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残像として脳裏に焼き付いたコーダトロンカ。時を経てクルマのプロへと成長した男は、いつかの記憶に残るその像を追い求め、夢をカタチにすることに没頭していった。大阪だからこそのカスタムを、大阪だからこその地の利を活かして具現化。4スロVTECスワップにベージュ内装のフルカスタムインテリアと、贅を凝らした大人のCR-X、ここに爆誕す!
4連スロットルが快音を鳴らす美しすぎるVTECスワップ!
実力派ビルダー達の技が詰め込まれた大作
大阪府で中古車店KSセレクションを営む楠永竜也さんにとって、ホンダCR-Xは18歳で免許を取った直後、ふとした瞬間に記憶に焼き付いた思い出のクルマだ。
「夜中に国道26号線を走っていたら、シビックがまとまって走ってたんです。漫画とかの影響もあって環状族のブームが再燃していた時期でしたから。で、その中に1台だけ黒のCR-Xが混じってたんですけど、交差点を曲がる時の姿が強烈に印象に残りました」。
30代で独立した楠永さんは、クルマを販売する側として忙しい日々を送る中、不意にあの夜の26号線で見かけたCR-Xを思い出した。
とりあえず相場だけでもと物色し始めたものの、そもそもタマ数がほとんどない現実に直面。それでも運よく頃合いのEF7型Siグレードを見つけると、これは自分の一生モノにしようと決意したのである。
そんな楠永さんが、ぜひCR-Xで実現させたいと強く願ったカスタマイズが内装だった。
「摂津市にあるクオイオデザインの岡さんとは以前から知り合いだったので、頭の中にあったベージュ内装のイメージを実現してもらいたくてフルカスタムのインテリアを依頼しました」。
楠永さんが言う“クオイオデザイン”とは、フルオーダーのカスタムインテリアを手掛けるプロショップ。代表の岡 篤志さんは海外からも作業依頼が寄せられるスゴ腕の縫製職人だ。
岡さんは楠永さんのリクエストに応え、部位によってレザーとスエード調トリムを巧みに使い分け、明るさと高級感を演出していった。
その他、キッカーのスピーカーはドアパネル加工でインストールするなど、純正然とした自然さと華のある雰囲気を兼ね備える内装を実現させたのだ。
レザー張りの純正シートはCR-Xのロゴが刺繍し直されるなど、仕事の細かさが光る。
さらにマニアックなことに、メーターはEF7用とは文字盤のレイアウトが異なるEF8用にスワップされており、配線をイチから引き直すという手の込んだ作業も実施されている。オーディオデッキは、時代考証を経て真空管アンプ内蔵モデルとなっている。
岡さんとの内装の打ち合わせを重ねる過程で、せっかくならショーでアワードを取れるくらいトコトンやろうと話が進み、楠永さんは今度はエンジンルームの作り込みを決定。
その作業を依頼したのが、これまた摂津市にある“タクティカルアート”である。代表の坪内厚樹さんはエンジンスワップやワイヤータックの実績が豊富で、海外製パーツにも明るい若きビルダーだ。
元々、ZC型を積むSiのため、坪内さんが用意したエンジンとトランスミッションは、EK4型シビックに搭載されていたB16A型直列4気筒VTECと5速MT。EF型のMTはクラッチ操作がワイヤー式だが、EK型のMTは油圧式だ。そのためクラッチペダルの動きを油圧で伝える配管作業もしっかり行なわれた。
細部への拘りも凄まじく、ハスポート製のエンジンマウントをはじめ、ワッシャーなどのハードウェアは全てカッパーで統一している。
スロットルは、目の覚める吸気音を響かせるキンスラーの独立式をチョイス。インジェクターは純正で大容量化を図ることができるアキュラRDX用を使っている。
前方排気はEXマニがエンジンルームの顔ともなるが、ブラッシュドしたステンレス鋼を4-1集合させるPLMのV2マニホールドが、その役割をしっかりと果たしている。
また、B16Aの点火系は本来デスビに内蔵されたクランク角センサーで点火時期を決定するが、これをAEMのEPM(エンジンポジションモジュラー)に交換。アキュラRSX/S2000用のイグニッションコイルを使用して、ダイレクトイグニッション化を実現させている。ECUはAEMのフルコンであるEMSシリーズ2を使用。
一方のエクステリアは、ホンダ純正色のシルバーをベースとしたオリジナルの調色でオールペイント。オールドスクールな雰囲気を際立たせるフォグランプや、CR-X乗りには有名な無限のリヤスポイラーを装着しているのもポイントだ。
エキゾーストマフラーは特徴的なテールデザインで知られるサクラム製で、シンプルながらも印象に残るスタイリングを具現化した。
ホイールは、無限のビンテージホイールとして有名なCF-48の14インチディスクを3ピースのリム加工により15インチへと拡大。フロント9.5J、リヤ10.5Jのリム幅を実現させている。
足回りはファイブマートが展開する大阪JDMの車高調とロワコントロールアームを使ってローダウン。純正のクロスメンバーに換えて、イノベーティブマウントのトラクションバーキットを装着することでフロントのサスペンション剛性をアップさせているのも見逃せない。
といったように、見た目だけでなく実際に乗る時の実用性も考え抜かれ、隅々まで作り込みが施されたCR-X。Wekfestジャパンをはじめとするショーで数々のアワードを獲得し、楠永さんの掲げた目標は現実のものとなった。
「ひとまずショーに出るのは今年で一区切りだと思っています。ずっと室内保管で大事にしてきたので、これからは普段乗りする回数を増やしたいですね。CR-Xが好きになったのも街で見かけたのがきっかけですし、やっぱりストリートに走りに行きたいんです」。
街行く少年の目を奪い、いつか自分もと夢を与えるのは、今度は楠永さんのCR-Xかもしれない。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI