Society5.0(注4)に向けてデジタル社会が浸透する中、益々電力の安定供給が求められている。しかし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電が普及するに伴い、昼夜や天候の変化による電力負荷変動が電力安定供給への課題となっている。こういった課題を解決するために、ガスタービンと蒸気タービンから構成されるコンバインドサイクル発電が、その変動を相殺して電力安定供給を担っている。これらタービンは従来の発電時の定格運転とは異なる急速起動や停止を頻繁に繰り返す非設計状態での運用が強いられ、タービンの寿命を縮めたり、翼の破損を招いたりすることが懸念されている。また、さらなる効率的な発電が行えるタービンの設計開発も求められており、ガスタービンや蒸気タービン内で発生する物理現象を支配するマルチフィジックス熱流動は学術的また社会的にも重要な研究テーマとなっている。
東北大学大学院情報科学研究科(注5)の山本悟教授らの研究グループは、これまでにタービンメーカーや電力会社などとの共同研究により、マルチフィジックス熱流動の非定常大規模シミュレーションを実現するマルチフィジックスCFD(注6)技術、ガスタービンや蒸気タービンを丸ごとスーパーコンピュータで計算することができる数値シミュレーション技術(通称、数値タービン)を研究開発してきた。しかし、ガスタービンや蒸気タービンの構造は複雑で、発電時にタービンの中を通るガスや水蒸気の圧力、温度、化学的変化を考慮したシミュレーションには長時間を要するといった課題があった。
今回の研究開発は、東北大学大学院情報科学研究科の小林広明教授が代表を務める文部科学省の次世代領域研究開発「量子アニーリングアシスト型次世代スーパーコンピューティング基盤の開発」において、山本教授のマルチフィジックスCFDの学術的知見、小林教授およびNECのスーパーコンピュータにおける高速化と大規模並列化技術、そして東北大学サイバーサイエンスセンター(注7)の「スーパーコンピュータAOBA(注8)」と組み合わせることで発電用ガスタービン圧縮機における非定常熱流動全周シミュレーションの高速化を実現した。
なお、スーパーコンピュータAOBAはNECのベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA(注9)」を採用しており、従来東北大学とNEC共同で研究開発を行ってきたSX-Aurora TSUBASA向けの最適化技術を数値シミュレーションに応用している。
東北大学とNECは、本研究開発を通じてガスタービンの高効率化、耐久性の高いタービンを実現し、デジタル社会における電力の安定供給を目指す。また、今後水素燃焼や新たなエネルギー資源に合わせたタービンの発電効率向上に向けた研究が加速され、タービン設計における高速・高精度な数値シミュレーションによるタービンのデジタルツイン(注10)を用いて、脱炭素社会の実現に貢献していく。
(注1)所在地:宮城県仙台市、総長:大野英男
(注2)本社:東京都港区、代表取締役 執行役員社長 兼CEO:森田隆之
(注3)2021年10月15日時点。東北大学・NEC調べ。
(注4)サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。
参考URL:「内閣府 Society 5.0とは」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
(注5)研究科長:加藤寧
(注6)computational fluid dynamics:数値流体力学
(注7)センター長:菅沼拓夫
(注8)東北大学サイバーサイエンスセンターに導入されたNECのSX-Aurora TSUBASAを中核とするベクトル型スーパーコンピュータ
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/09/press20200928-04-AOBA.html
(注9)スーパーコンピュータ SX-Aurora TSUBASA
https://jpn.nec.com/hpc/sxauroratsubasa/index.html
(注10)実際に製造される製品や部品をバーチャル環境でテストするCAE(Computer Aided Engineering)テクノロジー