【海外技術情報】マーレ:90秒で充電が完了するバッテリーのコンセプトを公開

ドイツのアーヘンにて開催された展示会『アーヘン・コロキウム・サステナブル・モビリティ』において、マーレは同グループのエンジニアリング部門であるマーレ・パワートレインが開発した新しいリチウムカーボンバッテリーのコンセプトを公開した。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

 2021年10月4~6日、ドイツ西部の都市、アーヘンで開催された展示会『アーヘン・コロキウム・サステナブル・モビリティ』において、マーレ・グループにてエンジニアリングを担うマーレ・パワートレインが開発した新型バッテリーのコンセプトが注目を集めた。それは都市部のコミューター(軽量の二輪車や小型車)向けであり、なんと90秒未満で超高速充電できるように設計されている。

 希少な原材料を必要とせず、完全にリサイクル可能であるため、このコンセプトは持続可能である、とされている。

 マーレ・パワートレインが発表したバッテリーコンセプトは、スーパーキャパシターと従来のリチウムイオン・バッテリーの利点を組み合わせたもの。リチウムカーボンバッテリー技術は、たとえば都心部でのコンパクトな配送車両の超高速充電をサポートできるだけではない。電力密度が高く、制御できない過熱が発生する、いわゆる暴走イベントの影響を受けない、という利点がある。

 このコンセプトは、マーレ・パワートレインとAllotrope Energyとの共同開発によるもの。優れた電力密度と相まって超高速充電を提供する新しいバッテリー技術を発表した。内燃機関車への燃料補給と同じ時間でフル充電を実現できる、とされる。

 マーレのパワートレイン研究責任者であるマイク・バセット博士は、以下のように述べた。
「EVの採用を阻む主な障壁として、距離の不安がよく言われますが、従来の内燃機関車に燃料を補給するのと同時にバッテリーを充電できれば、その心配の多くは解消されます。
 オンデマンド経済の台頭にともない、都市部におけるフードデリバリー等にガソリンを動力源とする二輪車の使用が急速に増加しています。これら配送車両の脱炭素化は、高価な交換可能なバッテリーの在庫を維持するか、あるいはより大きくて重いEVに切り替えない限り困難であることが証明されていました」

 そこでマーレはAllotrope Energyとの共同プロジェクトにより、EV二輪車を90秒間で再充電できる安価な小容量リチウムカーボンバッテリーを搭載した都市配送車両として使用する方法を検討した。

 Allotrope Energyのリチウムカーボン技術は、スーパーキャパシターと従来のリチウムイオン電池の利点を組み合わせて、迅速に再充電でき、しかも優れたエネルギー密度を維持できるセルを提供する。この技術は、有機電解質によって分離された高速バッテリータイプのアノードと大容量の電気二重層コンデンサー(EDLC)スタイルのカソードが特徴。その結果、従来のリチウムベースのバッテリーのような熱劣化がないバッテリーセルが得られる。その安定性は、高温でも複雑な外部冷却やバッテリー管理システムを必要とせず、大電流の供給と高速充電を可能にする。

 さらに、コンデンサー式のカソードは、従来のバッテリーよりもはるかに長い100,000サイクルを超える寿命を可能にし、希土類金属の排除と設計の完全なリサイクル性により、製造中および製造後にも、環境に負荷を与えない。

 プロジェクトの一環として、マーレ・パワートレインは25kmの航続距離で都市部のフードデリバリーサービスを調査した。500 Whの従来のリチウムイオン電池は、シフトの途中で再充電する必要があり、急速充電器を使用した場合でも、充電に30分以上かかる。定期的な急速充電によりバッテリーの寿命は短くなり、1〜2年ごとに交換が必要になる可能性が露見した。ところがリチウムカーボンパックは90秒で20kWで再充電できます。次の配達を待つ時間でフル充電を達成できる。

 バセット氏は再び述べた。
「超高速充電により、車両が使用されるシナリオに合わせてバッテリーのサイズを最適化できます。これにより、軽量化だけでなく、コスト削減にもつながり、脱炭素化の障壁がさらに低くなります。
 本当の課題は、そのような高い電荷を吸収できる電気アーキテクチャを設計することでした。さらに、国内供給からこれらの充電率を提供できる適切な充電システムが市場にないため、独自の特注設計を作成しました」

 バセット氏が率いたチームが考案したソリューションは、独自の内蔵コンデンサベースのエネルギーストアを使用して、通常の7kW単相接続からの電力を増強することにより、最大20 kWの超高速充電を実現する、というものである。

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著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…