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SEMAショーで話題を独占した驚異のワイヤリング
ワイヤータックで名を轟かせる匠が集大成として作り上げたインテR
秀逸なワイヤリングで名を馳せるRywire(ライワイヤ)の代表、ライアン・バセリは、元々CR-Xやシビックといったホンダ車のチューニングからキャリアをスタートさせた。そのため、主力商品であるエンジンハーネスキットは、B型、K型、F型など歴代のホンダ製モーター用のラインナップが最も充実している。
スタンス系ホンダユーザーにライワイヤの愛用者が多いのもそのためだが、実は他メーカー用の商品も豊富に取り揃えており、チューナーとしてもホンダ以外の日本車はもちろん、フェラーリやランボルギーニ、オフロードトラック、モーターサイクル等々、多くのジャンルを手がけてきた。
そんなライアンにとって大きな転機となったのが、今回紹介するDC2インテグラタイプRだ。アメリカでは珍しい日本仕様の右ハンドル車を手に入れたライアンは、それを自身の集大成として『レースレディ(競技仕様)なハイスペックチューンのショーケース』と位置付けてメイク。これぞと目をつけたハイクオリティ・パーツを惜しげもなく投入し、カラーリングには当時彼のドリームカーであったポルシェ911GT3 RSをモチーフに採り入れた。
エンジンはK24型のブロックとK20型のヘッドを合体。前方吸気・後方排気にリバースマウントされている。腰下はGolden Eagleのスリーブで強化された上、Crower製コンロッドとピストンを備えている。ターボ化前提のパワーユニットを作り上げたのだ。
そこにJDLオートデザインのマニホールドを介し、オーバーヘッドでプレシジョンの6265ターボチャージャーをドッキング。最短距離で解放されるウエストゲートとエキゾーストマフラーがインパクト抜群だ。インタークーラーはギャレットの前置きをインストール。
エンジンルームだけでも紹介すべきポイントは枚挙に暇がないのだが、ライアン自身が最初に力を込めて解説してくれたのはハーネスやECUについてではなく、XRPのHS79ホースやWigginsのクランプなどを使用した独自のフューエルシステムについてだった。
トランクルームにはフューエルポンプとフューエルフィルター、サージタンクを置き、車体下に備わる燃料タンクのガソリンをエンジンへと供給するが、それぞれのパーツがエンジンルーム、アンダーフロア、トランクルームに適材適所で整然とレイアウトされ、当然ながらシステムとしてしっかり機能している様は、まるでアートのよう。仕事の細かさや確かさには、日本の匠を思わせるようなところもある。
そして車体の下を覗くと、北米ホンダの子会社である『HPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント)』製のドライサンプや、クワイフのシーケンシャルミッションがお目見え。
なお、ミッションはパドルシフトで変速する仕組みを採用するなど、レーシングカーやポルシェ由来のアイディアをオリジナルのデザインに落とし込み、確かな技術力でインストールしている。
コクピットの軸となる、モーテックのC127デジタルダッシュディスプレイを備えたセンターパネルやダッシュボードは完全なるワンオフメイドだ。
ボディ同色で塗装されたロールケージはフル溶接留め。モーテックECUは助手席フロア、カスタムメイドのドライサンプ用オイルタンクは助手席前方と、計算され尽くした位置に各パーツが配置されている。
ヘッドライトやハザード、燃料ポンプ等のスイッチはPDMのスイッチモジュールで全てを制御する。
エクステリアは、カスタムメイドのフロントバンパー、ワイドフェンダー、PCIのサイドスカートを装備。「エアロなどのスタイリングパーツはJDMがベスト」とも語るライアンは、スプーンのリップスポイラーや無限のリヤウイングもチョイスする。
ホイールは17インチのボルクレーシングZE40で、タイヤにはプロクセスR888(F245/40-17 R215/45-17)をセット。その奥で存在を主張するブレーキは、APレーシングのカスタムインディカーフロント&リヤブレーキシステムだ。
ライアンが見せつけた究極的な完成度は、2015年のSEMAショーで大きな注目を浴び、ついには全米のビルダーがしのぎを削るバトル・オブ・ビルダーズで栄えあるトップ10に選出されたのであった。
『ワイヤリングの魔術師』という印象そのままに、電気だけではなく、燃料もオイルも水も“ライン”で繋がるもの全ての流れとシステムを熟知するライアン。さぞ数学など理系の専門知識が豊富なのだろうと思って聞いてみると、「どちらかと言えば数学は苦手(笑)。ワイヤーハーネスは数学というよりパズルみたいなものだね」とのこと。
続けて「この組み合わせとこの組み合わせを試して、ダメだったら次はこれって感じの連続。興味を持てた学科に関しては成績も良かったんだけど、それ以外は全然ダメだった(笑)。そして昔も今も大好きなものがクルマ。だから、クルマ全体の仕組みや作り方を覚えたり学んだりすることは苦にならなかったし、むしろ喜びでもあったんだ」。
まさに壮大なパズルの完成品といった印象のインテグラタイプR。それはライアン・バセリという一人のチューナーの写し鏡と言えるのかもしれない。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI
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