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アメリカでは28箇所のサーキットで記録を保持!
マシンメイクは想像以上に普通だった・・・
2024年シーズンの日本のタイムアタックシーンにおいて、最も注目を集めたのは間違いなくこの男だろう。アメリカのテキサスを拠点に活動するタイムアタッカーであり、初来日で臨んだ筑波サーキットで51秒231をマーク。見事、チューニングカーランキング歴代3位入りを果たしたフェラス・カルトゥーミだ。
現在36歳のフェラスは、祖国アメリカで28個ものコースレコードを保有する強者。20代の頃は、1972年製のシボレーノヴァでオートクロス(ジムカーナに近い競技)にハマっていたそうだ。
2017年頃からサーキットタイムアタックにシフトし、同時にマシンを現在のC6コルベットZ06に変更。2023年はオーストラリアで行われる世界的タイムアタックイベント“WTAC”にも参戦するなど、活動範囲をアメリカ外まで拡げている。今回の筑波遠征もその一環だ。
あまりの速さから、一部では「ベースはレーシングカーなのでは…」という噂まで流れていたわけだが、実車は純然たるチューニングカー。「街の中古車屋で買ったクルマだよ(笑) 僕はアメリカ人だからアメ車で走りたかったんだ。チューニングベースとして考えた時に、一番優れた素材がC6のZ06だった」とフェラスは語る。
エンジンはLSXをベースにLME(Late Model Engines)が製作した7.0Lのドライサンプ仕様となる“LSR”。ピストンはダイアモンドピストンズ製、コンロッドとクランクシャフトはキャリーズ製のムービングパーツを投入する。そこにG35-900タービンをツイン武装。最高出力は1300psに達しているが、エンジンのキャパシティとしては2000psも可能だという。
なお、今回の遠征ではブーストカットが入る症状が出てしまい、ローブーストの1100ps状態でしか走ることができなかったそう。不完全の状態で、51秒台入りを果たしていたわけだ。
タービンは左右のフロントタイヤ後部に1基ずつマウントされるが、このエキゾーストパイプはフェラスによるDIY作品。聞けば、「エンジン以外のパートは基本的にDIY。なるべくボルトオンでやるのも拘りなんだ」とのこと。
注目は前後の足回り。ペンスキーレーシング製のコイルオーバーキットや調整式のスタビライザーが投入されているものの、アーム類は前後ともにノーマル。パイプフレーム化によってサスペンションジオメトリーを変更しているアタックマシンも少なくない中、フレームまで純正のままなのだから驚かされる。ブレーキはフロントが6ポット、リヤ4ポットのアルコン製システムを導入。
ホイールはフィンスピード製のオリジナルモデル。タイヤはフロント335/30R18&リヤ345/30R18のフージャーDOTラジアルA7(筑波ではSタイヤ扱い)を履く。
純正の内張り類は全て撤去した上で、ロールケージが張り巡らされたレーシーなインテリア。しかしながら、この手のマシンには珍しくABCペダル類は純正のまま。ミッションはPPGの6速シーケンシャルで、近年主流になりつつあるパドルシフトは備えていない。
「パドル操作よりも通常のシフト操作の方が慣れている。それに後付けのパドルシフトは制御面でのトラブルも起きがちだからね」とはフェラス。
駆動系はミッションがPPG製とされているのみで、プロペラシャフトやドライブシャフト、デフに至るまでZ06純正。それだけ、チューニングベースとしての素性が良いということなのだろう。
外装はHGKのカーボンケブラー製キットを投入。フェンダー形状はZ06純正に準拠しているため、ワイドボディ化はされていない。フロントのリップスポイラーやリヤウイングはカーボン製で、これはフェラスの自作。車重は1300kg弱だ。
昨今の筑波レコードブレイカー達に比べると、最高出力以外は至って控え目なチューニングスペックと言えるコルベット。速さの秘密について尋ねると、フェラスは笑いながら「僕にも分からない。ただ一つ言えるのはフージャータイヤが最高ってことさ」と答えてくれた。
続けて「今回はファイヤー安藤さんとアンダー鈴木さんの記録に叶わなかったから、来年リベンジしたいと思ってる。現在製作中のコルベット2号機を持ち込む予定だよ!」。
フェラスが現在製作しているコルベットは、ベース車こそ同じC6型Z06だが、チューニングレベルは全くの別物。パワーは1600psオーバーで、電子制御のパドルシフトシステムやワイドボディ化など、全方位に手を入れた最強スペックとなるそうだ。
まさに黒船襲来。筑波の最速争奪戦に突如として現れた超大型ニューカマーの、さらなる躍進に期待したい。
PHOTO:金子信敏
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