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アンチラグシステムとは
アンチラグシステムとは、レーシングカーはもちろん、一部の市販スポーツモデルにも純正採用されているエンジン制御のひとつ。アクセルオン・オフ時に起こるターボラグを防ぐことを目的に生まれたシステムで、アクセルオフ時などに“パパパンパンパン…”と連続的に弾けるような炸裂音がするアレだ。
簡単に仕組みを説明すると、燃焼室で不完全燃焼を起こしつつスロットルから大量の空気を送り込んで、未燃焼ガスの後燃え(EXマニでの燃焼)を誘発。その燃焼圧で排気圧力を確保し、タービンの回転低下を防いでブースト圧を高く保つ(落とさない)というもの。
当然ながらターボ車向けのレーシング機能なのだが、チューニングの世界ではNA車にECUプログラムを書き換えて擬似的なアンチラグシステムを導入するケースもある。エキゾーストマニフォールド内の圧力を下げないことは燃焼室の充填効率維持に繋がり、アクセルを踏み返した際のレスポンスアップが狙えるからだ。
ランエボやインプレッサに標準採用されていた
国産車では、スバルのインプレッサWRX STi(GDB以降)、三菱のランサーエボリューションシリーズ(CE9A以降)、トヨタのセリカGT-FOUR(ST205)のWRC仕様にアンチラグシステムは標準採用されていた。
言わずもがな、これらはWRC制覇を命題に開発されたモデル達だ。WRCのレギュレーション上、市販車にも同様の機構を搭載する必要があったための対応で、市販車ではECUプログラムによって動作しないように封印されていた。
アンチラグシステムとミスファイアリングシステムは違うの?
意外と知られていないが、アンチラグシステムとはトヨタの呼称だったりする。同様のシステムを、スバルではミスファイアリングシステムと呼び、三菱では2次エア供給システムと呼んでいる。英語圏では「ANTI-LAG SYSTEM」と呼ぶことが多い。
最近よく耳にする「バブリング」はアンチラグなの?
トヨタのGRスープラに純正採用されたことを機に、日本国内でも広く知れ渡った「バブリング」。アクセルオフ時にマフラーから連続的に「バラバラバラッ」と破裂音がするため、アンチラグシステムと勘違いしてしまいそうになるが、本来の概念は異なる。
タービンの回転低下を防いでブースト圧を高く保つことを目的としたアンチラグシステムに対し、バブリングは言わばサウンド面での演出が主目的。ただし、アクセルオフ時の点火時期と燃料の割合を変化させるという仕組み自体はどちらも変わりないため、最近では同義に語られることが多い。
アンチラグシステムが用いられる主なモータースポーツ車両
アンチラグシステムが採用されているレースカテゴリーは非常に多い。WRCやスーパーGTはもちろん、競技ドリフトの頂点に位置するD1グランプリでも導入率は急激に高まってきている。ちなみに、D1グランプリにアンチラグシステムを持ち込んだ第一人者は、ファットファイブレーシングの斎藤太吾選手と言われている。
アンチラグシステムの導入方法
アンチラグシステムを愛車に組み込もうと考えた場合、重要となるチューニングポイントは「電子制御スロットル」と「ECUチューニング」。元々、スロットルが電子制御式の車種であれば、ECUチューンのみで導入可能だ。
ECUチューンに内容に関しては手がけるチューナーによって千差万別だが、大まかなアプローチは「アクセルオフに合わせて一気筒の点火時期を大きく遅角させ、混合気が燃えながらエキゾーストマニフォールドに排出されるように細工。続く気筒では点火をカットして混合気をそのまま排出。同時に、アクセルオフ時にエアを取り込むために電子制御スロットルの開度を調整する」となる。
なお、旧来のワイヤー式スロットル搭載車でもアンチラグシステムの導入はできる。手っ取り早いのは他車種の電子制御スロットルを移植した上、モーテックやF-CON Vプロ、LINKといった高性能フルコンで制御する方法だ。
もちろんワイヤー式のままでも可能だが、そのままではアンチラグシステムに重要な「アクセルオフ時にスロットルを開いて大量のエアを取り入れる」ことが難しく、そのためスロットルとは別にエアを取り入れるためのバルブを設けなくてはならない(アイドリング用のAACバルブ等を使う例もあるが吸気に限界がある)。その分、予算がかさむわけで、競技専用車両でもない限りあまり現実的ではない。
アンチラグシステム化に必要な予算
