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空力ボディと常用800馬力の強心臓で49秒445をマーク
アルテッツァベースのTRB-01、ランエボ8ベースのTRB-02に続く、“Tsukuba Record Breaker”シリーズの第3弾がこのトヨタ86ベースのTRB-03だ。筑波50秒切りを達成したスーパーチューンド、そのメイキングに迫る。(OPTION誌2018年4月号より抜粋)
その作り込みは限りなくレーシングカーに近い
時は2017年。筑波サーキットを攻略するべく、日本最大のチューニングパーツメーカーであるHKSが文字通り全霊を賭けて創出した戦闘機、それが“HKS TRB-03(Tsukuba Record Breaker)”である。
TRBを名乗るマシンは、2003年に54秒739(当時最速)を叩き出したCT9AベースのTRB-02以来だ。
今作のベースとなっているのは、2017年のHKSプレミアムデイで初公開されたGTS800(トヨタ86)。外装を含むボディの大半がドライカーボンで構成され、HKSとしては初となる本格的な空力ボディを採用しているのが特徴だ。
エンジンはもちろんFA20ベース。ターボ化を前提に、自社の強化パーツによってボアストロークを86φ×86mmから94 φ×90mmへと大幅に拡大(2.0L→2.5L)だ。当初はエンジン本体の剛性確保に苦労したが、トライ&トライの末に、800psオーバーの常用を可能にしている。
なお、エンジン搭載位置はノーマルよりもかなりローマウント化されている。オイル供給方式は、もちろんドライサンプだ。
組み合わせる過給機はGTIII-5R。当初は開発中の大型スーパーチャージャーを予定していたが、これを制御しやすいターボチャージャーに変更。GTIII-4Rと5Rでセッティングを重ね、最終的にはピークパワー重視で5Rに落ち着いたという経緯がある。
冷却系は、重量増を懸念してラジエターはリヤマウントとせず、コアサポート内側にインタークーラーと合わせてVマウント化。フロントバンパー開口部にはキッチリと導風板を設け、フレッシュエアを積極導入する。
また、ターボ化に伴って排気レイアウトは大きく変更され、エキゾーストマフラーとウエストゲートパイプはボンネットから最短距離で排出。
サスペンションはジオメトリーの自由度と軽量化を狙って、前後ともダブルウィッシュボーン化。フロントはストラットタワー周りに純正の面影が残っているが、リヤはパイプフレームを組んでフォーミュラマシン並みのアーム長を持つサスペンションを構築している。
タイヤはヨコハマのA005スリック(FR:300/680R18)を装着するが、最終的にはSタイヤでの筑波50秒切りを目標としている。
スペシャルサスペンションにセットされるダンパーは、専用設計のハイパーマックスだ。
ただし、大型ディフューザーやトリプルエレメントのリヤウイング、さらに負圧を生むディフューザー形状のフロアによるダウンフォースはトータルで3トンにも及ぶ。ダブルウィッシュボーンのレバー比もあるが、強大なダウンフォースを受け止めるために、スプリングレートは60kg/mmという超ハードレートを選択している。
室内はまさにレーシングカーといった雰囲気の、アタックに特化した仕様となる。前後重量バランスを最適化するためにドライバーシートは大きく後方へとオフセット。それに合わせてステアリングシャフトは延長加工され、ペダル類もオルガン式としている。
助手席部の突起はドライサンプ用のオイルタンク。駆動系はHKS製のシーケンシャルミッションにトリプルプレートクラッチ、プロペラシャフトやドライブシャフトは高強度のカーボン製を採用する。
タイムアタックマシンとして、欠かすことのできない空力チューニングも徹底。ハンマーシャーク形状のフロントウイングやフロア下のディフューザー形状まで含め、これらはHKSとしては初となる最先端のコンピュータ解析技術を駆使して開発されたものだ。
迎えた2018年2月15日。谷口信輝選手が駆る紅きレコードブレイカーは、筑波の歴史を動かした。タイムは49秒445。スリックタイヤ装着とはいえ、この記録はチューニングカーどころか、レーシングカーを含めてのハコ車最速なのである。
見事に記録を打ち立てたTRB-03だが、HKSにとって筑波の記録はあくまで通過点、いや、ようやくスタートラインに立った段階と言っていい。なにせ、このマシンが見据えているのは、世界のチューニングシーン。ターゲットは筑波から世界へ。今後もHKSの快進撃に注目だ。
●取材協力:エッチ・ケー・エス 静岡県富士宮市北山7181 TEL:0544-29-1235
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