2021年12月20日、ダイハツがハイゼットをフルモデルチェンジした(厳密に言うとカーゴがFMC、トラックはパワートレインを刷新)。すでに多くのメディアが伝えているとおり、1987年にフォード/フィアット/スバルに搭載されたCVTの歴史を振り返ってみても、市販車搭載でチェーンあるいはベルトによるバリエータユニットを用いる機種において後輪駆動用のCVTはこれまでなかったように記憶する。
正直なところ、商用車にCVTを適用するのはなかなかの英断と感じる。とにかくコストパフォーマンスを重視するこの世界にあって、どうしても伝達効率に劣るこの変速機には難色を示す向きも多いと思われるからだ。にもかかわらずダイハツがCVTの搭載に踏み切ったのは、ユーザーの多様化(=運転者のスキルが広範になったこと)が要素として大きく、さらに購入者がモード燃費値に敏感な層であることだと想像する。ご存じ、エンジンの最高効率点を連続可変速制御によって狙い撃ちし続けられるCVTは、モード燃費値の高効率追求にはうってつけだからだ。
カットモデルを眺めていて、クラッチパックが3つあることに気がついた。みっつ?
通常のCVTだと前後進切り替えのために遊星歯車機構があり、それのためのクラッチパックが備わるのが常道(ジヤトコの副変速機付CVTはこの遊星歯車機構の増減速によって変速比幅を広げているのはご承知のとおり)。すなわち、逆転のためにクラッチ/ブレーキが少なくともふたつ、その遊星歯車機構の周りにあるはずなのだ。しかしこのCVTは、クラッチパックが離れたところにひとつずつ、3カ所にある。どういう仕組みなのだろうか。
結論から言うと、驚きの構造を本機は採用していた。前進用クラッチ/後進用クラッチ、そしてトランスファ用クラッチである。トランスファ用クラッチについてはチェーンドライブの近くにあることから容易に想像がついたが、前後ふたつのクラッチについてはどうしてもわからず、ダイハツに訊いて判明した次第。
なんと、前後進切り替えには遊星歯車機構を用いていないのだ。当初はダイハツお得意のD-CVTのための締結クラッチかと思ったがそうではなく、さらに上をゆく構造であった。
3軸式CVTから始まって直結ギヤを用いるD-CVT、さらには本機と、ダイハツの変速機担当開発者ならびにこれらの市販化にゴーサインを出すマネジメント層の知見の深さを心から尊敬する。世界に冠たる技術集団であることは間違いない。ぜひ実車で体験してみたい変速機である。