まだ日本で「ミニバン」という言葉が広まる前、ワンボックスと呼ばれるクルマの多くはキャブオーバ型のメカニカルレイアウトであり、スペースユーティリティを求めるために走行性能は二の次という状況だった。そこでトヨタは、ワンボックス車のユーティリティとドライバビリティを両立するためにミッドシップレイアウトを考案、実現させたのがプレヴィア/エスティマである。

エスティマのパワートレイン/ドライブトレイン。写真は4WD車で前後トルク配分はLSDを備えたビスカスカップリングが担う。

車両中央にパワートレインを載せれば旋回時のヨーモメントを小さくすることができ、ハンドリングの負担を減らせる。しかし床下に収めるためには全高を抑えなければならない。水平対向エンジンを用いれば解決しそうだが、当時のトヨタのエンジニアはそれを選ばず、紆余曲折はあったものの結果として直列4気筒エンジンの75度横倒しという特異なエンジンが生まれることになった。

当時の資料から。「2TーZ」という表記が(さらにハイフンは音引き)当時を偲ばせる。

上方吸気/下方排気の管配置とし、ご覧のように吸気管はエンジンを上部を覆うような構造。吸気マニフォールドは実に600mm近くになり、クランク近傍にスロットルボディを置く。シリンダーヘッドもコンパクト化が図られ、バルブ挟み角は19.33度と抑え気味な数値にしたものの、吸気バルブ径を36mmと大きくしリフト量も8mmを確保。先述の長尺吸気管とも相まって、中低速域でトルクを発揮するエンジン特性とした。一方の排気系は、バルブ径は30.5mm/リフト量は7.7mm。シリンダ直下に収まる格好でマニフォールドを置く。材質はステンレスで、二重管構造により音と熱への対策としている。

これら吸排気カムシャフトを駆動するのはトヨタお得意の「ハイメカツインカム」で、シングルギヤ+シザースギヤで吸排気カムを駆動する仕組み。先述の19.33度という狭いバルブ挟み角も本機構に依るところが大きい。シリンダヘッドのコンパクト化に寄与しているのはご想像のとおりだ。オイルパンはシリンダまでを覆うような、これまた特異な構造である。

これらにより、全高はわずか440mmに抑えた。

通常のエンジンではベルトで駆動する補機は、なんとメインプーリからドライブシャフトを生やして車両前方で仕事をさせるという荒技である。この「ドライブシャフト」は前輪の駆動には一切かかわらず、つまりRWD車では2本が、4WD車では3本のドライブシャフト(車両前後方向だからプロペラシャフトというほうがなじみがあるか)が通っていることになる。小さなパワートレイン実現のための執念とも言える構造である。

画像は2TZ-FZE型の補機類構造図。モアパワー要求に応えて登場したスーパーチャージャー過給型で、ルーツブロワを備えている。
■ 2TZ-FE
気筒配列 直列4気筒
排気量 2438cc
内径×行程 95.0×86.0mm
圧縮比 9.3
最高出力 135ps/5000rpm
最大トルク 21.0kgm/4000rpm
給気方式 自然吸気
カム配置 DOHC
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 直打
燃料噴射方式 PFI
VVT/VVL ×/×
(エスティマ)
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