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本来はありえないJ18Aを搭載、見た目の違和感はまるでナシ!
電子制御サスに4輪ディスクブレーキも装備!
こう言ってはなんだが、見てくれはただのカルタスセダン。わずかに違和感を覚えるポイントが唯一あるとすれば、それはトランクリッドに装着された“1.8”というエンブレムだ。
ただ、大前提としてカルタスセダンにはFF用1.5LのG15A型と、4WD用1.6LのG16A型という2種類のエンジンしか存在しないことを知らなければ、それすら「なんか変…」と思うはずもない。いや、他から一目置かれるほどのカーマニアだったとしても、スルーしてしまうのがほとんどだろう。ましてや盲点とも言えるカルタスセダンだ。恥ずかしい話だが、もし自分が遭遇していたとしても、その“異変”に気付けた自信は全くない。
ボア径φ84.0×ストローク量83.0mmで排気量1839ccとなる直4DOHCのJ18A型エンジン。カタログスペックは、最高出力135ps/6500rpm、最大トルク16.0kgm/3000rpmとなる。ヨーロッパ仕様のカルタスセダン(欧州名バレーノ)にはJ18A搭載モデルがラインナップされていたが、国内仕様には存在しなかった。
取材当日、カルタスセダンのオーナーA氏と合流。早く撮りたい気持ちを抑え、まずは一通りの話を聞く。一番知りたいのは言うまでもなく、「1.8Lエンジンを載せたカルタスセダンがなぜ存在するのか?」ということだ。
「当時、社内ではカルタスセダンで1.8LのFFを作れ! ということだったので言われた通りに製作、当然、型式認証まで取りました。ところが、そのあと営業サイドから“カルタスの1.8Lモデルなんて売れないだろ”と猛烈な反対にあいまして。開発と営業で相当やりあったんですけど、最後は営業に押し切られて発売にこぎつけることができなかったんです」とA氏は言う。
市販化は叶わなかったものの、ナンバー付きのカルタスセダン1.8は2台存在し、当時の会長と社長が乗っていたという。ところが、社長の1台は事故で全損してしまい、会長が乗る1台がカルタスセダン唯一の1.8Lモデルとして生き長らえることになるのだ。
ちなみに、現オーナーのA氏は1961年にスズキに入社し、2009年まで4輪用エンジンの実験と設計に携わっていた人物。最初に手がけたのはRRのLC10型フロンテ360のエンジンで、後F5AやF6A、K6Aなどに深く関わり、1995年以降は小型車用エンジンの担当になった。入社時は先々代の会長、社長が上司だったそうで、当然その付き合いも長く、会長がカルタスセダン1.8を手放すにあたって声をかけられたのがA氏だったというわけだ。
「会長に“Aさん、乗りなよ”と言われましてね。それまで乗っていたカローラの車検が残り短かったので、車検が切れるのに合わせて乗り替えることにしたんです」とA氏は振り返る。
メーカーの試作車…というよりも、発売こそされなかったものの市販車そのものだけあって、辻褄が合ってないようなところは一切なし。本来、国内仕様には存在しないはずのモデルがそこにあるというだけで気分は盛り上がる。
ちなみに、車両型式はG15A搭載のカルタスセダンFFモデルがGC21S。それに対してJ18A搭載の1.8LモデルはGC41Sとなる。シャシーナンバーは、なんと“0002”。通常、一桁番号の車両はメーカー内でのテストなどに使われるため、それを市販車で見ることはまずありえない。
また、1.5/1.6Lモデルはリヤブレーキがドラム式なのに対して1.8Lモデルではディスク式を採用。エンジンスペックの向上に合わせて制動性能を強化しながら、上級車種では当たり前となっている4輪ディスクブレーキという“ひとつの記号”も手に入れている。
さらに、室内からのスイッチ操作で減衰力を変更できる電子制御式ダンパー、SSCS(スズキサスペンションコントロールシステム)も装備。ただのカルタスセダンにしか見えないが、中身は相当スペシャルなことになっているのだ。
サイドブレーキの脇に設けられたSSCSの切り替えスイッチ。SSCSはカルタスクレセントワゴンGT Sパッケージにも採用されたもので、ダンパーロッドの先端にはコントロール用のモーターが付く。
タコメーター内に設け垂れたSSCSインジケーター。スポーツモードを選択すると緑色に点灯する。
1.5LのFFモデルではメーカーオプションだった運転席&助手席エアバッグ(とABS、ブレーキアシストもセット)を装備。さらに1.5/1.6Lモデルには設定されないタコメーターが備わり、センターコンソールにも木目調パネルが配される。ただし、いずれもカルタスオーナーでなければ分からない違いであることは確かだ。
はやる気持ちを抑えて試乗に出かける。1.8LのJ18A型は2000rpm付近でもトルク感があるが、少し眠い感じで、回さずに乗っている限り実用エンジンという印象しかない。
ところが、アクセルペダルを深く踏み込むと3000rpmから元気が出てきて、タコメーターの針の上昇に合わせてパワーを高めながら、6000rpm+αまで回してシフトアップする。決して速さを求めるクルマではないが、動力性能には余裕があるのに越したことはない。
しばらく走ってエンジンのフィーリングを確かめたら、電子制御サスペンション、SSCSをチェックだ。サイドブレーキ脇のスイッチに手を伸ばし、スポーツモードに切り替えると、タコメーター内のインジケーターが緑色に点灯する。
すると、それまで当たりの柔らかかった乗り心地がソリッドなものへと変化。コーナリングでは明らかにロール量が減り、ステアリング中立付近のダルな感じや、操作に対するリヤの追従遅れも大幅に緩和されるなど、まるで別のクルマになったようだ。ひとつだけ言うなら、荒れた路面での乗り心地が少しハードに思えるかもしれない。スポーツモードでは、それくらい走りが変わるということだ。
発売が見送られたクルマにも関わらず、しっかりと型式認証を取得済みで市販車として問題なく乗ることができる。こういうクルマがメーカーから出てきてしまうのが不思議に思えて仕方ないし、それ以上に興味深かったりする。
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)