ジェイテクトでは環境チャレンジ2050を掲げ「低炭素社会の構築」「循環型社会の構築」など5つの項目で環境指針を掲げ事業活動を展開する。この取り組みの一環として自動車部品、軸受、工作機械などの既存事業に留まらず、エネルギーの「つくる」「つかう」「もどす」の視点で新エネルギーの開発を積極的に研究する。
その中でジェイテクトは、水素、アンモニア、アルコールに留まらず、エネルギー密度が高く水素キャリアとしても期待できるギ酸に着目し、2018年より金沢大学との産学連携での研究開発に着手してきた。
ギ酸は、15世紀に蟻塚から発見された酸性物質。樹脂や酢酸製造時の副産物であり、家畜飼料防腐や養蜂ダニ駆除などに使用されているがその使用量は限定的で余剰資源となっている。ギ酸の分子構造はHCOOHであり、水素キャリアであり水溶性物質。ギ酸水溶液となると燃焼・爆発の可能性はなく安全性に優れ、産業廃棄物を活用するため、入手性、環境性について優位である。
ギ酸燃料電池の基本原理
直接ギ酸形燃料電池(DFAFC: Direct Formic Acid Fuel Cell)は、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の一種で、燃料として水素ガスやアルコール水溶液ではなく、ギ酸水溶液(HCOOH)と空気中の酸素(O2)を用いて発電する。
負極(アノード)に供給されたギ酸水溶液が、負極側の触媒により二酸化炭素(CO2)に分解され、その際に水素イオン(H+)と電子(e-)を生成。生成された電子は外部回路を通り、水素イオンは電解質膜・拡散層を通りカソード(正極)に達し、酸素と反応し水(H2O)を生成。これらの化学反応により電力が発生する。
今回開発の機能評価用実験装置では、金沢大学の触媒技術、ジェイテクトの既存事業で長年培ってきた材料・表面処理技術、解析技術、モノづくり技術などを駆使し、パラジウム(Pd)触媒の触媒活性を従来比3倍に高め発電効率を向上させた。電池サイズは9cm角、セルを複数枚積層した構造で、最大出力密度290mW/cm2を達成。燃料として用いるギ酸は適切に希釈した水溶液となっており非劇物、ほぼ無臭、不燃かつ化学的にも安定しているため長期間の使用および保管が可能。低騒音・低振動で稼働し、基本燃料を供給し続ければ長時間の発電が可能。ギ酸電池の特長を生かし、非常電源装置や住宅用非常電源、地域分散電源などの用途で実用できるように研究開発を推進する。
現在、数十W~百W級の発電装置の開発を進めており、社内工場での運用を計画する。さらには1 kW級を開発し、2030年の商品化を目標に設定した。照明、監視カメラ、通信用電子機器などの電源をはじめ非常用電源、遠隔地電源、さらには住宅や施設での小型分散電源などの用途をターゲットに研究開発を進める。今後の大出力化に向けて、さらなる出力密度の向上、電力安定化の技術開発を推進していく。