながらアクセルを踏むと、リヤが滑って小さく回れる。センターにもリヤにもディファレンシャルギヤがないので、μの高い路面ではタイトコーナーブレーキング現象が強く出るため、原則、舗装路は走れない。

クラッチが遠心式なので、発進時には少しルーズ感があり、上り勾配でブレーキを放すと後退してしまう。しかし、そのままアクセルを踏み込めばリカバリーできる。不安なら左足でブレーキを踏んでおけば良い。ブレーキには真空倍力装置が付かないため、多少、ラフに操作してもギクシャクしないし、慣れればコントロールは楽だ。

悪路走行中の安心感は非常に高い。フロントにエンジンがないため、ボンネットが大きくスラントしており、自車の1mくらい手前まで見えるのが、その大きな要因だ。コンパクトなジムニーでさえ、急なダウンヒルにアプローチする際に下が見えなかったり、ヒルクライムを登り切った先がどうなっているのか見えにくく不安になることが多いが、ROVならその心配は無用。ロックセクションでも、少し横に身を乗り出せば、前後輪の接地状態は確認できる。

乗り心地も驚くほど良い。床下一面を厚板のアンダーガードで覆っているため、シャシー剛性が非常に高いのと、車重に比して大容量のダンパーを装備しているおかげだと思うが、悪路走破性を高めるには、タイヤを常に安定して接地させておく必要があるため、結果的にバネ上に伝わる入力が抑えられ、乗り心地は良くなる。

といっても、スプリングレートはクロカン四駆ほどソフトではなく、対角のタイヤが浮き上がるようなシーンでも、ホイールトラベルは使い切っていないようだ。クロカン四駆でオフロード走行する場合、直結4WDにして3輪接地を維持するようにゆっくりと走り、それで限界が来た際にリヤデフロックを使用するような走り方をするため、脚はソフトにしてホイールトラベルを使い切るセッティングにすることが多い。一方でROVは、最初からリヤ直結で駆動力を稼いで岩場を乗り切り、長いホイールトラベルはハイスピード走行時のロードホールディングに振り向けているようだ。だからロックセクションでも、3輪接地を意識してソロリとアプローチするより、滑ってもパワーをかけてトラクションで乗り越える走り方のほうが向いている。

しかも、アプローチアングルはほぼ90度なので、クロカン四駆では斜めにアプローチしなければならないような大きな段差でも、正面から乗り越えられる。最低地上高が高いのに加え、床下は“ヒットしてもOK仕様”なので、ロックセクションでもライン取りを気にせず躊躇なくアクセルが踏める。ジムニーで同程度の悪路走破性を得ようとすれば、4インチリフトアップして、RMAX2と同じ30×10.0R14タイヤを付けるくらいの改造が必要そうだ。

特に感心したのが、YXZの乗り心地の良さ。60〜70km/hでギャップを越える際、サスペンションの底付きに備えて身構えたら、猫が着地するかの如く、しなやかにやり過ごした。ダンパーにはボトムアウトコントロールカップ(油圧式バンプストッパー)が内蔵されており、フルボトム付近のエネルギー吸収をうまくやっているからだそうだ。

民間のオフロードコースでも、クロカン四駆のレンタル車両を用意しているところはあるが、初心者では車両の大きさや前方視界の悪さで恐怖が先に立ってしまい、十分に楽しめないという人も多い。しかしROVなら、最初から安心して本格的なオフロード走行が楽しめる。日本では個人で所有するのはハードルが高いので、こういうクルマのレンタル車両があると、面白いのではないだろうか。

ROVチームの皆さん

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…