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アーティスティック過ぎる珠玉のエンジンルームは必見!
リヤサスはホーシング改マルチリンク化
この車両のオーナーは、“イナズマワークス”というプロジェクトネームでも知られる人物。バイクいじりに始まって、少しずつモノ作りにハマり、今ではアメリカ伝統のホットロッドにも通じるような独自のメタルワークを極めんとするプライベートビルダーだ。
これまで複数のAE86をメイクし、世に発表してきたが、今回紹介する83年式のスプリンタートレノは「表面上は純正のフォルムや定番チューニングを取り入れつつ、見えない部分ではメタル加工や海外製のレーシングパーツを駆使したショーカー」と位置づける1台である。
ベースとなったのは最初期型を意味するI型の3ドアハッチバック『GT-APEX』で、いわゆるパンダトレノと呼ばれる白黒2トーン仕様。マニアならずとも、そのままキープしたくなるような無事故ワンオーナーの極上車で、池田さんもその価値を尊重する想いから外観や内装は極力ノーマルの状態を保つよう心がけた。
イナズマワークスの真骨頂が現れるのは、ボンネットの奥にひそむエンジンルーム。エンジン本体をAE111型に搭載された4A-GE型20バルブに載せ換えること自体は定番だが、その周囲を包むフェンダーエプロンやストラットタワー、コアサポートなどは、池田さん自身がメタルワークで製作。エンジンルームを覗いた時に、すべての要素が左右対称で、かつ純正風に見えることを狙っている。
エアコンやパワステなどをデリートすることは当然として、最も腐心したのは水回りをいかに目立たなく処理するか。様々な方法を考えた結果、最終的にはゴルフIIの純正ラジエターを加工してコアサポート下に、アメリカのMEZIEREがリリースしている電動ウォーターポンプをバンパー内側に潜ませることとした。
強力な吐出量を誇る電動ポンプのおかげで取り回しの自由度が上がり、ホースがフロントメンバーを貫通してエンジンに向かい、再びリターンする独自のウォーターラインを構築している。
エンジンはバイク用のパーツを流用したFCRキャブ仕様でありながら、ハルテックのフルコンで点火系(他車種流用のダイレクトイグニッション)を制御し、始動性も確保。配線にミルスペックワイヤーを使用する、アナログとデジタルが同居した吸気&点火レイアウトも実現させた。
ホイールは懐かしのドリドリメッシュをリペアして装着。サイズはフロントが9.0Jマイナス15×15インチ、リヤが9.0Jマイナス27×15インチだ。
車高調は和歌山県御坊市にある日正タイヤに依頼したフルオーダー品。フロントは最初からロワブラケットを傾けてネガティブキャンバーが付くように作ってあり、アッパーマウントのスライド調整機構も備わる。
リヤは純正のホーシングをキャンセルし、S15シルビアのリヤマルチリンクを移植。オリジナルの調整式アームを製作すると同時に、片側60mmのナロー化とメンバー取り付け位置の50mm嵩上げを行って、理想の車高を追求した。プロペラシャフトはAE86とS15のニコイチで製作してある。
貴重な純正内装は極力キープ。運転席のBRIDEジータIIIは、ボトムフレームにボンネットを支える伸縮棒を固定できる。
エンジンルームからマスターシリンダーを除去するため、チルトン600シリーズの吊り下げアッセンブリーペダルを装着している。
グローブボックスには点火系の制御のみに使用するハルテック・エリート550を忍ばせ、メーターもハルテックのIC-7を使用する。センターコンソールに収まるスイッチは電動ウォーターポンプ、電動ファン、燃料ポンプ用。
前期型の純正リップスポイラーとマッドガードが付くエクステリア。ノーマルの佇まいを保ったまま理想の車高を追求した仕様だ。
「プレステのレーシングラグーンっていうゲームがあるんですけど、主人公が初期設定で乗ってるのがAE86だったんです。そのカタチに惹かれて好きになりました(笑)。AE86本来のカッコ良さをショーでアピールできるよう極限まで突き詰めた仕様ですね」とオーナー。その真意は、写真からも伝わるに違いない。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI