「齢80を超えてもいまだ衰えぬ開発意欲」10代でバイク用エンジンを開発した天才の物語【OS技研50周年記念企画】Part.5

40年前に市販化したL型6気筒用のオリジナルDOHCヘッド、TC24-B1。それを現代の技術で蘇らせたTC24-B1Zが注目を集めている岡山のオーエス技研。その創業者である岡﨑正治氏の半生を本人へのインタビューとともに振り返っていく。10代でバイク用エンジンを開発した稀代の天才は、いかにして現在まで続く一流メーカーを作り上げたのか。

ゼロからの出発で世界的メーカーを創出

革新的なメカニズムを持つスーパーロックLSDの誕生

1980年代前半、キャロッセに対するOEM供給という形で機械式LSDの分野に参入したオーエス技研。ダートラを通じて親交があったキャロッセ加瀬社長からの依頼を岡﨑氏が受けたのである。当時、自動車関連メーカー以外で機械式LSDを量産したのは、実はオーエス技研が初だった。

しかし、社内で図面を描いてはいたが、依頼主であるキャロッセからの指示がなければ改良はできないし、仕様を変えるわけにもいかない。岡﨑氏の性格からすれば、新しい技術やメカニズムを次々と投入してバージョンアップを図りたかったに違いないが、OEMである以上、言われたことをその通りにやるしかなかったのである。

そこに転機が訪れる。キャロッセに対して、生産まで含めた機械式LSDの完全移管が行なわれたのだ。

「機械式LSDに対しては、もうちょっと違うやり方や方法があるはずだと、ずっと疑問を持ってたんよ。そこで四六時中考えて、閃いたことがある。それが、プレッシャーリングを縛る全く違う構造。OEMをやっていた手前、同じ構造だったらオーエス技研として発売する気はなかった」と岡﨑氏。

こうして1997年、スーパーロックLSDの開発がスタートした。最大の特長はプレッシャーリングにコイルスプリングを内蔵することで、一定以上の駆動トルクがかかった時に初めて差動制限が効き始めるということ。裏を返すと、駆動トルクが小さければオープンデフとして機能し、街乗りでの不快なバキバキ音(チャタリング音)を解消していた。また、薄型設計のプレッシャーリングとサイドギヤ形状によって内蔵ディスク&プレートの枚数を大幅に増やすことができ、ロック率100%を実現している点も見逃せない。これら独自の機構は特許取得済みだ。

岡﨑氏が言う。「スーパーロックLSDの独創的なメカニズムは考えて考えて、考え抜いた末に出てきたもの。もちろん、閃きもあるけど、基本はそれまで自分がやってきた積み重ねの上に出てくる。高度なことをしてるから、直感だけでというわけにはなかなかいかん。そこで重要になるんは、それまでの経験。さらに、発想があっても工作機械的に無理だなということもある。これは加工できんなとか色んなことを考えた上で、製品としていけるかどうかの判断をするんよ」。

3年の開発期間を経て、2000年に発売されたスーパーロックLSDは従来の機械式LSDとは発想も構造もまるで異なる画期的な製品だったが、その頃の機械式LSDはバキバキと音が出るのが当たり前。音がしなければ効いていないと思われていたため、最初は売るのが大変だったという。そこで、岡﨑氏やスタッフが日本全国を回って講習会を実施。何事も第一人者には苦労がつきまとうわけで、スーパーロックLSDを理解してもらうための地道な努力が続けられたのだ。

また、高速巡航時に横風の影響を受けにくくなるという理由からハイエース用が爆発的に売れ、オフロードで抜群のトラクション性能を発揮してくれるジムニー用も好調など、「機械式LSDはスポーツ走行のためのパーツ」という常識を覆したことにも注目したい。それまで趣味やレースといった狭い分野に向けてパーツを送り出してきたオーエス技研にとって、スーパーロックLSDは新たなユーザー層を切り拓いたという意味で、実にエポックメイキングなパーツとなったのである。

国産初の6速シーケンシャルMT“OS-88”はRB30と併せて開発

オーエス技研にとっての1990年代後半は、飛ぶように売れていた強化クラッチの販売がひと段落し、新たなパーツを開発する時間的な余裕ができ始めた頃だった。そこで着手されたのが前回紹介したOS-E2996(通称RB30キット)、スーパーロックLSD、そして第二世代GT-Rに向けた完全自社設計となる6速シーケンシャルドグミッション、OS-88である。

OS-88はRB30キットと併せて開発された。というのも1200〜1300psを目標馬力としたRB30キットに対して、たとえクロスミッションを作ったとしても、スペース的な制約が大きい純正ケースを使っている以上、必ず耐久性に問題が出ると考えたから。であれば、そのパワーを受け止められるミッションを独自に作ろうという結論に達したわけだ。それは、かつてTC24-B1の性能を最大限に引き出すため、強化クラッチの開発に至った経緯に極めて似通っている。

ゼロからの開発となったOS-88は、まずBNR32の純正5速に対して6速へと多段化。また、ギヤの耐久性を高めるため、メインシャフトとカウンターシャフトの間隔(軸間距離)が純正ミッションの81mmから88mmへと大幅に拡大された。ちなみに、その軸間距離が製品名の由来になっている。

