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パーツ構成からポート形状まで拘りが満載
資金力に限りのある完全なプライベートチームながら、16年に渡って国内最高峰のJGTC〜スーパーGTでメーカーワークス勢と真っ向勝負を繰り広げ、見事シリーズチャンピオン(2006年)にまで登り詰めた“RE雨宮レーシング”。そんな偉業を達成したRE雨宮GT300マシン(2007スペック)のメカニズムを改めて振り返っていきたいと思う。(RE雨宮レーシングより抜粋)
自社開発エンジンはポート形状が重要
純正サイドポートを全て埋め、代わりにローターハウジングへ直接インテークポートを設ける究極のポート形状、それがペリフェラルポートだ。かつてはマツダスポーツキットからレース用の純正ペリハウジングが発売されていたが、現在はデッドストック状態。そのため、純正ハウジングに加工を施してペリハウジングを作る必要があり、もちろんRE雨宮ではこの作業も自社で行っている。
一見すると単純な加工に思えてしまうが、実際には非常に奥が深い。この部分の完成度がそのままエンジン性能に直結し、ピーク時のパワー&トルクばかりか、過渡特性まで大きく左右することになる。まさにエンジン製作における最大のハイライトであり、RE雨宮のハウハウと技術力がフル投入される見せ所と言ってもいい。
レーシング20Bに採用される吸気ポート径は50φ。これはスーパーGTで装着が義務付けられているリストリクター(吸気制限管)に合わせたもので、空気量の計算からレギュレーション(300ps)をクリアできる最前のサイズとなっている。
もちろん単純に50φの穴が開いているわけではなく、吸気効率を高めるためにアッパフローというラッパのようなポート形状となり、吸入口にあたるローター側はカマボコ形状で仕上げられている。
このカマボコ状の断面と開けられた位置こそ、このレーシング20Bのキュラクターを決定付けるポイント。詳しいポートタイミング等はここでは割愛させてもらうが、「吸気工程が始まった瞬間にガバッと一気に混合気を吸い込んで、目一杯吸入した後にジワッと閉じる」といったイメージ。吸気慣性をも利用したRE雨宮流のセッティングが具現化されたものだと思ってもらえればOKだ。
ちなみに排気ポートは、閉じが遅くなる(開いている時間が長くなる)よう、上下とも切削加工され拡大されている。レシプロで例えるなら、作用角&リフト量の大きなカムを組み込んだような効能が期待できるモディファイだ。
これらのポートチューンによってリストリクターによる規制に対応しつつ、9000rpmまでストレスなく使える高性能ユニットに仕上げているのだ。
あえて新品のレネシスローターは使用せず
エンジンの原動力となるローターは、FC3S輸出用(NAモデル)に採用されていた圧縮比9.7の、通称“高圧縮ローター”を使っている。ベース車(FD3S)の圧縮比が9.0であることを思うと高く感じるが、NAにしては少々控え目だ。
ロータリーエンジンの圧縮比は、ローターの側面にある四角い燃焼室の深さで決まる。要するに、ローターそのものが個別に圧縮比を決定しているわけで、変更するにしてもレシプロのような自由度はない。
なお、RE雨宮ではこのFC3S輸出用を上回る、10.0の圧縮比を持つRX-8用の軽量ローターを採用した時期もあった。しかし、トルク特性こそ向上したものの、高回転での伸びに期待した効果が得られなかったため、FC3S輸出用に戻したという経過がある。
高回転にも強い2分割アペックスシール
ロータリーエンジンの生命線とも言えるアペックスシール。三角形の各頂点に位置し、連続する排気、吸気、圧縮、燃焼という工程を密封する重要パーツだ。
このアペックスシールが熱で反ったりすれば吹き抜けという症状が発生し、エンジンコンプレッションが低下する。何らかの原因で破損すれば、破片がエンジン内部を損傷させ、深刻なエンジンブローを引き起こす。どちらのトラブルが出ても走行は不可能になるため、常日頃から神経を尖らせて管理しているパートでもある。
レーシング20BにはFD3S用の2分割タイプの純正品が使われる。市販チューニングカーですらエンジンのコンディション維持のためにも3分割が有利とされているのに、なぜGTカーは2分割タイプを使うのか。テストした結果…というのは当然として、理由はこうだ。
レース中は高回転を多用する上に、エンジンに取り込む空気はリストリクターを通過してくる。これが高回転の8000rpm周辺になると、吸気抵抗から入る空気が極端に薄くなり、アペックスシールが暴れてシール性の低下を起こすのである。これが3分割だと、“分割数が増える=暴れる量が増える”となり、密封性がさらに低下してしまう。2分割の方が条件的にコンプレッション維持に適しているというわけだ。