目次
トータルのダウンフォースは基準車の10%を上回る13%増
まさにメーカーチューンドの極み
「出力を上げることなく、空力で速さを磨き上げた」2024年モデルのGT-R。前回、基準車について紹介したが、今回は誰もが気になるパフォーマンス系の本命「NISMO」について解説。
水平垂直を意識したデザイン、前側は空気を水平方向に流す、後側は内側に空気を巻き込まないように綺麗に抜く考えは共通だが、造形の違いは一目瞭然。一言で言うならば市販車という枠の中で可能な限りレーシングカーに近づけた造形と言っていい。ちなみにパーツは基準車の前後バンパー/リヤウイングに加えて、トランクも変更している。
フロントセクションは両サイドの3枚フィンやバンパーサイドのカナード形状など2022年モデルのNISMOと共通性が見られるが、グリル内に逃さず空気を取り入れ、その外側は横方向に空気を流すと役割分担がよりはっきりした。
グリルは鼻先の穴位置を基準車よりもさらに前に伸ばし、Cd値を抑えながら空気を効率的に内部へ取り込んでいる。両サイドに水平レイアウトされる3本のフィンはより大きく、鋭角となり、さらにダウンフォースを得ているが、流れを整えることで空気抵抗は増えていないとのこと。
また、水平方向のラインを強調したことにより、デザインはよりロー&ワイド感が高まっている。
リヤセクションは、新型GT-Rが機能の塊であることを象徴する部分。まず、スタイリングありきではなく、決められたディメンションの中で、いかにすればエアロダイナミクスを高められるのかを優先してデザイン。
究極で言えばボディを後ろに伸ばし、ボディから空気を遠ざけ、ドラッグを低減する水滴状にするのが空力的には理想だが、市販車ではそれを実現するのは様々な面で難しい。
では、どうしたのか。考え方は水滴型の途中で切り、四隅の風をスムーズに後に流すイメージ。バンパーに設けられた各エッジをボディ寸法内で限りなく後ろ側に延長。トランクエンドもリップ形状(ダックテール風)のスポイラーを与えてボディから空気を遠ざけている。
ウィングは高さを約90mmアップ。翼は面積を拡大するだけでなく、スワンネックステーの採用で、負圧を発生する翼面下もより有効に使えるようになったため、表と裏で断面形状を変えた複雑な3D形状に変更。ダウンフォースをさらに稼いでいる。
これらの改良で、トータルのダウンフォースは基準車の10%を上回る13%増を実現。最高速度は落とさず、それでいて超高速域ではしっかり車体を地面に押し付ける。相反する機能を生産車両という枠の範囲で研ぎすませたのがNISMOなのだ。
この複雑な造形は実現できたのはカーボン素材ゆえ。基準車も樹脂素材では限界まで突き詰めているが、強度、生産性の問題も含めてヒレ状に伸ばすことは到底できない。GT-Rの求める性能を磨き上げるためにカーボンは必要だったというわけだ。
また、機能を突き詰めて誕生したデザインだが、その造形はあおってやろうという気持ちを削ぐ迫力と存在感あり。性能もデザインもアフターパーツメーカーがおいそれと手を出せない領域にまで昇華したと言っていいだろう。
R35GT-R史上最後となるであろうNISMOは、まさにメーカーチューンドの極み。借金しても手に入れる価値はある。カーボン素材はひとつひとつ手作りなので、生産キャパシティに限りがあるのは疑いのないところ。欲しい人は早めにディーラーに足を運ぶべし。
PHOTO&TEXT:山崎真一