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低くても走れなければ意味がない!
DR30では考えられない極低車高
ケンメリGT-RのS20以来となる4バルブDOHCエンジンを積みながら、それが4気筒のFJ20だったためにGT-Rを名乗れなかった…と言われるDR30スカイラインRS。
本流に乗れなかった“悲運のスカイライン”的な受け取られ方もあるようだが、熱烈なファンにしてみれば、実はそんな話など取るに足らないことだったりする。むしろ、RSという歴代唯一のグレードであるところに大きな魅力を感じ、誇りを持って乗り続けているオーナーがほとんどだ。
DR30は1981年にNAのFJ20E(150ps)を搭載するRSが、続いて1983年にFJ20ET(190ps)を載せるターボRS/RS-Xが登場。さらに翌年、インタークーラー追加で最高出力を205psまで高めた最終進化モデル、RS/RS-XターボCが発売されるなど、1980年代前半にメーカー間で勃発したパワーウォーズの牽引役として、わずか3年の間に劇的なスペック向上を果たした。そのポテンシャルの高さから、格好のチューニングベースとして人気を集めたのも当然だった。
しかし、そんなDR30にも弱点がなかったわけではない。エンジンオイルパンが下方向に大きく突き出していたことで、車高を落とせば高い確率で路面にヒット。ストレーナーにまでダメージが及ぶことで、エンジンブローが頻発した。また、セミトトレーリングアーム式のリヤサスも、車高を落とすほどネガティブキャンバーが大きくなり、タイヤ接地面積の減少によるトラクション不足がオーナー達を苦しめたのだ。
車高を落とすには不利な条件が多いそんなDR30で、究極のシャコタンを目指しているのがオーナーの荒武さん。小学生の頃、スーパーシルエットを戦うトミカスカイラインに憧れたことが、今に続く物語の始まりだった。
「前期型、後期型、2ドア、4ドア、NA、ターボ…とバリエーションが多いモデルですが、僕は初めから前期型4ドア、ボディはガンメタ黒の2トーンと決めていました。しかも、それまで乗っていたS15シルビアがスペックSだったので、DR30だったらNAのRS以外に選択肢はありませんでしたね」。
6年前、全ての条件が揃ったDR30を手に入れた荒武さんは早速チューニングを開始した。走行可能な限界まで車高を落とすために最も力を入れたのが、足回りや駆動系を含めたシャシーメイキングだったことは言うまでもない。
リフトで上げて下回りを眺める。車高を落としたDR30でネックになるオイルパンはストレーナーを加工して20mmほどスライス。サスメンバーは30mmの上げ加工が施され、ロワアームは延長したS15用を使用する。ハブはS13用に交換、車高調はファイナルコネクションのS13用(F16kg/mm R14kg/mm)を装着。ピロテンションロッドはS13用ベースに、リヤトーコントロールアーム用ブラケットを流用した自作加工品だ。下回りで最も低く、路面干渉センサーとしても機能するスタビライザーは、リンク加工によりセット位置をできるだけ上げて地上高を確保する。
ロワアームはエンド部分が高く、かつボールジョイントも長いタイプを使うことでアームの角度を適正化。また、サスストローク時にステアリングロッドが当たらないよう、メインフレームには逃げ加工が施される。
エンジンに合わせて搭載位置が変更されたミッション。加工マウントにシム(プレート)を組み合わせることで高さを合わせ、プロペラシャフトに負担が掛からないように調整される。
右メインフレームの前側。下面が20mmくらい面取りされ、路面とのクリアランスを確保する。低い位置にあって路面と接触する可能性が考えられる箇所には徹底的な対策が行なわれているのだ。
リヤサスメンバーは20mmほど取り付け位置を上げてリジッドマウント。それでも車高ダウン量に対するドライブシャフトの上向き角と、サスストローク時のキャンバー&トー変化が大きいため、細部の手直しが図られる。また、前後ブレーキキャリパーはS13ターボ(S14/15NA)用を装着し、それに伴ってリヤサイドブレーキ用ワイヤーの取り回しも変更される。
リヤサスアーム内側のピボットにはハコスカ用偏芯ブッシュを使って調整式に変更。車高を落としていくほどに強まるトーインを補正する。また、アームロックを防ぐため、フロアが立ち上がる箇所のメインフレームには逃げ加工も実施。
ドライブシャフトの上向き角を抑えるため、取り付け位置が16~17mm高められたデフキャリア。後ろ側は純正ブラケットを加工し、サブフレームに固定される前側はワッシャーと強度の高いロングボルトの組み合わせで嵩上げされる。
フロントパイプ以降のマフラーはワンオフ。サイレンサーはアルファード用の中身をくり抜き、容量を拡大し、仕切り板を追加したものになる。テールパイプはサイド出し。「スーパーシルエットを始め、スカイラインのレーシングマシンと言えばサイド管ですからね」と荒武さん。
前後アーチを大きく切り上げて装着された片側50mmワイドのビス留め汎用オーバーフェンダー。ホイールはRSワタナベエイトスポークの15インチで、フロント10.5Jオフセットマイナス32、リヤ12Jオフセットマイナス51を履く。タイヤはフロントが205/45サイズのプロクセスT1R、リヤが245/45サイズのマキシスだ。
ドアを開閉できるようリヤのオーバーフェンダーを分割加工。リヤクォーターパネル側の前端にはチリを合わせる位置決め用のキャッチも設けられる。
荒武さんが自宅の軒先で組んだというエンジンも見逃せない。ピストンリングやメタル交換などのオーバーホールを行ない、JUNでバルブシートカットをしてもらったヘッドを組み合わせる。キャブレターはOER製45φ。色が落ちてしまっているが、エキマニは当時の青いトラスト製が装着される。
エンジンマウントをRB用に変更し、エンジン搭載位置を上げているのもポイントだ。
この車高とブリッド製フルバケの相乗効果で、運転席に収まった時のアイポイントの低さは想像を遥かに超えていた。エンジン本体はノーマルだが、キャブ仕様とされたFJ20はアクセルペダルを踏む右足の僅かな動きにも即座に反応。ピックアップが抜群に良い。
そこから素早く、大きく踏み込めば、パワーと吸排気のトーンを高めながら6000rpmオーバーまで軽快に吹け上がる…と冷静にクルマを感じ取れたのは、路面がフラットなところを選んで試乗したから。さすがにこの車高だと、絶えずうねりや凹凸に出くわす一般道では同じように踏めなかったと思う。
見せるだけのシャコタンに用はない。走りと低さの両立に熱意が注がれたDR30は、まさに荒武さんが手掛けた傑作だ。