-水溶液濃縮処理や水の取り出しにかかる大幅な省エネを実現-

東芝:消費エネルギーを1/4に削減し、常温常圧で濃縮率を2.4倍向上できる濃縮技術を開発

東芝は、水溶液に含まれる成分や物質(有価物)を抽出する濃縮技術において、従来の濃縮方法に対して1/4の消費エネルギー(1)と、2.4倍の高濃縮率(2)を両立する正浸透膜法(3)向けの浸透圧物質(4)の開発に成功した。従来の濃縮技術は蒸発や加圧といった処理が必要となり、濃縮には大量のエネルギーを要していたが、今般開発した技術は、濃縮対象の水溶液から浸透圧の原理を用いて水を自発的に取り除くことで、省エネルギーを実現する。また、開発した浸透圧物質は、濃縮処理後に水と容易に分離できるため、再利用が可能。

 本技術は、化学品や医薬品の製造、廃液処理、レアメタルの回収等への適用が考えられる。水の再利用、天然資源の持続可能な利用と廃棄物による環境負荷の低減も見込めるため、循環型社会形成への貢献も期待できる。
東芝は、本技術の詳細を9月22日から24日まで岡山大学津島キャンパスで開催される化学工学会第52回秋季大会(オンライン)で発表される。

開発の背景

 化学品や医薬品の製造、排水処理、レアメタルの回収等、様々な場面で濃縮技術を用いた濃縮処理が行われている。従来の濃縮処理では、水溶液を加熱して水分を蒸発させることで有価物を抽出する蒸留法や、水溶液に高圧(加圧)をかけることで水分と有価物を分離する逆浸透膜法が用いられている。しかし、蒸留法では、加熱に大量の熱エネルギーを要し、逆浸透膜法では、加圧に大量の電気エネルギーが必要となる。更に、それぞれ加熱や圧力による、有価物の劣化も指摘されている。こういった問題を解決するため、より省エネルギーで有価物の劣化の少ない、高濃縮処理を実現する技術が求められている。また、2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、天然資源の持続可能な利用と廃棄物による環境負荷の最少化が求められており、有限な資源の再利用も喫緊の課題となっている。

本技術の特徴

 そこで、東芝は、低温・非加圧で濃縮処理が可能な正浸透膜法(図1)に着目した。正浸透膜法は、物質の「濃度が低い水溶液」と「濃度が高い水溶液」を浸透膜で仕切ると、水が濃度の低い水溶液から濃度の高い水溶液へと膜を通過して自然に移動し、濃度を均等に保とうとする現象を利用した濃縮方法である。従来の逆浸透膜法の消費エネルギーが約4kWh/m3であるのに対し、正浸透膜法の消費エネルギーは約1kWh/m3といわれており、消費エネルギーを1/4に削減することができる。東芝はこの正浸透膜法において、濃度の高い水溶液に注入することで水の自発的な移動を促進させる浸透圧物質を独自に開発し、省エネルギーな高濃縮処理と高い水分離性を実現した。開発した浸透圧物質が溶け込んだ水溶液(浸透圧溶液)は、事前に吸収させたCO2を脱離することで水と浸透圧物質が分離するため、浸透圧物質は繰り返し利用することが可能。

図2: 模擬排水を用いた濃縮試験の結果

 東芝は、食塩を含む水溶液を模擬液として濃縮試験を実施したところ、模擬液の水が浸透圧溶液の方へ移動し、図2(a)に示すように最終的には塩分濃度が19%(*5)まで上がり、従来の逆浸透膜法の塩分濃度8%と比較して、塩分濃度を2.4倍にできることを確認した。
 また、模擬液から水が移動して希釈された浸透圧溶液を70℃に加温したところ、CO2が脱離し、図2(b)に示すように浸透圧物質と水の二相に分離できることを確認し、100℃以下の低温熱での再生と高い水分離性を実現した。浸透圧溶液と水の分離には排熱を利用することができます。なお、脱離したCO2は浸透圧溶液の生成に循環利用することが可能。
 今般開発した正浸透膜法は、逆浸透膜法よりも高い濃縮率と、高い水分離性を実現し、常温常圧で有価物を高濃縮するシステムや、排水を高濃縮し水を再利用するシステムへの展開の可能性を示すことができた。

 今後、小型試験装置による連続運転評価や、化学品や医薬品の製造、廃液処理、レアメタルの回収等、アプリケーションごとの実証を進め、本技術の早期の実用化を目指す。

*1 Non-membrane solvent extraction desalination (SED) technology using solubility-switchable amine, J. Hazard. Mat. ,403, 123636, 2021
*2 RO systems make their case for brine concentration applications, Global Water Intelligence, Vol. 20, 6, 2019
*3 濃度が低いほうから高いほうへ水が浸透膜を自然に透過する現象を利用した膜処理方法
*4 濃度の高い水溶液に溶け込んでいる物質。当社は、水吸引性、低温での水分離性、濃縮対象液への低流出の3つをバランスよく併せ持つ物質を開発した。
*5 質量体積パーセント濃度、食塩水の濃縮限界約25%

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