「これがランエボXの究極形態だ!」全日本ダートトライアルを戦うHKSワークスカーの作り込みに迫る

デビューウィンで第一線級の実力を照明

さらなるパフォーマンスアップの余地は十分!

激しく砂塵を巻き上げて爆走する、お馴染みのカラーリングを纏ったランサーエボリューションX。HKSでは2023年シーズンからワークス体制で、全日本ダートトライアル選手権への挑戦を開始している。

HKSとダート競技の組み合わせに違和感を覚える人も少なくないだろう。それもそのはず。HKSがワークス体制でダート競技に参戦するのは今回が初めて。HKSでは1973年の創立以来、富士GCやグループA、JTCC、ドラッグレース、D1グランプリなど様々な競技に挑んできたが、どれもその舞台となるのは舗装路だった。

ダートトライアルは、その名の通りダートコースを舞台としたタイムトライアル競技で、日本で独自に発展してきたモータースポーツカテゴリーだ。今シーズンは北海道から九州まで全国のコースで、全8戦を開催予定。競技は1台ずつの走行で、2ヒートのベストタイムにより順位が決定する。

HKSが参戦するのは、その最高峰となる全日本ダートトライアル選手権のDクラス。通称“D車”と呼ばれるマシンは、安全装備が義務付けられている以外は改造無制限で、シードゼッケンを持つトップクラスは4WD化したBRZやカローラスポーツの皮を被ったランエボなど魔改造スペックばかりだ。

そんなモンスターマシンと渡り合うべく、HKSがベースマシンとして選択したのがCZ4Aだ。その理由は、長年深い関係にある三菱車で、チューニングノウハウも豊富なこと。ドライビングを担当するのは、ダートラやラリーで数多くのチャンピオン歴をもつ田口勝彦選手。HKSではプロジェクトに先駆け、2023年まで田口選手が駆るマシンのエンジンチューンを担当していたのだ。

ビッグネームの参戦に大きな注目が集まる中、HKSランサーエボリューションは京都コスモパークで行なわれた開幕戦で見事にデビューウインを果たしている。そんな素晴らしいパフォーマンスを発揮するマシンの詳細に迫っていくことにしよう。

約2年前にプロジェクトが立ち上がり、1年前からマシン製作を開始。2023年10月のJAFカップオールスター戦でシェイクダウン(3位)を果たし、デビューとなった23年の開幕戦で優勝…と、順調な滑り出しを見せているこのマシン。ベース車両はタイムアタックマシンとしての役目を終え、社内で保管されていた「CZ200S」。といっても、当時からの仕様はほとんど残っておらず、一度ホワイトボディの状態にしてイチから製作している。

ライバルマシンの中には一部パイプフレーム化を図っているものもあるが、HKSのCZ4Aは基本骨格はそのままで、全開でジャンプをするような走行中の高負荷を受け止めるべく全身に補強を追加。ショートホイールベース化で向上させた機動性や、フロアのフルフラット化による空力特性も大きな武器となる。その他、外装パネルは得意とするフルカーボン製で、車重は1250kgとなっている。

パワーユニットはHKSキャパシティアップキットにより2.2L化された4B11で、ハイカムをセット。ヘッドはポート類の加工がされている。GTⅢ-RSタービンとの組み合わせで、パワーは470~480psを獲得。ちなみに、現状Dクラスシード勢のエンジンは、4B11、4G63、EJ20/25のいずれかだ。

リヤメンバーをオフセットさせ、ホイールベースを約50mm短縮。外装類はフルカーボンとなっている。豊富なサーキットタイムアタックでのノウハウを生かした、フラットフロア化を含む空力マネージメントもHKSの大きな強みだ。グループAのR32GT-Rと同様のクラシックスタイルオイルカラーは、ランエボベースのプロジェクトカーでは初採用となる。

ドライブトレインの基本となる4WDシステムはCZ4Aのもので、AYC制御で50:50からややフロント寄りのトルクバランスとしている。トランスミッションは田口選手が使い慣れているドレンス製のシーケンシャル5速。リヤデフは溶接ロックとしている。

全日本ダートラはスタートしてから2分以内の競技時間だが、全開率が高いので冷却系は重要。重量バランスも考慮してラジエターは助手席フロアに設置。マフラーは車室中央を貫通させている。

このマシンのために開発されたのが、3重構造のケースを採用したスペシャルタイプのハイパーマックス車高調。コースに合わせた微調整に対応すべく、減衰力調整は別タンク式の3ウェイ方式を採用するなど細かなパーツに至るまで完全な新設計となっている。200mmのロングストロークでジオメトリー変化が大きいので、アライメントは1G時にキャンバーとトーはゼロ。フロントキャスターはドライバーの好みに合わせて安定方向としている。

市販モデルのハイパーマックスS(左)と並べてみると、ダートラ用(右)がいかにゴツいかが分かるはず。スプリングも専用設計のID85タイプ。現在装着されているものは、破損対策として別タンクがボディ直結構造に変更されている。

サスペンションアーム類の基本的なレイアウトは今のところCZ4Aのままで、調整式アーム類やピロブッシュを採用。今後さらにストロークが必要となればアーム類のレバー比をすることになる。

改造無制限のDクラスだが、紳士協定として全車統一になっているのが205/60R15サイズのタイヤ。路面に合わせて3タイプを使い分けていて、HKSのマシンは横浜ゴム製を装着している。

「わずか1分半くらいのコースで争われる競技ですが、スタートからゴールまでほぼ全開の連続で、高速コースでの最高速は160km/hにもなるのがダートトライアル。走行中の振動やノイズが多いため計測機によるデータ収集がほぼ不可能で、マシン開発は実走行を重ねるしかないのも独特です。初年度の今シーズンはできるだけデータを集め、それを基に必要な改良を施していきます。まだまだ戦闘力アップの余地は十分ですので期待していてください」とはHKSモータースポーツプロジェクトの大森さん。

HKSでは、最低でも3シーズンの参戦を予定しているそう。今後もアップデートが続けられていくこのマシンの動向に注目だ。

●取材協力:エッチ・ケー・エス 静岡県富士宮市北山7181 TEL:0544-29-1235

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