ホンダ・モバイルパワーパックという、スマートな電池の使い方

MPPを駆動用バッテリーとする電動カート
高価で扱いの難しいリチウムイオンバッテリーを上手に活用する。その視点から「交換式」というユニークな方法をとったのがホンダのモバイルパワーパックである。

言うまでもなく、電動車にとっていちばんのキーデバイスは駆動用バッテリーである。しかし2023年1月現在の最先端技術をもってしてもなお、最適と言われるリチウムイオンバッテリー式でも高価で扱いは難しい状況。製造するにしても資源問題とは不可分で、ならば大事に大切に使おうというのが世界的なコンセンサスとなっている。

バッテリーセルを痛める要因のひとつが、熱。これは急加速時のモーター大電流印加時や急速充電時などに発生しやすく、そのため各社はバッテリーパック全体を最適冷却するための方策をさまざま採っている。高熱を帯びると不可逆的な性能劣化が生じてしまい、容量が減ってしまう。逆に、極低温環境下でも化学反応が鈍くなる。高い電池セルを無駄にしないために、温度制御はとても大切なのだ。

ホンダのモバイルパワーパック:MPPというシステムがある。可搬性を持たせた小さなパックとして、充電容量が減ってきたら満充電のパックと取り替える、という手段である。二輪車や非常用電源などに用いることを想定していて、新しい試みとしてはサーキットで楽しむカートの電源としても提案がなされている。MPPが「なくなったら取り替える」というツールとしていることで、リチウムイオンバッテリーセルにとっての最大の敵である熱の一要因を回避できる。急速充電というのは車載の巨大なパックを「とにかく短時間で走れるようにしたい」というニーズによるものであり、だから大電流高出力の電気エネルギーを与えることで短時間に充電する手段。翻ってMPPは、急速充電する理由がないのである。

充電ステーションでは低電圧小電流で、バッテリーセルに最適な電力で充電ができる。条件が必ず整っているからSOC(電池の仕様容量に対する満充電の制御)も、急速充電ありきのパックに対してマージンを取ることもできそう。大事なリチウムイオンを十二分かつ長期的に活躍させることができるのだ。

MPPをふたつ積むBENLY e:

MPPは複数の組み合わせで使うこともでき、その場合直列として総電圧を高める方策/並列として総容量を拡大する方策の二種が考えられる。たとえばBENLY e:に載せるときには直列として出力傾向にもできるし、航続距離優先で並列にすることもできるという具合に、電動パワートレインへのフレキシビリティにも富んでいるというユニークさである。なお、パック単体では50.26V/26.1Ah=1314Whのスペック。連続出力は2.5kWとしている。当初は50.4V/20.8Ah=1048Whだったが、技術革新で総電力量を増やした。単体での体積と重量は、女性でも積み下ろしができそうなサイズを目安に様々を検討、約10kgの重さにとどめている。

充電ステーションでは、遠目からも「何個のパックがいま交換できるか」を視認できるライティングを施した。4つ明滅しているなら4パックが準備できるという具合である。認証を終えるとガイド画面に、まず充電されるべきパックの挿入箇所を促され、それを終えるとどこのセルを抜くかを指示される。

該当箇所以外は、盗難を防ぐこともありロックがかかる仕組み。挿入部には少々の傾斜が与えられていて、抜き差しの助けになることはもちろん、風雨が侵入した際にも抜ける構造としている。最奥のソケットは上側に備わり、防汚に配慮した。挿抜実験では何万回ものサイクルを実施、乱暴な取り扱いにも音を上げないタフな作りとしている。

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