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軽快な走りが楽しいSiとパワーで押すターボS
一人でも多くのユーザーを取り込むべく、隙間のないきめ細かなモデルラインナップを誇る世界のトヨタ。ボーイズレーサーに属するモデルも多いが、人気、知名度ともに頂点と言えるのが、“スターレット→ヴィッツ”のラインであることに異論はないだろう。
STARLET Si【EP71】
3代目スターレットとして1984年10月に登場したEP71。従来型KP61からの最も大きな変更点は駆動方式がFRからFFに改められたことだ。
エンジンは新開発1.3直4SOHCの2E-ELU型。クロスフロー式ヘッドを持ち、SOHCながら吸気2、排気1の3バルブ仕様となる。スポーティグレードSiと競技ベースグレードRiには電子燃料噴射装置(EFI)が搭載され、93ps/11.3kgmを発揮した。制御方式はDジェトロとなる。
そんなSiオーナーの高野さんにとって、これが3台目のEP71。22歳から1986年式のSiばかりを乗り継ぎ、今の愛車とは23年の付き合いになる。
「どこが好きかと尋ねられると返答に困るのですが、自分の愛車として初めて買ったクルマなので思い入れがあるのと、長く乗り続けていても基本的に不満を感じないというのは間違いありません」と高野さん。同じEP71乗りの仲間達と情報交換したりパーツを融通しあったり、クルマを維持していくための努力には余念がない。
エアロパーツが装着されない分、ボクシーさが際立つスタイル。ターボSとは雰囲気を大きく変えている。ピラーが細く、ガラスエリアが広いため室内の開放感は抜群だ。ホイールは1台目のSiから履くイエローでペイントされた6Jオフセット+38のブラックレーシング。そこに175/60サイズのヨコハマA539が組み合わされる。
ナルディ製ステアリングホイールとトヨタ旧タイプシフトノブを装着。イベント参加時はいずれもノーマルに戻すという。センターコンソール中段のFMチューナー付きカセットデッキはEP71後期型用で、「CDの入力端子が追加されているので流用しました」と高野さん。
スピードメーターとタコメーターは水平ゼロ指針で、その下に水温計と燃料計が並ぶ。
ボディサイドのステッカーはインドネシアでレプリカを作っている人がいるとのことで、それを購入。「前期型用なのでデザインが微妙に違うんですが、あまり細かいことを気にしても仕方ないので」と高野さん。
走りの方はタイヤが転がり始めた瞬間に、「クルマが軽い!!」と実感できるほど。エンジンフィールも軽快で、SOHCながら6000rpmオーバーまで気持ち良く吹け上がる。パワーは必要にして十分だ。
ハンドリングはややトルクステアを感じさせる古典的なFFのそれ。ステアリング操作に対するクルマの動きは非常にシャープで、タイヤグリップの限界内であれば、それこそ自由自在にクルマを操れると思えるほどだ。ヒラリと舞うように目の前のコーナーをクリアしていくこの感覚。ドライビングの楽しさはパワーよりもボディの軽さに依るところが大きいことを改めてSiが教えてくれた。
STARLET TURBO S【EP71】
一方のターボSは1986年1月に発売。2E型エンジンにターボと空冷式インタークーラーを追加することで105ps/15.2kgm(1988年1月以降の後期型は110ps/15.3kgm)までスペックが向上した。
また、インタークーラー冷却用ダクト付きボンネットを始め、専用エアロパーツを装備。足回りの強化も図られ、“かっとび”から“韋駄天”へと改められたキャッチコピーそのままに走りのパフォーマンスを劇的に高めた。
オーナーの大橋さんは、9年前にネットオークションでたまたまターボSを見つけて購入。当時EP71にはそれほど興味はなかったと言うが、今では最終型限定モデルのスーパーリミテッドと部品取り車も所有するほどEP71にハマっている。
「実はこのターボS、全く素性が分からず、現車確認もしないで買ったんです。手元に来てから初めてクルマの状態を知り、半年くらいかけてレストア作業を行ないました。完成してからも、ちょこちょこパーツを装着したり交換したりして今に至るという感じですね」とのこと。
ウイニングスポーツ製リヤスポイラーやR31ハウス製R31用改フロントリップスポイラーを装着。ボルクレーシングTE37ソニックSL(7.0J+34)とシバタイヤ(195/50R15)が足元を飾る。フロントはEP82用アームやナックルを移植した上で、エンドレススーパーマイクロ6キャリパーと262mm2ピースローターでブレーキ容量アップ。
メータークラスターのデザイン変更でサテライトスイッチが設けられたダッシュボード。左側一番上にブースト圧切り替えスイッチが付く。ステアリングホイールはナルディ製、シフトノブはトラスト製。3連メーターはブリッツ製ブースト/電圧/電流計だ。メーターパネルのデザインとゼロ指針の位置も改められ、タコメーターの下にバーグラフ式ブースト計が装備される。
オーダーメイドで製作してもらったボディサイドステッカー。当時と同じく反射タイプのシートを使い、シルクスクリーンによって生み出されたものだ。また、リヤスポイラーに貼られたturboステッカーも同様だ。
クスコ製強化クラッチのミートポイントを探りながら発進。5ZIGENボーダー304が吐き出すターボ特有の低い排気音を聴きながら加速する。
当時ありがちだったドッカンターボでなく3000rpmからスムーズにブースト圧が立ち上がる特性。そこから上の回転域で大きくパワーを盛り上げていく。「カムを作用角が大きいNA用に交換しているので6000rpm付近の伸びが良くなってますね」と大橋君。中回転以上のパワーと加速感は刺激的で何度でも味わいたくなる。
足回りがYZスポーツ製車高調に交換され、タイヤも15インチの195幅を装着していることでステアフィールは落ち着いたもの。クルマが軽快に向きを変えるてくれるのはSiと同様だが、2台を乗り比べてみての印象は対照的だった。
終わりに
どこまでも軽快なSiと、パワフルさが際立つターボS。同じ車種だというのに、ここまで性格の異なる2台が用意されていたという事実。ボーイズレーサーと言えば、やっぱり1980年代に尽きるとの思いを新たにした。
OWNER:高野光典(Si)/大橋直希(ターボS)
Special Thanks:松岡洋志(HGN No.0046)