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時速326キロで痛恨のマシントラブル発生!
このBNR32は、最高速に魅了されたチューナー“横山耕司”率いるフェニックスパワーが2008年に生み出した怪物だ。目標値は345km/hオーバー。“谷田部”の血を継ぐ最高速戦闘機の全てをご覧いただきたい(OPTION誌2008年7月号より抜粋)。
谷田部高速周回路に取り憑かれた男の挑戦
フェニックスパワー横山氏が胸に秘めた『オーバー345km/h』という、長年の夢を叶えるために育て上げられた最高速専用機。それがこのフルチューンBNR32だ。
「当時、バンクに命を賭けていたチューナーの想いを、今の若いユーザーに少しでも伝えたくて…。ドリフトやサーキットが主流のチューニング界ですが、僕にとっては今でも谷田部に端を発する“最高速”が全てなんです」。見つめる先にある最高速仕様のボンネットを開ける。シンプルなエクステリアとは対照的に、己の存在を主張するように光り輝くエンジンルームが顔を出した。
ブロック強度を落とさないためにシリンダーボーリングを避け、あえてホーニングにとどめた2.6L仕様。ムービングパーツはコンロッドに東名H断面を導入した程度で、あとは純正加工品を使用する。
そこに、0-300km/h時代に愛用していたハイブースト対応のフルチューンヘッドをセットした上、11.5リフトのハイカム、Q45スロットル、JUNサージタンクという強力トリオで限界まで流入空気量を稼ぎ、ビッグシングルタービンを回し切るわけだ。
セットするタービンはT88の38GK(18cm2)。この国内最大級の風量を誇るタービンにブースト2.2キロをかけて実測で920psを発生させる。ノーマルピストン&クランクということを考慮すると、もはや常軌を逸した数値といえる。
制御にはエアフロレスのF-CON Vプロ制御ではなく、Z32エアフロにネココーポレーションのデータチェンジャーを組み合わせる伝統のROMチューンを採用。谷田部時代から『エアフロ制御』に拘る横山氏らしい選択だ。
スパルタンなコクピット。ミッションにはホリンジャー6速シーケンシャルを採用する。3.6ファイナルとの組み合わせにより、6速8600rpmで目標値345km/hに到達するようセッティングされている。
ホイールはBBSのLM-R(DSK-P/FR9.5J)で、タイヤはアドバンスポーツ(FR245/35-19)をセットしている。
ボディやサスメンバーの応力集中箇所には補強が施され、サスは高速周回路用にセッティングされたアラゴスタダンパーとメルヴェレーシングスプリング(F14kg/mm R10kg/mm)をセット。アーム&ブッシュ類はノーマルだ。また、空力を味方につけるべくフロントバンパーは専用開発し、アンダーパネルも設置。
迎えた5月11日。ステージは日本最北の地にそびえたつ1周4km弱の高速周回路“ワーカム北海道(現:いすゞ北海道試験場)”。絶対的金字塔への期待が膨らむ中でのアタックとなったが、残念なことに結果は326.04km/hで痛恨のエンジントラブル発生。現場で復旧するのは不可能と判断した横山氏は「オーバーヒートしてガスケットが抜けてしまいましたね」と肩を落とした。
ちなみに、アタックを担当した新田守男選手は「エンジン特性はかなりの高回転型なんだけど、6000rpm以降のパワーフィールは凄まじいの一言。足はリバンプ側の減衰力が弱いと感じたけど、許容できるレベル。良くできたマシンだよ。で、アタック1周目のバンクを300km/hで旋回できたから、覚悟を決めてストレートでアクセルをベタ踏みにしたんだ。そしたら、突然パワー感が無くなっちゃって…。せめてストレートエンドまで持てば、横山さんの夢は叶えられたと思うんだけどなぁ」とコメント。
「恥ずかしい結果ですみません。笑ってください」。傷ついた愛機を見つめながらの横山氏。もちろん現場で笑う人間など一人もいなかった。当たり前だ。夢に向かって挑戦し、そして破れた人間を誰が責めるというのか。この敗北は未来への糧であって、決して恥ずかしいものなどではない。そう、フェニックスパワーの挑戦は、ここからまた始まるのだ。(OPTION誌2008年7月号より抜粋)
●取材協力:フェニックスパワー京都店:京都府久世郡久御山町佐古外屋敷37-2 TEL:0774-48-1157
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フェニックスパワー
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