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究極のロードゴーイングカーをベースに現代的アレンジを実施
平成を代表するサラブレッドは未だ色褪せぬ魅力を放つ!
『欧州スーパースポーツを超える性能』というコンセプトのもと、HKSが2年という長い歳月(1989年〜1991年)を費やし創造したBNR32ベースの究極チューンドコンプリート、それが“HKS ZERO-R”だ。
ドイツのニュルブルクリンクで最終テストを行った後、アウトバーン(ドイツ)〜アウトストラーダ(イタリア)〜オートルート(フランス)を経由して、スペインのバルセロナを目指すという総距離2000kmに及ぶ壮大なヨーロッパ大陸ツーリングを敢行。
ピークパワー至上主義が主流であった当時のチューニング業界に総合性能主義を提唱し、日本のトップチューナー達に大きな影響を与えた1台である。
完成後はコンプリートカーとして販売されたが、1600万円というハイプライスだったこともあり、開発車を含めても生産されたのはわずか10台。
現存するのは世界中で6台のみというから恐れ入るが、ここで紹介するZERO-Rはいわゆるセカンドジェネレーションモデル、“HKSテクニカルファクトリー”が2006年に立ち上げた復刻プロジェクトで誕生した個体だ。
スタンダードな純白のボディカラーでありながら、明らかに只者ならぬオーラを漂わせるこのZERO-R。オリジナルのスタイルを尊重しつつ、中身は凶暴さを秘めた800㎰のRB26改2.8Lフルチューンで仕上げられているのが見所だ。
エンジン本体は強度に優れたGTブロックをベースに、HKSの2.8Lキャパシティアップグレードキットステップ2やナプレックのハイレスポンスキットで徹底強化。そこに組み合わせるタービンは、HKS最大級の風量を誇るGTIII-5Rだ。アクセルを踏み込めば、まるで車体がワープをしたかのような暴力的な加速が味わえる。
現代のチューニングシーンにおいて主流となっているのは、街中での扱いやすさを重視したストリートスペックだ。逆張りの美学とでも言えようか。そうしたトレンドを先取りしていたZERO-Rを、敢えて過激に仕立て上げているのも面白い。
とはいえ、かつてのゼロヨン仕様のように快適性が大きく犠牲になっているわけではない。連続可変バルタイ機構であるHKS製Vカムの導入により、必要にして十分な低・中速トルクを確保している。
サージタンクもナプレックの大容量タイプに変更。インジェクターは1050ccで、燃料はHKSアルミデリバリーを通じて送り込まれる。
エンジンマネージメントはF-CON Vプロが担当。緻密な現車合わせセッティングを施すことで、最大ブースト圧1.8〜1.9キロ時に最高出力800㎰を絞り出している。
ホイールはアドバンレーシングGTビヨンド(10J+25)、タイヤにはアドバンネオバAD09(265/35R18)をセットする。ブレーキは前後ともブレンボのGTキットで強化済みだ。
MOMOステアリングの脇に油温計をさりげなくインストールするなど、コクピットメイクはシンプルな印象。ミッションはゲトラグ6速に変更し、合わせてトランスファーやプロペラシャフトもBNR34用を移植。クラッチは扱いやすさに定評のあるニスモ・カッパーミックスツインをチョイスする。安全性を高めるべくロールケージも組み込む。
駆動配分を調整できるE-TSコントローラーや追加メーターはグローブボックス内に美しくレイアウト。エアコンやカーナビは問題なく機能するため、ストリートでのイージードライブが可能だ。
完全2シーター化されているのもZERO-Rの特徴。空いたスペースには燃料タンクが設けられ、それに伴って給油口の位置もリヤフェンダーの前方に移設されている。
トランクルームにはフューエルコレクタータンクを設置。燃料供給の安定化を図っている。
ストロークセンサーを駆使し、コンマ1mm単位で最適なダウンフォース量を導き出したというZERO-R専用ウイング。純正よりも低く、後方にオフセットマウントされているのがポイントだ。
燃料タンクの移設によって、リヤセクションは大胆な空力最優先のエアロフォルムを実現。ちなみに、エキゾーストマフラーはメイン90φの800ps対応仕様へとリメイクされている。
過激なパワーフィールに中にも日常性を兼ね備えたこのZERO-Rは、まさに令和のフルチューン仕様を上手く体現した1台と言えるだろう。その仕上がりの良さに脱帽だ。
●取材協力:HKSテクニカルファクトリー 埼玉県戸田市美女木5-2-8 TEL:048-421-0508
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HKSテクニカルファクトリー
https://www.hks-tf.co.jp