NEDO:燃料電池の飛躍的な普及拡大に向けた新たな研究開発に着手

NEDOは燃料電池の飛躍的な普及拡大に向け、新たに24件のテーマを採択した。2020年度から実施中のテーマを踏まえて、今後さらに補強すべき分野として、セパレータやガス拡散層(GDL)などの先端的な研究開発のほか、農機や建機、港湾荷役機器、ドローンなど多様な用途での燃料電池の活用を目指す実証事業に着手する。これにより、日本の燃料電池技術のさらなる競争力強化と水素社会の実現に貢献する。

 燃料電池は、燃料が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため、原理的に高いエネルギー効率を得られる。また発電時に二酸化炭素を発生させないため、温室効果ガス排出抑制への貢献が期待されている。日本では家庭用燃料電池エネファームを2009年に、燃料電池自動車(FCV)を2014年に世界に先駆けて市場投入した。しかし今後の自立的な普及拡大に向けてはさらなる高効率・高耐久・低コスト化が必要。また、製品を市場投入したことで多数の課題が顕在化している。

 こうした中、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2019年1月にトヨタ自動車や本田技術研究所、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)らとともに「FCV課題共有フォーラム」を開催し、燃料電池に関する技術課題のうち、おのおので協調して取り組むべき課題の抽出・共有を行った。また、経済産業省とNEDOは2019年6月に「水素・燃料電池プロジェクト評価・課題共有ウィーク」を開催し、ユーザー側からのニーズ提示や研究機関などからの新たなシーズ発掘など、産学官全体にわたる技術開発の活性化に向けた議論をした。これらの議論を踏まえ、経済産業省の水素・燃料電池戦略協議会は2019年9月に、重点的に取り組むべき技術開発事項を定めた「水素・燃料電池技術開発戦略」を策定した。

 NEDOは本技術開発戦略に基づいて産業界の共通課題を解決し、2030年以降燃料電池を飛躍的に普及拡大させるため、2020年度から燃料電池システムに関する大規模な研究開発事業である「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」を実施している。

 そして今般、燃料電池のさらなる高度化に向けて、主に2020年度に採択したテーマではカバーされていない分野を対象に公募を実施し、触媒や電解質膜と並ぶ重要な部材であるセパレータの表面処理技術開発やガス拡散層(GDL)に関する研究開発などの先端的なテーマを採択した。また、燃料電池を多様な用途へ展開し普及拡大を図るため、従来のFCVや定置型燃料電池以外の用途として、農機や建機、港湾荷役機器、ドローンなどへの燃料電池の活用にも取り組む。
※ 燃料電池の構造のなかで、反応物である水素ガスおよび酸素ガスを拡散させて電極へ均一に供給するために用いられる層

 この追加公募により、24件の新規テーマを開始する。本事業の推進を通じ、世界に先駆けて市場導入を開始した日本の燃料電池技術の競争力をさらに強化し、世界市場で確固たる地位を確立するとともに、水素社会の実現に貢献する。

事業概要

事業名:燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
実施期間:2020年度~2024年度(予定)
予算:66.7億円(2021年度)
研究開発項目〔1〕:共通課題解決型基盤技術開発
研究開発項目〔2〕:水素利用等高度化先端技術開発
研究開発項目〔3〕:燃料電池の多用途活用実現技術開発

今回の公募で採択したテーマの概要

研究開発項目〔1〕:共通課題解決型基盤技術開発【委託】

固体高分子形燃料電池(PEFC)
 2030年以降のFCVへの実装を目指し、「水素・燃料電池技術戦略ロードマップ(2019年3月12日、水素・燃料電池戦略協議会策定)」で掲げる性能目標の達成や、その他産業界からのニーズに対して特に貢献度の高い分野の研究テーマに取り組む。

  • 今回採択したテーマ:低接触抵抗・高耐久性セパレータの表面処理技術開発、セルを積層するためのシール部材の開発、導電性ナノファイバーを用いたMPLの研究開発、GDL一体型フラットセパレータの研究開発 など(計6件)
研究開発項目〔2〕:水素利用等高度化先端技術開発【委託】

●燃料電池(PEFC、SOFC)
 2030年以降の社会実装を見据え、従来の延長線上ではない革新的ブレークスルーのアイデアを幅広く創出するため、研究開発項目〔1〕で開発する燃料電池の性能やコスト目標を上回る燃料電池の実現に向けた要素技術を開発。

  • 今回採択したテーマ:非白金電極触媒の研究開発、膜―電極接合体の界面構造の高機能化に関する研究開発、新規電解質膜の研究開発および性能評価、プロトン伝導セラミック燃料電池の性能/劣化機構を解明するための評価手法の開発 など(計7件)

●水素貯蔵技術
 燃料電池の利活用には水素貯蔵システムが必要不可欠だが、社会実装にはより高い強度が求められる上、依然として高コスト。このため、水素貯蔵システムのさらなる強じん化・低コスト化に向けて、損傷蓄積・寿命評価シミュレーション技術の構築による炭素繊維強化樹脂(CFRP)製水素タンクの効率的な設計手法や水素タンク用炭素繊維の低コスト化につながる技術を開発する。

  • 今回採択したテーマ:水素貯蔵タンクの非破壊検査/モニタリング技術の開発、新規樹脂材料を用いた革新的なタンク製造プロセスの開発、水素貯蔵効率向上に向けた水素貯蔵タンクの開発、機械学習を用いた水素貯蔵タンクの最適設計技術に関する検討および実証研究 (計4件)
研究開発項目〔3〕:燃料電池の多用途活用実現技術開発【助成】

 FCVや定置用以外の多様な用途で燃料電池を活用するため、燃料電池サプライヤーとユーザーの連携による実証事業を支援する。また、燃料電池システムのコスト低減を実現するために革新的な生産技術・検査技術開発を支援する。

  • 今回採択したテーマ:燃料電池駆動の農業用トラクタ、油圧ショベル、港湾荷役機器、ドローンおよび小型内航船の開発・実証、汎用クラウド対応型燃料電池発電モジュールの開発、高圧水素タンクおよび膜―電極接合体の高速検査を実現する革新的X線検査技術の開発 (計7件)

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