「当時は国産シーケンシャルミッションがなく、ホリンジャーを始め、みんな海外製を使っとった。まぁそこそこ使えるけど、壊れた時のパーツ供給を考えるとすぐに対応できん。だったら、国内でシーケンシャルミッションを作ればいいだけの話じゃ」と岡﨑氏。

強化クラッチの販売が落ち着いてきたとはいえ、それでも日中はその組み立てで忙しい。そこで週に月曜、水曜、金曜の3日間、通常業務を終えたあと20時から設計の作業を開始。夕食にほかほか弁当を食べて、そのあと22時まで残業する日々が続いた。

OS-88の開発にあたっては、それまでクロスミッションで培ってきた、さらにさかのぼればTC16やTC24の頃から蓄積されてきた素材や熱処理などの知識、ノウハウが投入された。

こうして2001年に市販化されたOS-88は、ドラッグマシンの間で高い装着率を誇ることになった。さらに、優れた耐久性と手厚いアフターフォローにより、サーキットマシンや第二世代GT-R以外の車両にも搭載されるケースが増えてきた。そんなユーザーニーズに合わせて絶えず改良を実施。素材や熱処理の見直しに始まり、サーキット走行時の横G対策を含めたオイルパンの容量アップやドグ歯形状の最適化など、発売から20年を迎える今でも進化を続けているだけでなく、そのノウハウが最新のFR用シーケンシャルミッション、FR-7やFR-5に注ぎ込まれているのである。

操作性を高めた強化クラッチ“ストリートマスターシリーズ”

それまで「使いこなせんヤツは買わんでもいい」というスタンスで強化クラッチを捉えていた岡﨑氏だが、時代とともにチューニングに対するユーザーの意識が変わってきたことで、強化クラッチにも扱いやすさが求められるようになってきた。そこで開発されたのがストリートマスターシリーズだ。

許容トルクを落とすことなく、半クラッチ操作性を向上させたストリートマスターシリーズは、ディスク摩材に銅などを配合した他社のカッパーミックス系とは異なり、オーエス技研の伝統であるメタルディスクにこだわっているのがポイント。その上で、特許を取得したフローティング・プレッシャー・システムという独自の機構をプレッシャープレートに採用することで、メタルディスク特有の唐突なミート感を大幅に緩和。これで半クラッチ領域を拡大し、スムーズなペダル操作性を実現。トルクを確実に受け止めるメタルディスクでありながら、渋滞時や坂道発進時のストレスを解消しているのだ。

ちなみに2000年代前半、オーエス技研ではカーボンクラッチもラインアップ。しかし、摩擦材として使えるカーボン板が存在せず、温度によってμが大きく変わる特性もあって性能の個体差が激しかった。それは、自らが手がけたパーツに対して耐久性や信頼性の高さをなによりも重んじる岡﨑氏にとって許しがたいことだった。

「個体差をなくして安定した性能を発揮できるよう3年くらい開発しとったけど、どうにもならんかった。中途半端なもんをお客さんに使ってもらうわけにはいかんから、駄目なものは駄目と見限ってカーボンクラッチはすっぱりヤメたんよ」。商売は二の次。自分が納得できるものだけを製品化する、いかにも岡﨑氏らしいエピソードである。

タイムアタック向きのFR-7とドリフト需要を想定したFR-5

第二世代GT-R用6速シーケンシャルミッションとして、すでにOS-88を擁していたオーエス技研。ドラッグレースでの使用を想定し1500ps/100kgm対応(使用条件による)とされていたが、そこまでパワーがないサーキットマシンやFR車への搭載例が見られるようになってきたことで、新たなシーケンシャルミッションが開発されることになった。それが完全新設計となる汎用FR車用ミッションのFR-7だ。

タイムアタックマシンへの搭載を前提としたFR-7は7速シーケンシャルを採用。6速が一般的になった今、大きな話題となることに加え、7速あれば1速をスタート用と割り切っても上に6速あるため、どんなサーキットにもギヤ比を合わせやすいというメリットがある。また、許容トルクは60kgmに設定。OS-88ほどの容量を持たせる必要がなかったため、軽量コンパクトな設計とされているのも特長だ。

さらにFR-7からの派生として5速シーケンシャルのFR-5も登場。一部をモジュール化することでケースはFR-7と共用し、軸間距離やドグのスライダー部などもFR-7と共通ながら、ドリフトマシンに向けたミッションだけにギヤのクロス具合よりも強度を重視しているのがFR-7との違いと言える。そのため許容トルクは90kgmを誇り、D1マシンを含めた6台のドリフトマシンでテストを行ない、耐久性や不具合の有無などをチェックしている。

既存のOS-88をリファインしながら、タイムアタックやドリフトなど新たなジャンルに向けた新作シーケンシャルミッションを送り出すオーエス技研。その原動力は、今でも岡﨑氏が抱き続ける「他にはないものを作りたい」という思いにあることは言うまでもない。

Part.6へ続く

●取材協力:オーエス技研 岡山県岡山市中区沖元464 TEL:086-277-6609

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