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飽くなき探究の旅
この奇跡の一日に起こった一部始終を本誌独占で公開するにあたり、全ての関係者に心から感謝したい。2022年某日。映画「ワイルドスピード」シリーズの人気キャスト、ハン役でお馴染みのサン・カン氏がお忍びでチューンドGT-R製造工場、ガレージアクティブを訪れたのである。
サン・カンとアクティブ坂本が奇跡の邂逅!?
ガレージアクティブ坂本代表とサン・カン氏(以下:サング)の出会いは、4年前にさかのぼる。
「私のインスタをフォローしていただいてたんです。最初、いいネのマークが出てきた時は驚きました。相手はハリウッドスターですからね。実際に会ったのは、2021年のJCCS(アメリカ、ロングビーチで行われる、日本の旧車を集めた一大イベント)。この時GPP(Greddy Performance Products)のKenjiさんを通じてご紹介いただいたんです。その翌週に行われたSEMAショーの会場でも私のことを覚えてくださっていて、ショーの後の食事会でも気さくに話をしてくれました」と坂本氏。
取材当日は風もなく、日影に立っているだけでも首元がじんわり汗ばむような酷暑の真っ只中。午後16時、アクティブに到着したサングはまず、エアコンの効いたオフィスでのんびり一服…することもなく、そのまま作業ピットへと直行。ずらりと並んだGT-Rをチェックしながら、「このクルマは何馬力?」「ゼロヨンタイムはどれくらいですか?」と、坂本代表に質問を次々に浴びせていく。
そのまま一時間近くが経過した頃、あまりの暑さに同行スタッフから「そろそろ涼しい場所に行こう」と声が出る。しかし、一度はピットを離れる素振りを見せるも、車両の脇に置かれていたHKSのロゴが描かれた木箱に興味を示したサング。それは2022年のSEMAショーに出品されたフルドライカーボンGT-R用の最新仕様コンプリートエンジンだった。すると、「どうしてこんな凄いモノがこの場所にあるんだ?」と目を見開き、ここからまた延々と質問攻めがスタート。
有名人のショップ訪問と言うと、いわゆる社交辞令的なノリで、常連のユーザーを集めて記念写真を撮ってハイ、終了!というパターンにもなりがちだが、坂本代表の説明に真剣な眼差しで聞き入るサングの姿勢には、そんな浮ついた空気感は皆無。もちろん坂本代表もサングの意図をしっかり受け止めており、今回の訪問は外部に口外することなく、完全クローズドの形で進められた。
「どのクルマも乗り手のこだわりが溢れていて、とても興味深かったですね。それに加えて、言葉が通じなくても、こうして私たちを温かく受け入れてくれる坂本さんの明るく、フルオープンな性格も素晴らしいと思います!」と、笑顔を見せるサング。この言葉からも、二人の強固な信頼関係が窺い知れるだろう。
言葉の壁を超えた、走り屋同士の友情物語。
スクリーンの中ではヴェイルサイドのRX-7やレクサスLFA、スープラなど数々のスポーツカーを乗りこなしてきたサング。まず、自身のプライベートカーとして初めて手に入れたクルマを尋ねてみた。
サング:「1994年、父親に買ってもらった1993年式のRX-7(FD3S)ツーリングパッケージが最初です。私は学生の頃から俳優を目指していましたが、父親は反対していました。そこでRX-7を買ってやるから、LAW SCHOOL(法律学校)で勉強しろと。結果、その通りにはなりませんでしたが(笑)」。
サングと言えば、NA仕様のRB26を搭載したS30Z「FUGU-Z」のオーナーとしても知られているが、ポルシェやフェラーリといったヨーロッパ車ではなく、日本のフェアレディZを愛車として選んだ理由はどのようなものだったのだろうか。
サング:「もちろん、ポルシェも好きです。ポルシェのカリスマとして世界的に高名なマグナス・ウォーカー氏と会う機会があり、ロスのガレージも見せてもらいました。でも、当時は俳優としてようやく周知されはじめた時期で、ポルシェのことを妻に相談すると、“値段が高過ぎる!”と、バッサリ(笑) その後、一緒にジムに通っていた友人との雑談の中で、“240Zってカッコ良いね”という話が出ました。私はゴルフなど、お金がかかる趣味はありません。ただ、仲間たちと休日を楽しめる時間が欲しかった。そこでZを買えば、みんなとガレージでワイワイ楽しみながらクルマいじりができると思って。2015年のことです」。
