目次
公道に降り立ったカローラベースのJTCCマシン!
超希少車ゆえの宿命か? 間違った情報が多すぎる!!
バブル期に設計され、歴代カローラの中で開発に最もお金がかかっていると言われるのが7代目、AE101型。
4ドアセダンは1991年6月から1995年5月まで生産されたが、マイナーチェンジが行われた1994年の10月、TRDの企画により4A-G搭載のセダンGTをベースとしたAE101改、TRD2000が登場した。
最大の見どころは、この年からJTCCに実戦投入されたマシンと同じく心臓部に3S-GEを搭載していたこと。スペックは180ps/19.5kgm。4A-Gを載せたベースのセダンGTが160ps/16.5kgmだから、パワーで20ps、トルクで3.0kgm上回っていたのだ。
エンジンルームはかなり詰まった印象。スペース的な問題からか、TRD2000ではメーカーオプションのABSが装着不可、バッテリーサイズが大きくなる寒冷地仕様も選べない…などの制約があった。また、ストラットタワーバーはTRDがアフターパーツとして販売していたモノと見た目は似ているが、実は3S-GEに合わせてパイプの角度を変えたり逃げを作ったりしているTRD2000専用品だ。
エンジン換装にあたっては当然、エンジンマウントブラケットを変更。この溶接作業はTRDのJTCCマシン製作工場で行われたというのだから、まさにレース直系のメイキング。振動するエンジンが各部に干渉しないよう、リヤ側のエンジンマウントには標準で強化ブッシュが使われていた。取材車両は、それ以外のブッシュも強化済み。
バルクヘッドにはTRDのシリアルプレートが装着される。写真では分かりにくいが、取材車両は4番目に生産された市販第1号車となる。ちなみに、初めの3台は展示車両として生産され、後に販売されたそうだ。
そんな3S-GEに組み合わされたミッションはST202セリカ譲りのS54型5速。しかし、5ナンバーのAE101にそのまま載せたのでは幅が合わない。そこで、ドライブシャフトは同じ5ナンバーのST182セリカ用を流用していたりする。
というように生い立ちが特殊なら、実は販売方法も特殊だった。TRD2000は陸事への持ち込み登録が必要という背景から1都3県のみでの販売に留まり、さらに25歳以下には売らない、車両代金は全額先払いのみ、新車保証一切ナシ…と二重三重の足かせがあったため、たったの10台しか売れなかったのだ。
ちなみに、TRD2000にはカローラセレス版も存在すると言われているが、それは間違い。正真正銘のTRD2000はカローラセダンのみで、セレス版は当時TRD社員がベース車両を持ち込み、3S-GEに換装したもので、TRDがコンプリートカーとしてラインナップしていたわけではないのだ。
取材車両はヘッドライトがカローラワゴン用のマルチリフレクタータイプに、フロントグリルがカローラFX用(本来はTRD2000専用品)に、ホイールが17インチのエンケイNT03にそれぞれ交換されて、若干スポーティな出で立ちになっているが、見てくれは普通のカローラセダン。
この車両が3S-GEを載せたスペシャルモデルということをアピールするのは、ボディサイドのステッカーとトランクリッドに装着されたエンブレム、後は専用サスキットでベース車両比20mmダウンを実現してる車高くらいなものだ。ちなみに、新車標準装着のホイール&タイヤは、まさかの鉄チン+ホイールキャップに185/60-14だったのだから、飾り気がないのにもほどがある。
と、ここでひとつヨタ話。車名は当初、TRD“カローラ”2000を予定してたそうだが、トヨタから「カローラの名前を使うな!」との横ヤリが入ったため、TRD2000になったという経緯がある。その名残がサイドステッカーのラインに。TRDと2000の間に切って継いだ跡があるが、本来ここには「CAROLLA」の文字が入っていたのだ。
室内に目を移そう。内装のデザインや質感が高いのはバブル期設計のクルマならでは。ステアリングはモモ製に交換され、ブレーキ&クラッチペダルはMR-S用を流用する。
そして、マニア車好きが見逃せないのはタコメーターだ。3S-GEはレブリミットが7200rpmなのにレッドゾーンは7600rpmから。その差400rpmは何なのかというと、単にセダンGTのタコメーターをそのまま使っているから。これも本性を隠すためなのか? それともコストダウン&手抜きの産物なのか?? 真相は闇の中だ。
わずか10台しか世に出なかったクルマだと思うと試乗も少し緊張。しかし、走り出してしまえば、そこは世界のトヨタ、天下のカローラ。強化エンジンマウントによってボディに伝わる振動が大きめで、エキゾーストノートもなかなか勇ましいが、いたって普通に乗れてしまう。
ちなみに、標準装着されるのはTRDハイレスポンスマフラーだが、スチール製で腐ってしまったため、取材車両はフジツボレガリスRのAE101レビン用を加工装着。オーナーいわく「車内のこもり音が減って快適になりました!」とのこと。
何より、排気量2.0Lのトルク感が気持良く、街中なら3000rpmも回してシフトアップすれば、思っている以上の加速を見せてくれる。日常域の乗りやすさで言えば4A-Gなど足元にも及ばず、しかもジェントルな乗り味なのだ。
唯一、セダンGTに劣るとすれば軽快感。車重はセダンGTが1070kg、TRD2000が1140kgと70kg重く、とくに前軸重が670kgに対して710kgと40kgプラスになっているから仕方ない。逆に、安定感があるから、余裕のトルク感と併せて高速巡航などは楽々だ。
TRD2000の当時の新車価格は335万円。その内訳は、ベース車両(セダンGT)が172万6000円、改造費が162万4000円だったとか。内容を考えれば妥当な価格だと思うが、やはりカローラで335万円は高い!というのが普通の感覚なのかもしれない…。
PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)