近年では、ECUチューンと得意とする様々なショップがアンチラグシステムをメニューに掲げているが、中でもエンドユーザー達からの支持を集めているのが、“N-tec名古屋”が展開する独自のアンチラグシステム“レブアタック”だ。
同社は、日産車を中心に幅広いモデルのチューニングECU(4万9500円〜)を販売しており、そのオプションとして、アンチラグシステムのオン/オフ操作や、作動域の調整をドライバーが手元で制御できる専用コントローラーを開発。それがレブアタック(4万9800円)である。
そう、N-tec名古屋なら10万円の予算(車種による)でアンチラグシステムを導入することが可能なのだ。
アンチラグシステムのデメリット・注意点
ECUチューンによってアンチラグシステムを導入すると、どんなシチュエーションでも作動してしまい、燃費の悪化はもちろん、エキゾーストマニフォールドや触媒などへの負担が非常に大きくなる。排気系パーツの寿命が縮むだけでなく、最悪、機関の破損やエンジンブローにも繋がりかねないため、ストリートカーには向かないと言われている。
先で紹介したN-tec名古屋のレブアタックは、そうしたアンチラグシステムのネガ要素を払拭するために誕生した製品だ。コントローラーによる独立制御を可能にし、理想的な「必要なシーンでのみ作動するアンチラグシステム」を作り上げたわけだ。
なお、レブアタックには各種設定ができるアンチラグ機能に加え、オートクルーズ機能(60〜200km/hまで設定可能)や、アクセル踏みっぱなしでシフトアップができるフラットシフト機能なども搭載されているため、使い勝手は抜群だ。
レーシングドライバーの評価は?
N-tec名古屋製のレブアタック(アンチラグシステム)を導入したトップフューエルのデモカー(ZC33Sスイフトスポーツ)をサーキットで走らせたターザン山田は「面白い! このクルマにはかなり大型のタービンが組まれているんだけど、レブアタックをオフにするとやっぱりモッサリ感があるんだよね。それがオン状態にしたとたん、ピックアップが良くなって、ブースト圧も安定するようになった。エンジンが別物になった感じだよ」と大絶賛。
車両を開発したトップフューエルの森本メカは「この車両はインタークーラーやインジェクターを変更せずに、ピークで250ps付近が狙っていける仕様です。タービンはHKSがRB26DETT用に展開している大きめのGTIII-SSなのですが、レブアタックのおかげでターボラグが抑えられ、全域で加速が楽しくなりました」と語っている。
【Q&A】アンチラグシステムについて多い質問
Q.アンチラグシステムは車検に通るの?
アンチラグシステムを導入した車両が、そのままの状態で車検に通る可能性は低い。そもそも、現在の道路交通法においてアンチラグシステムを取り締まる法律はないのだが、システムの特性上、排ガス検査や近接排気騒音検査で引っかかる確率が高いのだ。そのため、車検時にはアンチラグシステムが作動しないようにECUをリプログラムするか、外部スイッチでの制御が可能ならオフにしておくのがベターだ。
Q.アンチラグシステムは軽自動車にも導入できる?
電子制御スロットルが装着されていて、ECUチューニングが可能な車種であれば問題なく導入可能。ワイヤー式スロットル車両の場合でも、電子制御スロットルの移植や電磁式エアバルブの追加など吸気系に大がかりなチューニングが必要となるが、決して不可能ではない。
Q.アンチラグシステムの自作用キットは販売されている?
ECUのプログラムを書き換える必要があるため、アンチラグシステムの自作用キットは存在しないと考えていい。ただし、海外の純正ECU書き換えツール(OPENECU等)が対応している車種であれば、自力でアンチラグシステムを組み込むことは可能だ。当然ながら、エンジンマネージメントに関する深い知識が必要になる。
アンチラグシステムについて改めて整理
スロットルが電子制御式で、ECUチューニングが確立されている車種であれば、現実的な金額でアンチラグシステムを導入することができる。N-tec名古屋のメニューを例に出すと、対応車種は現行の日産車全般&スイフトスポーツ(ZC32S〜ZC33S)と非常に幅広い。気になるオーナーは、N-tec名古屋に問い合わせてみてはいかがだろうか。
●問い合わせ:N-tec名古屋 愛知県半田市瑞穂町7-1-3 TEL:0569-47-8481
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