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初期の解除方法はただの配線カットだった!?
チューニングと共に進んだリミッターカットの歴史
最高速度を抑えるため、メーカーによって装着されるスピードリミッター。国産車の場合、知っての通り普通自動車は180km/h、軽自動車は140km/hを目安にリミッターが作動する。このスピードリミッター装着には法的な根拠があるわけではなく、あくまでもメーカーの自主規制として設けられているもの。つまり、何らかの手段でリミッターを解除したとしても、その行為自体が処罰の対象になることはない。
スピードリミッターがクローズアップされ始めたのは、1970年代の度重なる厳しい排ガス規制を乗り越えて、国産車がパワー競争へと突入した1980年代初頭。GZ10ソアラに代表されるハイパフォーマンスカーの台頭だった。ノーマルでオーバー200km/hを狙えるにも関わらず、強制的に最高速を180km/hに制限してしまうこの制御は、完全に“目の上のタンコブ”状態。
当時、創刊間もないOPTION誌は谷田部のJARI高速周回路で最高速テストを開始していたが、まずはノーマルの実力を知るためにスピードリミッターの解除が必須となった。さらに、パワーアップを図るチューニングカーにとっては、ベース車を手に入れたら真っ先に行なうべき一つの“儀式”だったと言っていい。
この頃のスピードリミッターは、車速信号をもとに設定速度に達すると燃料供給を停止。スピードメーターが180km/hを超えようとするあたりで、ガクン…と大きな衝撃を感じたのはそのためだ。
そんなスピードリミッターの解除は非常に原始的で、純正ECUに入る車速信号線を探し出し、それをカットするというものだった。1980年代半ばくらいまでのOPTION誌でも、「メーカー別/車種別スピードリミッターカット」といったテーマで、その具体的な方法を誌面で紹介。当時、すでに多くの車種に電子燃料噴射装置が採用され始め、エンジン制御用ECUも備わってはいた。しかし、そのシステムが非常に単純だったため、ハーネスをカットするだけで簡単にスピードリミッターを解除することができたのだ。
ところが、1980年代も後半に入るとターボエンジンが一般的となりパワーが大きく向上。耐久性や信頼性、あるいは燃費やドライバビリティといった性能を高次元でバランスさせるべく、徐々にエンジン制御も緻密化、複雑化していくことになる。
チューナー達が純正ECUを解析し、各種マップの最適化によってエンジンのパフォーマンスアップを狙うようになったのがこの頃だ。ECU解析の過程でスピードリミッターに該当するマップを探り当て、それを書き換えることで解除するのが一般的となった。
それと並行して1990年代にかけてはHKSのSLDやブリッツのスピードジャンパー、永井電子のウルトラスピードモニターなどに代表される、純正ECUの車速信号線に割り込ませる後付けタイプの電子デバイスも登場。低コストかつ簡単な配線作業でスピードリミッターを解除できるとあって多くのチューニングユーザーに受け入れられた。
また、それまでスピードリミッターの作動は燃料カットによるものが大半だったが、1990年代に入ると点火時期の遅角を併用する方式も登場。これは、突然の燃料カットで少なからずエンジンに与えるであろうダメージを軽減する策と言える。
その後、『純正ECUのマップ書き換え』、または『後付け電子デバイス』でのスピードリミッター解除という図式は、2000年代に入ってから採用例が一気に増えたCAN通信を導入したクルマになっても基本的に変わってはいない。つまり、1980年代後半に確立された手法が、30年以上経った今でも使われているというわけだ。
また、電子制御スロットルを採用するクルマが増えたことで、スピードリミッターの方式も変化。180km/hを検知すると、いくらアクセルペダルを踏み込んでも、それ以上スロットルバルブが開かない制御となる。
一方、新しい流れと言えるのが、2007年発売のR35型GT-RやUSE20型レクサスIS F(マイナーチェンジ後モデル)に搭載された、メーカー純正の“サーキット限定スピードリミッター解除”機能だ。
これはGPSで自車位置を読み取り、富士や鈴鹿などサーキットにいることが認識されると、任意にスピードリミッターの解除を選択できるというもの。チューニングユーザーにはあまり関係ないかもしれないが、サーキット限定とはいえ、メーカーがこのような機能を新車に採用したのは画期的だったと言える。
さらに2017年に登場したNC1型NSXに至っては、場所を選ばず、つまりは一般公道でもスピードリミッターが解除できる機能が採用されたのだ。
思えば、長く続いた280psの馬力自主規制を初めて打ち破ったのもホンダで、2004年発売のKB1型レジェンドだった。それに続き、NSXでスピードリミッターも撤廃。先頭を切って自主規制をブレイクするホンダのその姿勢に拍手を送りたい。