購入当初は、走りや性能などZに関する知識はほぼ皆無だったというサング。しかし、このクルマの背景に刻まれたヒストリーを調べていくうちに、徐々に心境の変化が。中でも心を打たれたのは、Zはアメリカ市場で成功した最初の日本車という事実だった。
サング:「Zが発売された1969年当時、アメリカでスポーツカーと言えば、マスタングやカマロなど、大柄なV8マッスルがその主役でした。そこに片山豊さんがZを持ち込み、市場を席巻した。それまで510やサニーなど、ファミリーカーを主力としていた日本のメーカーがスポーツカーを成功させるには大変な苦労があったと思います。まさに日産がチーム一丸となって勝ち得た成果。片山さんが成し遂げた功績は、私を含めてアメリカに住むアジア系の人たちにとっても、大いに勇気づけられるものです」。
スタイル、MAXパワー、話題性など、クルマ選びの基準や価値観は人それぞれだが、開発ストーリーや当時の時代背景にまで目を向けたサングの純粋な向学心には、まさに感服。
単にオフタイムを楽しむ道具だったはずのZは、モディファイの相談を打診したGPP(GREDDY PERFORMANCE PRODUCTS inc=カリフォルニア、アーバインに店舗を構えるグレッディの一大拠点)のKENJI代表のサポートによるフルカスタム&チューニングが施され、2015年のSEMAに出展。「FUGU-Z」のサブネームと共に、世界で知られるS30Zの1台へと大変身を果たした。
このZに対する真摯なまでの姿勢は日産自動車本体の目にも止まり、北米における新型フェアレディZ(RZ34)のお披露目の場となった昨年のSEMAでは、サングが所有するもう1台のS30Z「DocZ」が同社のブース内に公式展示されている。
サング:「新型Zの統括リーダーである、田村宏志さんとも何度もお会いしました。刀をモチーフとしたルーフラインやS30を連想させるフロント周りなど、日本の文化やZがこれまで長年に渡り受け継いできたヘリテイジをしっかりと反映させたスタイルには、非常に感銘を受けましたね」。
このように、常に物事を謙虚に学ぼうとする姿勢を忘れることなく、そのバックボーンを支える人と人との繋がりを大切にしてきたサング。今回のアクティブへの訪問も、そんな探究心から始まったものだが、たっぷり2日間の見学を終え、GT-Rへの関心はこれまで以上に高まったのではないだろうか。
サング:「もちろん! GT-Rが凄い性能を持ったクルマだということは知っていましたが、正直、最近までそれほど強い魅力は感じていませんでした。でも、坂本さんを始め、このクルマに情熱を注いでいる沢山の方々と出会い、対話を重ねていくうちに、大いに興味が湧きました。とはいえ、私はいわゆるセレブな映画スターのように、ガレージに無数の高級車を並べるようなキャラクターではありません。私がクルマを購入するのは、自分なりの理由づけがしっかりとできた時だけ。これからもGT-Rへの理解をもっと深めて、いつか手に入れられる日が来れば良いな、と思っています」。
取材日の深夜、アクティブのGT-Rを自らドライブし、北九州の某所で行われていたナイトミーティングに出向いたサン・カン氏。当然、現場はパニック状態となったが、一人一人と笑顔で写真に収まるなど、徹底した「神対応」を見せていた。
サン・カン氏の右手付に見えるのは、坂本代表からプレゼントされた「Zカー」の父、片山豊氏のフィギュア。「大事な1点モノだけど、俺なんかが持っとくより、サングさんが持っていた方が意味があると思う」と坂本代表。受け取ったサン・カン氏は「大切に抱えて持って帰ります!」と、本当に嬉しそうな表情を見せ、インタビュー中も手元から離さなかった。
翌日も疲れを見せることなく、「BASE」と呼ばれるアクティブの秘密ストックヤードや板金塗装を行うボディファクトリーなど、精力的に見学を続けたサン・カン氏。夕食は「高級、ではないお店を!」という要望を受け、地元の小さな居酒屋に案内したところ、ご満悦だったという。
TEXT:高橋陽介(Yosuke TAKAHASHI)/PHOTO:James RICKS
TRANSLATION:Kenji SUMINO(President of Greddy Performance Products inc)
SPECIAL THANKS:STUDENT DRIVER
●取材協力:ガレージアクティブ 福岡県行橋市大字今井1407-1 TEL:0930-25-4488
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