S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する

機械式4WSによって最小回転半径はわずか4.8m

デートカーと舐めていたら走りは意外にスポーティだった!

3代目BA型プレリュードは1987年4月に発売。量産車世界初の機械式4WS(4輪操舵システム)が大きな話題となった。新車販売台数は先代AB型に続き好調だったが、翌年S13シルビアが登場すると状況が一変。似たようなコンセプトながらFRでターボエンジンも用意され、走り系ユーザーまで取り込んだS13に対して劣勢を強いられることになった。

そこでホンダが打った一手が、1989年11月のマイナーチェンジ時にラインナップされたインクスだ。当時の資料には「インクスの追加で高級感を持ったシリーズとなり、さらに幅広いユーザーの要望に応えられるものとなった」と自慢げに謳われている。

グレード展開は、基本的にXXとSi(エアバッグ標準装備のSi SRSも)の二本立て。エンジンは2.0L直4のB20Aで、XXにはSOHC+CVデュアルキャブ仕様(110ps/15.5kgm)、SiにはDOHC+PGM-FI仕様(5速MT車145ps/17.8kgm、4速AT車は140ps/18.0kgm)が搭載された。

インクス最大の特徴はヘッドライトがリトラクタブル式から固定式に変更されたことだ。それに伴い、ボンネット、バンパー、フロントフェンダーとフロント周りを専用設計。

一説には北米市場でのヘッドライト常時点灯義務化に対応するため固定式にしたそうだが、打倒シルビアに燃えるホンダ開発陣がカンフル剤としてインクスを投入したという方が話としては面白い。

それから、全高がとても低い。1295mmという数値は86の1285mmに肉薄するものだが、86よりも遥かに低く思えるのはボンネット高が究極的に抑えられているからだ。

さらに、真横から見るとフロントフェンダーアーチ上端とボンネットのラインがほぼ同じ。直4エンジンを横置きで収めつつ、この低さを実現したのは称賛に値する。

内装もインクス専用。シートはフルモケット表皮とされ、サンバイザーやルーフライニングも布張りとなるなど、素のプレリュードよりもラグジュアリーで落ち着いた雰囲気を演出している。つまり、スペシャリティ感を一層高めたモデルがインクスなのだ。

前席はサイドサポートを張り出させたスポーツタイプ。助手席の右側面にもリクライニングレバーがあり、運転席から操作できたのがデートカーと言われた由縁。

後席は身長175mの筆者でも座れるが、頭上にリヤウインドウが迫り、夏場に長時間乗るのは厳しそうだ。また、背もたれ前倒しでトランクスルーも可能となっている。

初代からガラスサンルーフを標準装備するのがプレリュードの伝統。前後スライド(開閉)のみとされ、チルトアップ機構は付かない。インナースライド式で、直射日光を遮るためのサンシェードが備わる。

続いて外装。Bピラーに『A.L.B.』、トランクリッドには『Si 4WS』のエンブレムを確認。装備されているアイテムをしっかり主張するのが、この時代のクルマの特徴だ。

ホイールはシンプルで力強いデザインの無限M5で、純正1インチアップとなる15インチに交換。そこに195/55R15サイズのネクストリーが組み合わされる。

マフラーは純正デュアル出し。メインサイレンサーの奥にデフキャリアっぽくチラリと見えるのが、後輪をステアさせるためのギヤボックス。4WSはステアリング舵角が小さい時は後輪を同位相(前輪と同じ向き)に、舵角が一定以上に大きくなると逆位相(前輪と逆の向き)にステアさせる。それをメカニカルに行なっているのが変態極まりない。

運転席に腰を下ろすと思った通りに着座位置が低く、さらに広いガラスエリアとダッシュボード形状の相乗効果で車内の開放感は想像以上だ。

エンジンは低中速トルクがあってジェントルなフィーリングながら、4000rpmを境にパワー感を伴いながらシャープに吹け上がる。ホンダB型はB16A/BやB18Cがスポーティユニットで、それ以外は実用エンジンだと思っていたが、いやいやB20Aも十分に速いし楽しい。

それと4輪ダブルウィッシュボーン式サス。重心の低さもあってロードホールディング性が高く、ハンドリングも思いのほかクイック。機械式4WSはステアリングを目一杯切ってのUターン時に、「これがFF!?」というくらい小回りが利くので取り回しが楽。ちなみに、最小回転半径は4.8mとコンパクトカー並の数値だ。

王道をゆくプレリュードに対し、個性をプラスしたインクス。2ドアスペシャリティクーペが絶滅してしまった今、さらりと乗っていたら、こんなにカッコ良いクルマは他にないように思う。

■SPECIFICATIONS
車両型式:BA5
全長×全幅×全高:4505×1695×1295mm
ホイールベース:2565mm
トレッド(F/R):1480/1470mm
車両重量:1190kg
エンジン型式:B20A
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ81.0×95.0mm
排気量:1958cc 圧縮比:9.4:1
最高出力:140ps/6000rpm
最大トルク:18.0kgm/4500rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式:FRダブルウィッシュボーン
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR195/60R14

1 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の1枚めの画像

2 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の2枚めの画像

3 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の3枚めの画像

4 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の4枚めの画像

5 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の5枚めの画像

6 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の6枚めの画像

7 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の7枚めの画像

8 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の8枚めの画像

9 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の9枚めの画像

10 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の10枚めの画像

11 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の11枚めの画像

12 / 12

「S13シルビア対策として放たれたプレリュードの亜種!?」固定式ヘッドライト採用のインクスを再考する」の12枚めの画像

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

「これぞ幻の三菱・・・旗艦モデル“初代ディグニティ”を捕獲!」4.5LV8を横置き搭載した異端児の全て

「ワンオーナー4万キロのセリカGT-FOUR RCはレアすぎる・・・」限定5000台のホモロゲモデルに乗った!

「ダイハツ・アプローズでACシュニッツァーを履きこなす!?」生粋のダイハツマニアが辿り着いた変態仕様!

キーワードで検索する

著者プロフィール

weboption 近影

weboption