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若手チューナーによる野心作
トヨタ86にRB26とアテーサE-TSを移植って・・・
百万の言葉を費やすよりも、まずは写真を見てもらえば、それだけでこのクルマのユニークさが伝わるだろう。サイオンFR-S(トヨタ86の北米仕様)のエンジンベイに収まるのは、スバルとトヨタのコラボで生まれた新世代ボクサーエンジンではなく、日産が誇る名機、RB26DETTだ。
今回の主人公は、ニュージャージー州ウォリントンにあるプライム・モータリングの代表、ディミトリ・ザントス。当初FA20のファインチューンで早々に420psを達成したディミトリは、そのまま700psオーバーも視野に入れたそうだが、500psから先は不確実性が増すため、2014年10月頃からエンジンスワップを構想。当初は2JZで1000psオーバーを目指す計画で、2JZ本体と各種パーツも購入してあったらしい。
だが、ある時ディミトリの盟友であり、ビジネスパートナーでもあるジュニオール・バリオスが、ある提言を行ったことで、プロジェクトは急転直下の展開を見せることとなる。
それはガレージにFR-Sと隣り合わせて置いてあった彼のBCNR33型スカイラインGT-Rをドナーとして提供し、RB26DETTおよびGT-Rのフルタイム4WDシステム、いわゆるアテーサE-TSを含むドライブトレインごとそっくり移植してやろうというアイディアだった。
ディミトリも最初はバカげた話だと思ったそうだが、試しにエンジンを仮置きしてみたところ、想像以上にフィット…。だったらもう先に進むしかない。輸入規制によりスカイラインGT-R自体が希少な存在であったアメリカにおいて、大きなインパクトを起こせるという予感も、その時すでに感じていたのではないだろうか。
まず、エンジンとドライブトレインのマウントに関しては、プライム・モータリングのファブリケーターであるラフィが奮闘。フロント側はトランスファーを収めるため、フロア中央右側を大きくカットした後に溶接で埋めてスペースを確保した。純正のフロントサブフレームにも逃げ加工を施してある。
一方のリヤ側は、カスタムメイドのアダプターを介してリヤデフ後端と純正リヤサブフレームを結合。プロペラシャフトと前後のドライブシャフトは、寸法を合わせたワンオフを採用している。トランスファー内の多板クラッチに油圧を与えるシステムはそのまま活用し、ハイキャスはキャンセルした。
アテーサE-TSのポンプはリヤサイドに、フルードタンクはトランク内にそれぞれ移植している。
RB26本体はFR-Sにスワップする前からある程度手が加えられており、すでに900psオーバーを実現していた。ディミトリはそれを1000psオーバーまで引き上げるつもりでいるが、取材時点ではクーリングの煮詰めや最終的なエンジンチューニングに着手できず、パワーの測定はまだ行われていない。
シングル化されたタービンは地元アメリカのフォースドパフォーマンス製HTZ4294Rを採用。当初はもっと大径のものを使用する予定だったが、HKS製のEXマニとのレイアウトを考慮して、現在のサイズに落ち着いた。ウエストゲートは60mmレースエクスターナル製だ。
カスタムのダウンパイプを手がけた16w Fabworksには、ビレットのインマニ、インタークーラー、フューエルレール、キャッチタンクの製作も依頼。ビレットならではの輝きとセラミックコートが施されたヘッドカバーが織りなすコントラストは、いかにもアメリカっぽいクラフトワークを感じさせる美しさだ。
エクステリアはロケットバニーのV1ワイドフェンダーを装着し、ボディカラーにはFJクルーザーのブルーを選択。前後ライトはそれぞれウィンジェットとトムスのアイテムに交換されている。ディミトリは「コスメティックな部分に関してはまだ未完成」とのことなので、今後もなんらかの手が加えられていくことだろう。
タイヤ&ホイールは、エンケイのRS05RR(10.5J×18)とTOYOプロクセスR888(295/35-18)の組み合わせ。当初は、Belakの15インチホイールにミッキートンプソンのETストリートラジアルを履かせるというドラッグ仕様を構想していたが、ストリートオンリーでの使用へと路線変更した。
インテリアで目を引くのは、見るからにレーシーなWilwood製のペダルアッセンブリー。スパルコのステアリングホイール、Racesengのシフトノブ、ブリッドのカーボン製バケットシートなども備わる。メーターがS2000純正のデジタル式に交換されているところが個性的だ。
製作は当初のスケジュールよりは大幅に遅れてしまったものの、しっかりと形になったディミトリのFR-S。2016年6月にコネチカット州のスタッフォード・モーター・スピードウェイで開催されたスバル車の一大イベント“WICKED BIG MEET”で念願のお披露目を迎えた。
それ以来、多くのメディアで注目を浴び、人生が大きく変わりつつあることを実感しているというディミトリ。彼が経営するショップには数多くのカスタマーが訪れ、また、完成を待つ別のプロジェクトカーも多数脚光を浴びる瞬間を待ちわびている。イースト・コーストの雄、プライム・モータリングの動向には当分目が離せそうにない。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI