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茅ケ崎に吹いたミラノの風
付属品ももれなく完備の極上車を取材!
日産の特装車両を手掛ける関連企業として1986年、神奈川県茅ケ崎市に設立されたオーテックジャパン(現日産モータースポーツ&カスタマイズ)。同社が独自に企画、設計、開発、生産を行なうコンプリートカーとして、シルビアコンバーチブル(S13改)、スカイラインGTSオーテック(HR31改)に次ぐ第三弾として1989年に発表されたのが、オーテックザガートステルビオ(AZ1)だった。
これは、オーテックジャパンがエンジンやシャシーなどメカニカル面を手掛け、100年以上の歴史を持つイタリア・ミラノの名門カロッツェリア、ザガート社が内外装を担当した日伊コラボモデル。一番の見どころにして最大の個性が、ザガート社による外装デザインだ。
ベースはF31レパードだが、ボディパネルは全面的にアルミ(ボンネットのみカーボンファイバー)で作り直され、イメージを一新。中でもオーテックジャパン初代社長である櫻井眞一郎氏の要望で実現したフロントフェンダー一体型サイドミラーと、ザガート社の伝統である左右を盛り上げたルーフ形状(ダブルバブルルーフ)が特徴と言える。ちなみに、「なんか見覚えが…」と思ったヘッドライトユニットはS13の流用だった。
賛否両論…と言うよりも、圧倒的にネガティブな意見の方が多かったフェンダー(ボンネット)一体型サイドミラー。特に真正面から見た時には違和感しか覚えない。さらに、デザイン性だけでなく機能性も疑問だが、車両を保有するクルウチ代表の久留内さんによれば、「これが意外と見やすいんですよ」とのこと。ホイールはOZ製のディッシュタイプ。ブレーキ冷却用ダクトがアクセントだ。
オーテックジャパンのチューニングにより、ベース比25ps/6.0kgmのスペック向上を実現したVG30DET。限定200台のステルビオを完売できず、余ったエンジンと4速ATを捌くため、1992年にオーテックザガートガビア(販売20台弱)、1994年にR31ベースのS&Sドリフトパッケージ(試作車を含め5台生産)が企画された。
ステルビオが超高級グランツーリスモとして誕生したことを最もよく表現しているのが内装だろう。ダッシュパネルからドアトリムに至るまで全面イタリア製本革で張り替えられ、センターコンソールには本木目パネルを装着。専用デザインとされたヘッドレスト一体型のシートも当然、本革仕様で電動調整式となる。
この状態では使い勝手がよろしくないが、テンパータイヤを降ろせば実用的な容量を持ったトランクルーム。開口部が広く、荷物の出し入れはしやすそうだ。超高級グランツーリスモらしくフルトリム化も図られる。
シャシーはF31と共通。そのため、サスペンションはフロントストラット式、リヤセミトレ―リングアーム式だが、ハブとデフカバーを繋ぐようにトーコントロールリンクを追加しているのがF31との違い。これはスカイラインGTSオーテック(R31改)に先行採用された機構で、ハンドリング特性の改善とコーナリング性能の向上に貢献する。
三つ折りの革ケースに纏められた車載工具。さすがバブル期に登場した超高級クーペ、こんなところにまで拘っていたことを初めて知った。ちなみに、両口スパナはKTC製。手作りっぽい牽引フックがたまらない!
車検証入れも革製で二つ折りタイプ。整備手帳/保証書、オーナーズマニュアル(取扱説明書)の他、パーツカタログまで付属していることに驚いた。どうでもいいが、StelvioがSilvia(シルビア)に見えて仕方ない。
開発費をふんだんにかけられたバブル期ならではの意欲作ステルビオは、世界限定200台、そのうち日本の割り当てが100台だったが、実際にデリバリーされたのは約100台。思うように売れなかった理由は、発売からほどなくしてバブルが弾け、日本の景気が一気に落ち込んだ時代的背景だけでなく、当時のメルセデスベンツSクラスを500万円も上回る1870万円という超強気な車両価格にもあったに違いない。
確かに、商業的には失敗だったかもしれない。しかし、日本のコンプリートカーの歴史に触れる時、オーテックザガートステルビオは避けては通れない1台だと思うのだ。
●取材協力:クルウチ 三重県多気郡明和町佐田906-12 TEL:0596-53-0070
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