「S2000の皮をかぶったテスラ!?」最先端EV化チューニングの今を追う

単なるコンバートEVと侮るなかれ!

世界中で市販車のEV化が進む中、今アメリカのチューニング界を席巻しているのがコンバートEVだ。電気配線のノウハウに長けるトップチューナーも、満を持してテスラモーターを掌握! 己がプライドをかけて最大600馬力オーバーの電動S2000を実現してみせたのである。

気鋭ビルダーの最新作はフル電動のS2000

カスタムメイドのワイヤリングハーネスを製作・販売している“Rywire(ライワイヤー)”。代表のライアン・バセリはSEMAでアワードを取るショーカーをいくつも手掛けてきた名ビルダーでもある。

その最新作は、なんとテスラのモーターをS2000に移植したEVスワップ。すべての部品を電気で動かすEVはガソリンエンジン車以上に配線の数が多く、ライアンにとっては挑戦しがいのあるテーマだった。400Vという高電圧の駆動用バッテリーでモーターを駆動する回路と、一般的なDC12Vの電源で補機類を動かす低電圧の回路を成立させ、エンジンに依存するヒーターやウォーターポンプなども電気で動かす道筋を整えている。

エンジンルームに収まる駆動用バッテリーは、シボレーのプラグインハイブリッド車である2018年式のVolt(ボルト)から流用。カクタスコンポジット製のカーボンカバーに覆われ、美観も損なわない作り込みだ。バッテリーは車体の床下と後方にも搭載されている。

バッテリーは熱すぎても冷えすぎてもダメで、常に適温に保たなければならない。そのためEMP製の電動ウォーターポンプとCSFのラジエターを2機ずつ使用し、バッテリーとモーターを循環する水冷回路を製作。サーモスタットのような役割を果たすテスラの4ウェイバルブやACコンプレッサーも使って水温管理を行い、寒い日には冷間始動もできるよう単独で動かせるバッテリーヒーターも設けられた。

リヤに備えられたテスラのモーターユニットは円筒形の半分がモーター、半分がインバーターとなっており、真ん中に変速機とデフが備えられている。

モーターの出力はプログラミング次第で220kWから475kW、だいたい304psから653psの間で調整が可能。最高回転数は1万6000rpmというから笑うしかない。それをS2000のリヤサブフレームを8インチ延長加工してマウントし、サスとブレーキを支持するワンオフのロワアームもセット。

バッテリーの充電はAC普通充電ポート(J1772)を備え、今後は急速充電のCCSに変更する予定とのこと。バッテリーの状態を監視するオリオンBMS製のバッテリーマネージメントシステム、制御を司るAEM EV製のVCU200なども使って、高電圧と低電圧の回路を成立させた。

回転式のギヤセレクターを設置するパネルは3Dプリンターで製作。メーターはAEMのデジタルダッシュを使用し、トランクルームにはコンタクターやヒューズの他、バッテリーヒーターを動かすスイッチなどを設置している。

バケットシートとステアリングはスパルコで統一。ブラック×レッドのコントラストがスポーティ度を高める。

S2000 CRタイプのリップを備えたフロントバンパーは、Casaleデザインがワンオフで製作したフォルクスワーゲンID.ルックのグリルを装備。メタルシートで片側20mmワイドのワイドフェンダーも備える。

ワンオフ削り出しの鍛造ディッシュホイールは、ストップテックのキャリパーが見えるようにあえて窓を用意した。

ライアンにとってこのEVスワップは「ハイブリッドカーを作ってみたい」という夢への布石だったが、「やってみたらメチャクチャ大変だった(笑)」とのこと。

全ての機能を成立させる配線をイチから製作することで、EVスワップの知識とノウハウを新たに習得したライアン。以前聞いた「電気配線は理科というよりパズル」という彼の言葉が印象に残っているのだが、より難度の高いパズルを解き、またひとつ高みへと上ったようだ。

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Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI

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