日本特許情報機構、三菱電機:脱炭素技術の特許出願をAI モデルを活用して高精度に判定する手法を開発

日本特許情報機構(Japio)と三菱電機は、脱炭素技術に関連する特許出願を、AIを活用して高精度に判定する手法を共同で開発した。さらに同手法を用いて「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(令和3年6月18日) ※1に挙げられる3つの産業「エネルギー関連産業」「輸送・製造関連産業」「家庭・オフィス関連産業」及びそれらを合わせた「総合」について、脱炭素技術の特許出願企業ランキングを発表した。 今後、当該データは、世界中で注目されているESG投資の判断指標等への応用が期待される。

開発の背景と内容

 日本政府は2050年カーボンニュートラルの実現を宣言し、2030年度の温暖化ガス排出削減目標として、46%削減(2013年度比)することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針が示された。
2050年カーボンニュートラルの実現は、エネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取組を、産学官が一体となり、大きく加速させることが必要。産業界は、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要がある一方で、もともと省エネ技術に長けている多くの日本企業にとって、新しい時代をリードしていくチャンスでもある。そして、目標の実現には、イノベーションに密接に関連する特許情報の整理・俯瞰が欠かせない。

 しかし、脱炭素技術はカバーする技術範囲・産業分野が広く、また、通常の特許検索で使用されている特許分類には脱炭素技術に係る特別の分類コードが付与されておらず、脱炭素に関連する技術を網羅的に捉えることは困難だった。さらに、扱うデータ量が膨大なことから、AIを用いて特許明細書から直接脱炭素技術を判定できる手法の開発が望まれていた。

AIモデルの確立

 そこで、Japioの知財AI研究センターにおいて、BERT※2と呼ばれるGoogleが発表した自然言語処理のAIに、特許明細書の読み込みが行えるように特別に訓練(特許明細書を用いたマスク語予測及び次文予測)を行った。さらにCooperative PatentClassification(共同特許分類:CPC)※3 の“Y02”および“Y04”※4 の各分類に対応する分類器を追加の上、各CPCに関連する特許明細書を用いた学習を行い、特許明細書の情報から脱炭素関連特許を判定するAIモデルを作成した。

 判定された特許情報は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた基礎データとなることが期待される。
このAIモデルの学習に用いたデータは、脱炭素技術に知見のある三菱電機の技術者や特許技術者が“Y02”および“Y04”が付与されている特許明細書を目視確認の上、脱炭素技術に関連する適切な特許明細書を選別して作成したものである。この質の高い学習データを用いることで、脱炭素技術に関連する特許技術をAIが高精度に自動判定することができる。

脱炭素技術に関する特許出願企業ランキング

 今回共同開発した手法を用いて、Japio知財AI研究センターのホームページでは、脱炭素技術に関連する特許出願企業ランキングとして、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(令和3年6月18日) ※1に挙げられる3つの産業「エネルギー関連産業」「輸送・製造関連産業」「家庭・オフィス関連産業」及びそれらを合わせた「総合」の4つのカテゴリーで、各種ランキングが発表された。

 企業ランキングの一例として、WIPO(世界知的所有権機関)の国際特許出願に基づく総合ランキングを図1に示す。このAIモデルは、特許出願が脱炭素技術に該当するか1件ずつ判定を行い、判定の確度を0から1の値で算出。値が1に近いほど、その特許出願に記載される技術が脱炭素技術に該当することを意味する。当ランキングは、その算出値を出願人ごとに集計したもので、ランキングが高いほどその出願人が脱炭素技術に関連する特許出願を多く行っていることを表している。
 なお、三菱電機は、2019年国際特許出願における脱炭素技術関連特許の総合ランキングで世界第4位(国内企業で第1位)となっている。

 脱炭素技術に関連する特許出願企業ランキングや企業ごとの集計データは、世界的に注目されているESG(環境・社会・ガバナンス)投資の判断指標への応用が期待される。また、本年6月に改定されたコーポレートガバナンスコードでは、知的財産への投資等について情報開示が求められているところ、当データは脱炭素技術に関連する知財の客観的な指標となりえる。

※1:2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(令和3年6月18日)
※2:Bidirectional Encoder Representations from Transformers(Transformerによる双方向のエンコード表現)。2018年10月11日にGoogleが発表した自然言語処理モデル AI。
※3:Cooperative Patent Classification(CPC)は、国際特許分類(IPC)を拡張したもので、欧州特許庁と米国特許商標庁が共同で管理している。CPCはA-H、Yの9つの大項目に分けられ、約25万の細項目がある。
※4:Y02の定義:気候変動に対する緩和や適応のための技術又は応用/Y04の定義:他の技術分野に影響を与える情報・通信技術

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