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東名、湾岸、谷田部…日本の最高速シーンを走り続けた紅きZ
圧巻のパワーを誇るL28改3.1Lフルチューンを搭載
東名、湾岸というストリートステージから谷田部まで、数々のチューンドマシンが最高速シーンを駆け抜けてきた。その中で、当時の面影を色濃く残したまま、未だに熱くたぎるオーナーの思いと共に、第一線への復帰を虎視眈々と狙うマシンがある。伝説の湾岸最高速チーム「ミッドナイト」のフェアレディZだ。
ベースは1978年式の280Z-T。もう40年以上も前のクルマなのに、そうと感じさせないのは、純粋に速さを追求し、常に最高速の世界でトップランナーとして走り続けてきた本物のチューンドカーだからだ。ABRのエアロをまとった攻撃的なルックスだけに留まらず、もっと根本的な部分…間近に接すれば、誰もが「雰囲気からして只者じゃない」と、思うに違いない。ミッドナイトS130Zは、そういう1台だ。
かつてL28改3.1LにK26タービンをツインで装着していたエンジンは、現オーナーの手元にやってくると同時に仕様変更。腰下にHKS89φピストン、L20用コンロッド、LD28用を加工したフルカウンターシャフトが組まれた。一方ヘッドにはポート研磨や燃焼室加工など、メカフルチューン並みの作業が行われ、ABRオリジナルカムシャフトが組み込まれる。タービンもK26に代えてIHI RHC6 VX55がセットされた。
吸排気がターンフロー式のため、運転席側はスッキリしている。一方、助手席側にはウェーバースロットルやABRオリジナルサージタンク、新たに引き直されたフューエルデリバリーパイプなどが確認できる。
エンジン性能を引き出すために制御系も一新。それまではレビックで追加インジェクターを制御していたのに対して、モーテックM4によって720ccメインインジェクターを制御する方式へと改められた。
パワーに合わせて冷却系の容量アップも抜かりなし。インタークーラーはトラスト3層で、コアを上下に分割したツインエントリー式を採用する。また、アルミ4層ラジエターによって水温の安定化も実現している。
マフラーはABR細木エンジニアリングのオリジナルステンレス製に交換。メインパイプ径は100φで、高回転域における排気効率を徹底的に追求した設計だ。
ホイール&タイヤは17インチ。フロント8.0J、リヤ9.0JのパナスポーツC8Sに、215/45、245/40サイズのポテンザRE-01が組み合わされる。足回りは、最高速向きのセッティングが施されたABRオリジナル全長調整式車高調+ベステックス製スプリング。また、ブレーキはフロントMA70レース用ローター改、リヤBNR32用ローター改に、BNR32キャリパー改がセットされる。
駆動系もOS技研トリプルプレートクラッチにZ31 300ZX用ボルグワーナー5速MT、ABRオリジナルR200デフ(ファイナル比3.545)などで強化済みだ。
スピードメーターは300km/hフルスケールに交換、タコメーターは1万rpmスケールのBNR32用が流用される。また、各種追加メーターはダッシュパネル中央とセンターコンソールにインストール。ノーマルの雰囲気を生かしながら、機能的に仕上げられている。
オーナーいわく「追加インジェクター仕様の時は始動性があまり良くなく、まずエンジンに火を入れることがひとつの“儀式”でしたし、エンジン特性も中回転域からパワーが盛りあがってきて、上でいきなり炸裂する典型的なドッカンターボでした。制御系に手を加えたのは、トップエンドの1km/hよりも中間加速を重視したからです。結果的には、始動性も低回転域でのカブリも改善されたので、速さだけでなく、かなり乗りやすくもなりましたよ」とのこと。
この仕様での推定出力は最大ブースト圧1.0キロで680ps。L型エンジンがチューニングに対して抜群の適応力を持っていることがよく分かる。
必要に応じて、各部のアップデートを図ることで未だに進化し続けるS130Z。最高速シーンで持てる力を解き放つのは、そう遠い未来のことではなさそうだ。
TEXT:Kentaro HIROSHIMA